ジェンダーギャップ指数などで大きな遅れが指摘されている日本。一体どの程度の遅れがあり、女性の社会進出への取り組みはどのように進められてきたのでしょうか。日本で取り組みが遅れている原因や少子化との関係、女性の社会進出によるメリット、企業の取り組み事例を解説します。
女性の社会進出とESG
近年、出産・育児休暇の取得率向上や生理休暇の導入、フェムテックへの注力など、女性の社会進出の重要性を伝えるニュースを日常的に見るようになりました。
世界的に見ても、国連が2006年に提唱した「ESG」や2015年に採択した「SDGs(持続可能な開発目標)」にあるように、女性の社会進出は重要であると位置づけられています。
ESGには「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の3つの観点がありますが、女性の社会進出が深く関わっているのが「S」にあたる社会を意識した経営。男女で平等な採用形態や待遇、産休・育休の充実などが求められています。
もちろん、企業のESGを意識した経営を評価して投資を行う「ESG投資」にも大きな影響を与えます。
社会を意識した経営について、詳しくは以下の記事で解説しています。
データで見る女性の社会進出
女性の社会進出に関する現在の状況を見ると、取り組みが大きく進んでいる国・地域とあまり進んでいない国・地域があることが分かります。
早速、データとともに世界の状況と日本の状況を見てみましょう。
世界で進む女性の社会進出
女性の社会進出がどれほど進んでいるかを知るひとつの方法は、世界経済フォーラム(WEF)による「世界ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender Gap Report)」を見ることです。
この報告書では各国のジェンダー平等の度合いを示したジェンダーギャップ指数(GGI)が発表されるため、毎回とても話題になります。
2021年のGGI上位国は下表のとおり。上位10か国は、いずれも前年のポイントを上回りました。
【GGI上位国 TOP10】
順位 | 国・地域名 | GGI | 順位 | 国・地域名 | GGI |
1位 | アイスランド | 0.892 | 6位 | ナミビア | 0.809 |
2位 | フィンランド | 0.861 | 7位 | ルワンダ | 0.805 |
3位 | ノルウェー | 0.849 | 8位 | リトアニア | 0.804 |
4位 | ニュージーランド | 0.840 | 9位 | アイルランド | 0.800 |
5位 | スウェーデン | 0.823 | 10位 | スイス | 0.798 |
11位以下の主要国と日本の近隣国については、以下のような結果となりました。
【主要国と日本の近隣国の順位】
順位 | 国・地域名 | GGI | 順位 | 国・地域名 | GGI |
11位 | ドイツ | 0.796 | 30位 | アメリカ | 0.763 |
16位 | フランス | 0.784 | 81位 | ロシア | 0.708 |
23位 | イギリス | 0.775 | 102位 | 韓国 | 0.687 |
24位 | カナダ | 0.772 | 107位 | 中国 | 0.682 |
2021年のGGIランキングで躍進したのは、ヨーロッパの共和制国家であるリトアニアです。前回25位からポイントを0.059上げ、8位となりました。
リトアニアが躍進した大きな理由は、女性大臣の比率が0%から42.9%になったこと。議会での女性の割合も21.3%から27.7%に上昇し、労働においても女性の77.2%が働いているというデータが得られました。専門職や技術職の69.5%を女性が占めているとのことです。
以上の内容を示しているのが、下の画像です。
リトアニアの躍進は、政治における女性の活躍が社会における女性の活躍に大きな影響を与えることが分かる事例といえるでしょう。
日本における女性の社会進出状況
一方、GGIにおける日本の順位は156か国中120位です。下の画像にあるとおり、教育や健康の分野では高スコアとなっているものの、経済と政治で課題が見られる結果となりました。
特に政治は世界平均を大きく下回るスコア。議会に占める女性の割合はわずか9.9%、大臣職における女性の割合も10%、女性総理大臣にいたってはこれまで1人も出ていません。
