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会社法の変更点は?改正の背景や目的などを詳しく解説 | ESG Times

2019年12月11日に会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号、以下「改正法」)が交付されました。

この改正法は2021年3月より施行されており、企業も順次対応を進めています。

今回はこの改正法について、改正の背景な内容、企業に求められる対応について詳しく解説していきます。

会社法とは

会社法とは、法務省が所管する会社の設立や運営、会社の仕組みなどについて定めた法律です。
会社を設立する時はもちろん、解散する時においても必ず従う必要があります。

会社法は2006年に施行され、2015年の改正を経て現行のものに至ります。

会社法は固有の法律であり、主に以下の3点を目的としています。

  1. 会社の取引相手を保護するため
  2. 利害関係者の利益を実現するため
  3. 法律関係を明確にするため

会社法に準じた経営はコーポレートガバナンスの観点においても非常に重要なものです。
経営者はもちろん、会社運営の実務に携わる担当者は法律の内容をぜひ押さえておきましょう。

コーポレートガバナンスについてはこちらの記事で解説しています。

会社法改正の背景と目的

では、2021年3月に施行された会社法の改正はどのような背景で何を目的に行われたのでしょうか。

今回の改正においても主な目的は、2015年に施行された前回の改正に引き続き、コーポレートガバナンスの強化です。

法務省は改正の目的について以下のように述べています。

会社をめぐる社会経済情勢の変化に鑑み、株主総会の運営及び取締役の職務の執行の一層の適正化等を図ることを目的とするものです。これにより、日本企業のコーポレート・ガバナンスが更に向上し、日本企業の競争力や日本企業に対する内外の投資家からの信頼がより高まり、ひいては、日本経済の成長に大きく寄与するものと期待されています。

出典:法務省

近年、ESG投資に注目が集まっていることからも、今まで以上にコーポレートガバナンスの強化が求められています。

しかし、諸外国に比べ日本のコーポレートガバナンスは課題も多く残されているため、日本企業の競争力向上や国内外からの投資の呼び込みを目的に、政府はガバナンスの強化につながる施策を積極的に打っています。

会社法改正もその手段の1つであり、詳細は後ほどご紹介しますが、今回の改正内容についても、取締役などによる企業経営に対するルールの整備や、株主との対話に関するものなど、ガバナンスに大きく影響する内容が含まれています。

ESGについてはこちらの記事で解説しています。

改正会社法の変更点

改正法について、変更内容を見ていきましょう。
主な改正のポイントは以下の通りです。

1.株主総会資料の電子提供制度の創設
2.株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備
3.取締役の報酬に関する規律の見直し
4.会社補償および役員などのために締結される保険契約(D&O保険)に関する規律の整備
5.社外取締役に関する規律の見直し
6.社債の管理に関する規律の見直し
7.株式交付制度の創設
8.その他

※改正法の全内容は法務省のHPに掲載されていますので、こちらをご覧ください。

ここからは、改正の目的であるコーポーレートガバナンスに特に影響のある1〜5について、詳しく解説していきます。

変更点①:株主総会資料の電子提供制度の創設

株主総会資料の電子提供制度は、今回の改正で新設された内容です。
改正法の第3款、新法325条の2以下において「電子提供措置」として定められています。

電子提供措置

「電子提供措置」とは、株主総会の参考書類などを企業ホームページなどのウェブ開示で代用できるようにすることです。

これまで総会で使用する書類は原則書面にて株主に送付することになっていましたが、電子提供措置の適用により、書面で送付する株主総会の招集通知にも書類を掲載しているウェブサイトのURLなどを掲載すれば良いことになりました。

書面交付制度

電子提供措置制度を適用するとなると、インターネットにアクセスができない株主のケアも必要になります。

そこで改正法では「書面交付請求」の制度も定めています。

具体的には、書面交付請求を受けた会社の取締役は、請求した株主に電子提供措置事項を記載した書面を交付する必要があります。また、基準日制度を設けている場合は、基準日までに書面交付請求をした株主に限り書面交付をする義務を負います。

電子提供措置の中断

電子提供措置の項目では、書類を掲載したウェブサイトがダウンするなど、正常に機能しなくなった場合(=電子提供措置が中断された場合)も想定しています。

電子提供措置が中断され、株主が情報収集できなくなってしまった場合でも、電子提供措置の効力に影響を及ぼさないことを改正法にて明言しています。

変更点②:株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備

株主提案権の氾濫的な行使を制限するための措置の整備についても、改正法305条4項にて新設されています。

具体的には、株主が1つの株主総会において議案の通知を請求することのできる議案の数を10までと定めています。

その背景としては、近年1人の株主が大量に議案を提出するなどの株主提案権の濫用が頻発しており、これらを抑制する何かしらの歯止めが必要になっていたためです。

実際、2012年に野村ホールディングスに対して、ある株主が100個もの株主提案を提出したという事例がありました。この時は結局会社が18個の議案を選んで株主総会の議案として取り扱ったことがあり、話題を呼びました。そのほかにも、非常に多くの数の株主提案を受けた企業が散見され、株主が株主総会の招集通知への掲載を提案できる議案の数を制限すべきではないのかという点は、従来より課題になっていたのです。

ただし、注意したいのは、今回の改正によりなされたのはあくまでも議案の通知を請求についての制限であり、議場において提案する議案の数に対する制限ではありません。株主総会当日に何が起きるか分からないという点は依然としてありますので、その点は注意しましょう。

仮に、1人の株主から10を超える議案が提出された場合は、原則取締役がどの議案を取り上げるかを決定することになりますが、株主が議案を提出する際に優先順位を定めている場合は、取締役はこれに従う必要があります。

