経済が成長するにつれて地球の環境は急速に破壊の一歩を辿っています。
その中でも地球温暖化や森林破壊と並んで問題なのが、海洋汚染です。
近年有害物質やプラスチックごみの流入が原因となり、海の生態系を破壊する海洋汚染が急速で進んでいます。
今回はその主な原因であるプラスチックへの依存脱却方法を考えるとともに、海洋汚染についてご紹介します。
海洋汚染とは?
海洋汚染とは、海洋生物や人間にとって有害になる物質を人間自身が海に持ち込んだり流し込んだりすることです。海洋汚染にはプラスチックやペットボトルが浮いているような見える汚染と、ダイオキシンの流入のような見えない汚染があります。
海洋汚染は最近になって急激に増えたわけではなく、およそ60年前から少しずつ蓄積してきた結果で今に至っています。海洋汚染は世界の産業発展と切っては切れぬ関係にあり、世界でエコが叫ばれる現在も着実に進行している問題です。
海洋汚染の定義
海洋汚染は1994年発効の「国連海洋法条約」の中で次のように定義されています。
「生物資源及び海洋生物に対する害、人の健康に対する危惧、海洋活動(漁業その他の適法な海洋の利用を含む)に対する障害、海水の利用による水質の悪化及び快適性の減少というような有害な結果をもたらし又はもたらすおそれのある物質又はエネルギーを、人間が直接又は間接に海洋環境(河口を含む)に持ち込むことをいう」
国連海洋法条約 海洋環境の汚染の定義より
国連海洋法条約(UNCLOS)は2019年4月現在168の国や地域が批准しており、海でつながった世界全体の普遍的な条約として位置づけられています。
海洋汚染とSDGs14
海洋汚染に対する世界的な取り組みの1つがSDGs14です。SDGs(Sustainable Development Goalsの略)は「持続可能な開発目標」を意味し、2015年9月に国連サミットで採択されました。
SDGsは17の目標から形成され、SDG14はその14番目の「海の豊かさを守ろう」という目標に当たります。SDG14は海洋資源を持続可能な形で利用するために必要なターゲットが10個記載され、その中に「海洋汚染の防止・削減」の項目が存在します。
SDGs14は2030年を目標の期限としており、今後のさらなる努力が必要な分野の1つです。
海洋汚染の原因
海洋汚染の原因は海洋ごみと有害物質の流入の2つが大半を占めます。海洋ごみはペットボトルやビニール袋などのプラスチック、有害物質は工場・生活排水に含まれる有害な液体のことです。特に近年、問題視されているのがプラスチックごみの中でも非常に小さいマイクロプラスチックの存在です。
ここからは海洋汚染の原因として考えられる「海洋プラスチックごみ」「マイクロプラスチック」「不法投棄」「船舶事故」「工場・生活排水」について1つずつ説明します。
海洋プラスチックごみ
海洋プラスチックごみは「個人の生活や経済活動によって発生したプラスチックごみが海に流れ込んだもの」のことです。水分補給のためのペットボトルやストロー、食物を入れるためのビニール袋はプラスチックごみの代表格です。
プラスチックごみは海中で分解されることがなく、半永久的に海上を漂い、やがてどこかの国の海岸に漂着します。
このようなプラスチックごみを「漂着ごみ」と呼び、日本でも31万~58万トン(2014年時点)の漂着ごみが蓄積されている状況です。(参照:環境省「海洋ごみとマイクロプラスチックに関する環境省の取組」)
このままプラスチックごみの流入が続くと、2050年にはプラスチックごみの数が海洋生物の数を超えると推測され、世界的に問題視されています(2016年世界経済フォーラム:ダホス会議より)
マイクロプラスチック
マイクロプラスチックは直径5mm以下の微細なプラスチックのことです。マイクロプラスチックは製造時点で微細なものを「一次マイクロプラスチック」、ごみとして廃棄された後に劣化して微細化したものを「二次マイクロプラスチック」と呼びます。
一次マイクロプラスチックには洗顔料や歯磨き粉のスクラブ剤として利用されるマイクロビーズやプラスチック製品を作るときのペレットがあります。マイクロビーズやペレットは私たちの生活に身近なものですが、使い終われば排水やごみとして処理される物質です。
マイクロプラスチックは海洋生物が無意識に摂取する可能性が高く、海中の生態系に深く関係します。さらにマイクロプラスチックを摂取した海洋生物を人間が捕食すれば、人体に影響がでることもあり得ない話ではありません。
※マイクロプラスチックの大きさに明確な決まりはなく、専門家によっては1mm以下のプラスチックをマイクロプラスチックと呼ぶことがある。
不法投棄
釣り人による釣り糸や浮きの投棄、ゴーストネットが海洋汚染につながると話題に挙がっています。釣り糸やゴーストネットが海洋生物に絡まると、身動きが取れなくなり溺れてしまう海洋生物も出てきます。
ペットボトルやビニール袋を含めたごみの不法投棄は世界で多く見られ、廃プラスチックの60%近くが不法投棄されているとデータで示されています(参議院常任委員会調査室・特別調査室「プラスチックごみをめぐる最近の動向」2018 より)
ごみの不法投棄は海中だけでなく、海岸の景観にも悪影響を与えるため不法投棄を取り締まる条例を独自に出す自治体が増えています。
船舶事故
船舶事故による油の流出は海洋汚染の原因の1つです。船舶が座礁し、油が一旦流れ出すと海中から油を除去することは難しく、海洋生物の生命にかかわります。
海上保安庁の調べによると、船舶からの油流出は事故に限った話ではなく、メンテナンスの不備から起こることも多いとされています。例えば、バルブが閉じていなかったとかタンクの確認を怠ったなどがメンテナンス不備の内容です。