さらに、2021年版「男女共同参画白書」でも、2020年からのコロナ禍における雇用の男女格差を問題視しています。
雇用情勢の悪化では女性の雇用形態として多い非正規雇用労働者の失業が増加。2020年の感染拡大第1波では、男性の就業者数が1か月あたり最大で39万人減少したのに対し、同時期の女性の就業者数は70万人減少しています。
女性の自殺者数でも、下のグラフのように、男性が前年より減少しているのに対して女性は935人の増加。特に増えたのが、コロナ禍が長期化した2020年7月以降でした。
こうした中で、配偶者による経済的・精神的DV、ひとり親世帯や女性の貧困、テレワークが増えても家事分担が女性に偏るといった状況も問題視されました。
日本における女性の社会進出の歴史
女性の社会進出にさまざまな課題が見られる日本ですが、これまでどのような取り組みを行ってきたのでしょうか。
明治時代から現在までの日本における女性の社会進出の歴史を振り返ってみましょう。
明治時代
明治時代の日本は近代国家を目指して多くの変化がありました。若い女性が富岡製糸場をはじめとする繊維産業で働く様子を教科書で読んだ人も多いでしょう。
ただ、多くの女性は農業に従事しつつ家事・育児も担うという状況。きちんとした教育を受けないまま奉公に出る女性も多く、師範学校まで進学する女性は「結婚できない理由」をウワサされるような社会でした。
働く女性も結婚を機に退職するのが基本。結婚後も働き続けていると親戚などから「いつまで働かせるつもりだ」と悪く言われることが多かったようです。
民法の「家」制度もあり、女性は社会的に極めて低い地位にありました。
大正時代・昭和初期
1900年代になると、日本の工業化と都市化が進みます。
働く女性も増えて「職業婦人」という言葉が登場しました。職業婦人が従事したのは、事務、医療、教師、販売員、タイピストなどです。
しかし、女性が働くことへの偏見は根強く、やはり結婚をきっかけに退職するのが一般的でした。
昭和前期
昭和前期には戦前日本における最も深刻な恐慌となった「昭和恐慌」がありました。
昭和恐慌後、日本の産業構造の中心が軽工業から重化学工業へ変化。夫婦で働く家庭も増え始めます。
当時に特徴的な女性の職業としては、婦人車掌、エレベーターガール、エアガール、コンパニオンなどがありました。
やがて戦争が始まると、徴兵される男性と戦争の影響で「産めよ殖やせよ」という国策が始まります。同時に、学生から既婚の人まで、多くの女性が働くようにもなりました。工場化された女子校の写真を見たことのある人もいるでしょう。
しかし、女性が結婚退職をする場合、退職手当を受け取るには「婚姻証明書」の提出が義務づけられるなど、男性とは異なる扱いが見られます。一部の銀行では女性に限って28歳定年制を実施して大きな問題となりました。
昭和・戦後10年
第二次世界大戦後の1946年、日本では失業者が急増します。男性の職場確保のために女性や年少者を解雇する企業が多く見られ、問題となりました。
一方で、民主主義国家としての改革が行われ、女性の社会進出に向けた本格的な取り組みも始まります。婦人参政権の実現、男女平等を定めた憲法の制定、「家」制度の廃止、男女共学の実現などもこの頃です。
日本経済の復興において、繊維産業だけでなく多様な産業の事務・販売などで女性の社会進出が進みました。
昭和・高度経済成長期
国の経済的発展と国民の生活レベル向上を目指す社会になると、「外で働く夫」「家庭を守る主婦」という考え方が増えていきます。
女性が働くのは、学校を卒業してから結婚するまで。結婚後も働き続けることはまれで、女性が結婚したことを理由に解雇する事業主も見られました。しかし、結婚を理由とする女性の解雇に対しては、1966年に違憲判決が下っています。
その後、既婚女性は正社員ではなくパートタイム労働者として働くようになります。若い労働力の不足を補うとともに、家電製品の普及で家事の負担が軽減したことが背景にありました。
男女雇用機会均等法施行から現在まで
1986年、いよいよ日本で男女雇用機会均等法が施行されます。女性労働者が増加するとともに、就業意識も向上していきました。
1999年には改正男女雇用機会均等法および改正労働法の施行により、性別を限定した求人を禁止。セクシャルハラスメント防止措置も義務づけられました。