変更点③:取締役の報酬に関する規律の見直し

取締役の報酬については、コーポレートガバナンス・コード(CG)の影響を大きく受ける項目です。

先述の通り、ガバナンスの強化という観点から、CGについても2021年の4月に金融庁より改正内容が公表されています(施行は6月を見込んでいます)。

取締役の報酬の決定方針の策定義務

改正法361条7項において、一定の要件を満たした会社の取締役会における個人別報酬の決定方針の策定が義務化されました。

具体的には、監査役会設置会社(公開会社かつ大会社に限る)であって金商法24条1項の規定により有価証券報告書を提出する必要のある会社(いわゆる上場会社)、または監査当委員会設置会社における取締役会は、個人別の報酬等の内容の決定方針として法務省令で定める事項を決定しなければならないというものです。
※ただし、個人別の報酬等の内容が定款または株主総会において決定されている場合を除く。

株式・新株予約権の数の上限などを株主総会の決議事項に追加

改正法361条1項3号・4号では、取締役の報酬として株式・新株予約権を付与する際には、定款・株主総会の決議において株式数の上限を定めることが義務付けられました。

事業報告の充実

事業報告の記載内容は会社法435条2項に規定されていますが、今回の改正によって、報酬に関する記載充実化を図る動きがあります。

具体的には、報酬の決定方針や報酬に関する株主総会での決議事項報酬として交付した株式や新株予約などについて、事業報告に盛り込む方針です。

変更点④:会社補償およびD&O保険に関する規律の整備

改正法430条にて、会社補償D&O保険についての項目が新設されています。

D&O保険とは、主に役員が職務執行の結果、株主代表訴訟などの損害賠償請求がなされ、責任を追わなければならなくなった場合に、その役員が負担する損害賠償金などを、一定の範囲で補填する内容の会社と保険会社との間の契約を指します。

会社補償

会社補償とは、 役員などが被った損害に対して費用の全部または一部を会社が補償することです。

例えば想定されるものとして、責任追及の訴えなどの対応に必要な弁護士費用などが挙げられます。

ただし、役員が会社に損害を与える目的で不正を働いた場合は、上記に該当しないといった制限も設けられています。

また、実際に会社補償を行った場合、 補償を実行した取締役および補償を受けた取締役は、遅滞なく補償内容について取締役会に報告することも合わせて定められています。

D&O保険

従来の会社法下においても、役員のために会社が保険契約を会社負担で締結することは行われていました。

しかし、役員の利益となる保険の保険料を会社が負担することが利益相反取引にならないかといった点について、会社法上の位置づけが不明確であるという課題がありました。

このため、今回の改正で規定を明文化し、D&O保険の契約内容を決定するには、株主総会の決議によらなければならないとしました。
※取締役会設置会社の場合には、取締役会により契約内容を決定可。

変更点⑤:社外取締役に関する規律の見直し

従来の会社法では、上場会社が社外取締役を置かない場合に、株主総会にてその理由を説明することを求められる形で、間接的に選任を促す内容となっていました。

ただ、社外取締役の選任については、CGにて独立役員の確保が義務付けられており、ほとんどの上場会社では既に社外取締役が選任されている状態でした。

こうした状況を踏まえ、改正法327条2項にて上場会社は社外取締役を置くことを正式に義務付けています。

会社法改正による株主や投資家の関心

会社法改正によって、株主や投資家はどういった点に関心を寄せているのでしょうか。

ここまでご紹介してきた通り、今回の会社法改正はコーポレートガバナンスを意識した内容が多くなっています。

よって、株主や投資家の関心も、いかに企業がコーポレートガバナンスを遵守することができているか、具体的には以下の観点に関心が向けられていくことが考えられます。

  1. 合理的で賛同できる株主提案
  2. 役員報酬の適切な情報開示
  3. 社外取締役の位置付けの明確化

企業はこうした株主や投資家の関心の動向を踏まえつつ、新しい会社法に則った運営を行なっていく必要があるでしょう。

求められる企業の対応

今回の改正法では、社外取締役の選任など、既に多くの企業で取り組みがある内容も含まれています。

しかし、コーポレートガバナンスの強化という観点では、日本だけではなく諸外国の水準も睨みつつ、さらに高いレベルでの要求を見据えておく必要があります。

欧米諸国の会社法制概要(日本の今次会社法改正に関わる分野)
出典:みずほ総合研究所

一方、役員報酬の情報開示については、経済産業省が実施した東証上場企業向けのアンケートで「経営陣幹部の報酬の具体的な算定方法(支給基準)を定めている企業は7割弱で、うち社外取締役への支給基準の(情報)共有は7割」という調査結果(2018年時点)が出ています。

100%の企業が達成できていないということであれば、今後対応が求められる企業もまだ存在しているはずです。

先述の通り、社外取締役の選任や役員報酬の情報開示は株主や投資家からはより一層注目が高まっている項目となっていますから、企業の経営者はもちろん、実務担当者は会社法やCGの内容をよく理解し、体制の構築を行なっていく必要があるでしょう。

ガバナンスの強化に向けた会社法の改正を理解しよう

今回は、2021年3月に施行された会社法の改正について、その背景や内容を解説してきました。

改正法には、ESGのGにあたるガバナンスの強化を目的とした内容が盛り込まれており、日本企業の競争力向上国内外の投資の呼び込みを意識したものであることが分かります。

特に、株主総会や取締役会での対応に関連するものが多いため、実務的な対応を求められる部分も多くあります。

今回ご紹介した改正内容を踏まえ、現状できていることとこれから対応すべきことを整理した上で、適切な対応を取るようにしていきましょう。

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