2018年に起きた船舶からの油流出件数は165件ありましたが、そのうちの67件はメンテナンスの不備が原因でした。油流出の主な原因が人為的なものである事実は、人間の環境問題への意識の低さを露呈する形となっています。
工場・生活排水
工場排水や生活排水の中にある有害物質は、海洋生物に深刻的なダメージを与える原因の1つです。例えば、カドミウムや水銀、鉛は有害物質で海洋生物の命を奪う可能性を秘めています。この有害物質の怖いところは目に見えない点です。
一見綺麗に見える海が有害物質に侵されていたという事例も多く、特に工場地帯のある海では細かく水質を調査し安全が図られています。ですが、未だに工場排水が原因の赤潮が発生している地域もあり、さらなる環境保全の取り組みが急務になっています。
海洋汚染の及ぼす影響
海洋汚染は「海洋生物」「人体」「経済」の3つに悪い影響を与えます。人は海洋生物を捕食し、経済は人によって成り立つため「海洋生物」「人体」「経済」は一直線につながりを持っていると考えられます。
海洋汚染によって「海洋生物」に悪影響が出れば、間違いなく一直線につながった「人体」「経済」も悪影響に見舞われるわけです。
悪影響①:海洋生物の生態系破壊
海洋汚染で真っ先に心配されるのが海洋生物の生態系破壊です。最近もビニール袋を間違って飲み込んでしまったウミガメや大量のペットボトルを摂取し命を落としたクジラが各地で発見されています。
イギリスのプリマス大学の海洋学者であるGall博士とThompson教授が2015年に発表した論文によると、世界で約700種の海洋生物が海洋ごみで死傷しているそうです。
身近な日本でも海洋汚染を感じることができます。それが沖縄に生息するサンゴの死滅で、原因は地球温暖化による水温上昇とともに、海洋の酸性化による石灰化機能の低下が挙げられています。
このように人間が持ち込んだ海洋ごみによって海洋生物の生態系は崩れているのです。
悪影響②:人体への悪影響
海洋汚染は人体に悪影響を与える可能性があります。汚染された海を泳ぐ魚を捕食するわけですから悪影響が無いわけはありません。
例えば、海洋生物が命を落とす原因となっているマイクロプラスチックは有害で捕食者が大きくなればなるほど濃度を増していきます。マイクロプラスチックを摂取した小魚を人間が大量に捕食することで、人間の体内にマイクロプラスチックが高濃度で蓄積するサイクルです。
海洋汚染による人体への影響と言えば、水俣病を思い起こす人も多いかもしれませんが水俣病はメチル水銀が海へ流入したことが原因でした。現在は当初と比較して、水質保全や浄水技術が確保されていますが、このままマイクロプラスチックを野放しにしておくのは問題です。
悪影響③:経済への悪影響
海洋汚染は経済に悪影響を与える可能性もあります。海洋汚染によって海洋生物の絶対量が減少、汚染された海洋生物の増加が起きたら水産業は破綻するからです。
海洋生物を捕獲することができなくなれば、当然漁業は衰退し、漁師は職を失います。今まで魚介類を貿易の核としてきた国では、経済がうまく回らなくなることも考えられます。
このように海洋汚染は経済といった間接的な部分にも影響を与える可能性があるのです。
海洋汚染対策を行う企業事例
日本を始め、世界の多くの企業で海洋汚染対策が行われています。ここで「マクドナルド」「OLCグループ」「商船三井」の3社の事例を見ていきましょう。
マクドナルド
マクドナルドはプラスチックごみの対策として次のような努力をしています。
- 2016年からアイスコーヒーのカップをプラスチックから紙製に変更
- 2018年から1ドリンクのみを入れるプラスチックバッグを導入。素材も植物由来の原料を使ったポリエチレンに変更
- 2020年にプラスチック資源循環実証事業を実施。プラスチックごみを低炭素なエネルギーとして再利用することを検討
- ハッピーセットのおもちゃリサイクル(2019年はおよそ340万個のおもちゃの回収に成功)
OLCグループ
OLCグループはビニール袋の有料化を実施して、マイバッグの促進を促しました
- 2019年3月からテーマパーク内のレストランやホテルで紙製のストローを使用
- 2019年9月からディズニーシー内のビアカップをプラスチックから紙製に変更
- 2020年10月からテーマパーク内のお買い物袋を有料化
商船三井
商船三井は船舶事故による海洋汚染の防止を中心に海洋保全に努めています。
- 衝突安全性に優れた「エヌセーフハル」を採用し、船舶の安全性を確保
- 船内のプラスチック類は陸揚げして適切に処理
- 「プラスチック・スマート」フォーラムに参加し、プラスチックの削減を実施
個人で行える海洋汚染対策
個人で行える海洋汚染対策は「エコラベル商品の利用」「ごみ拾い」「エコ活動」の3つが挙げられます。いずれの対策も「3R(Reduce Reuse Recycle)」を意識することで続ける気持ちが強くなります。
エコ活動をする場合も、何となくではなく自分の活動で世界の海洋汚染が食い止められると考えれば楽しく活動できるでしょう。
海洋汚染の対策は世界の重要課題
今回は海洋汚染の原因や及ぼす影響について解説しました。海洋汚染は海洋生物だけの問題ではなく、人間の暮らしに悪影響を及ぼすことが理解できました。
海洋汚染の原因であるプラスチック製品を紙製にする動きはすでに企業で実施され、今後の効果が期待されています。消費者の意識を変えるためにも企業の努力は重要事項と考えてよいでしょう。
ESG全体について知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。