2000年には、男女共同参画社会基本法が施行。男女共同参画社会とは「男女が、互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い、性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる」社会です。
近年は、「働き方改革」やダイバーシティ&インクルージョンなど、性別にかかわらず働きやすい職場や社会の形成への取り組みが進められています。
国でも民間企業を対象にさまざまな制度を導入。女性が活躍する企業や銘柄、育児に配慮した制度の運用実績がある企業などを認定してきました。
女性の社会進出と少子化の関係
ここで、女性の社会進出と少子化の関係を少し考えてみましょう。
女性の社会進出は、ときとして少子化の加速に関係していると言われることがあります。実際、女性の社会進出が少しずつ進んでいる近年の出生率を見ると、2019年は女性1人あたり1.36人、2020年は1.43人となりました。
女性の社会進出と少子化の関係に関する議論は、決して新しいものではありません。平成16年版「少子化社会白書 第2節 少子化の原因の背景」でも言及されています。しかし、この時点ですでに「働く女性の増大が直ちに出生力の低下をもたらすわけではない」という結論を出していました。
同白書で少子化の大きな要因と考えられたのは、「家庭よりも職場を優先させることを求める固定的な雇用慣行や、それを支える企業風土の存在」や「固定的な男女の役割分業意識あるいは保育サービスの整備の不十分さ」などです。
さらに、総務省「平成27年国勢調査」の結果も、女性の社会進出と少子化の因果関係を裏付けるものにはなりませんでした。
共働き世帯と専業主婦の世帯における子どもの有無では、共働き世帯で子どもがいない世帯の割合が31.6%であるのに対して、専業主婦世帯では33.7%です。
子どもがいる世帯において何人の子がいるかを調べた結果では、子ども1人と答えた世帯は専業主婦世帯がやや多く(7ポイント差)、子ども2人以上では共働き世帯のほうが多いという結果になっています(子ども2人は4ポイント差、子ども3人は2ポイント差)。
女性の社会進出、共働きであることが少子化の原因であるとは言えないどころか、共働き世帯のほうが子どもがいる割合がやや高いというデータがあるのです。
日本で女性の社会進出が遅れている理由
さて、日本における女性の社会進出が遅れている理由は何でしょうか。
最も大きな原因と考えられるのは、平成16年版「少子化社会白書 第2節 少子化の原因の背景」でも指摘されたとおり、出産・育児と仕事の両立の難しさです。正規雇用が長時間労働になること、女性管理職の割合が少ないため女性が抱える困難が認識されにくいことも含まれます。
出産・育児と仕事の両立では、出産・育児休業制度を導入する企業は増えているものの、「制度を使って3年間休業したのに元のポジションに戻れずキャリアアップが難しくなる」「数年以内に結婚・出産予定のある女性は、そうした予定のない女性より採用されにくい」という声があります。
正規雇用が長時間労働になりやすいことも、育児をする家庭にとっては大きな負担に。「週所定労働時間40時間+残業」という労働ができないと正社員になれない一方で、育児で長時間働けないために非正規社員になるといつ失職するか分からないという板挟み状態なのです。
そして、女性管理職が少ない日本の企業では、女性が抱える身体的・精神的問題や配偶者に家事・育児の負担が生じることをリアルに想定した問題提起や問題解消が図られにくいという問題も。女性の生活や働き方が他人事になっている職場で女性が働き続けるのは、難しいでしょう。
女性の社会進出のメリットと課題
「そうした困難を解決してでも女性の社会進出を推進する必要があるのか?」という疑問を抱く人もいるかもしれません。しかし、女性の社会進出は企業にとって大きなメリットがあります。
メリット1:優秀な人材を得られる
女性を採用候補に含めることは、企業が求める条件に合った優秀な人材を雇用しやすくなるということです。
大卒でありながら現在働いていない女性は意外に多いもの。出産・育児等で退職する前の企業で大変活躍していた女性もいます。
より大きな母集団で採用候補者を探すほうが企業の成長につながるでしょう。
メリット2:職場に多様性が生まれる
これまで男性中心の職場だった場合、女性を雇用することで女性目線の商品開発ができるようになります。男性と女性が協働で開発すれば、男女ともに使える商品もつくれるかもしれません。
また、従来の商品や社内制度を育児・家事の観点から再評価し、対外的なアピールに使うこともできるでしょう。
もちろん、出産・育児・介護をしながらでも仕事を続けられるよう時短勤務制度、フレックス制度、子の看病休暇といった制度を整えていけば勤務体制が柔軟になり、多くの人にとって働きやすい職場環境の整備につながります。
メリット3:社会からの評価が高まる
ESG投資やSDGs、ダイバーシティ&インクルージョンを意識した採用活動など、近年は職場における多様性や持続可能性を重視した評価が行われています。
女性を雇用し、性別によらず社員を大切にする企業として社会で認知されれば、企業全体の信頼性が高まり、ESG投資でも選ばれやすくなるでしょう。
メリット4:公的機関から優遇される
女性の社会進出は日本全体で進められている取り組みです。そのため、厚生労働省による「えるぼし認定」や「くるみん認定」、経済産業省と東京証券取引所による「なでしこ銘柄」といった公的な認定制度が設けられています。
「えるぼし認定」は女性の活躍を推進している企業を認定する制度で、以下のような具体的な条件を満たした企業が認定されます。
「くるみん認定」は子育てサポートに積極的に取り組んでいる企業を認定する制度、「なでしこ銘柄」は女性活躍を推進する上場企業を「中長期の企業価値向上」を重視する投資家に紹介する制度です。
これらに認定されると、公的機関から優遇される、優良企業として投資を受けやすくなるといったメリットを得られます。認定マークを商品や広告に使用することも可能ですので、大きなアピールポイントにもなるでしょう。
女性の社会進出に関わる課題
女性の社会進出を推進するにあたって課題となるのは、「育児・介護は女性がやること」という固定観念と勤務体制の整備、休業から復帰後のロールモデル不足です。
育児・介護は女性だけでなく配偶者、企業、支援機関も関わりながら「みんなでやる」という考え方に更新しなければなりません。女性活躍推進に取り組む企業では、セミナー実施や男性の育児休暇取得を推奨するといった方法で解決に取り組んでいます。
柔軟な勤務体制の整備では、社員の性別に関係なく子の看護休暇等を取得しやすくすること、保育園への送迎に対応できるようフレックス制度や1時間単位の有給休暇制度を導入するといった解決策があります。
出産・育児等で休業した女性社員が職場復帰したあと、どのように働けるのかというロールモデルについては、女性管理職を増やすことが1つの解決策になり得ます。
実際に出産・育児休業して復帰した女性社員を管理職に登用すれば、「休業してもキャリアアップができる」という好事例になりますし、どのような問題にどう対処するかといった前例もつくりやすくなるでしょう。
日本企業における女性の雇用推進の取り組み事例
日本全体としては女性の社会進出に大きな課題を抱えている一方、個々の企業では女性社員が大いに活躍しているケースも見られます。
その具体例として、今回は日本IBMと資生堂の取り組みをご紹介します。
取り組み事例1:日本IBM
日本IBMは1960年代から女性の活躍推進に注力してきました。
1970年代ですでに男女同一賃金を実現し、女性社員の定年を男性と同じ年齢に引き上げ。1985年に育児休暇制度を導入しました。
1998年には同社の諮問委員会である「Japan Women’s Council(JWC)」が発足。以下のようなさまざまな取り組みを続け、成果を出しています。
女性のキャリアアップ支援、女性管理職の異業種ネットワーク発足、技術系女性社員の社内ネットワーク発足といった取り組みだけでなく、子どもがいる社員のために現在2箇所の施設内保育所を設置。それぞれの事情に合わせて働ける在宅勤務や時短勤務もあります。
2018年末で女性社員の割合は23%、女性管理職の割合は13.7%、女性の課長級以上の割合は18.7%。2020年以降は、新卒採用における女性の比率が4割にまで増加。
こうした取り組みの結果、日本IBMは2020年版「女性が活躍する会社BEST100」総合ランキング1位、管理職登用度部門1位を獲得しました。
取り組み事例2:資生堂
資生堂も、女性の活躍推進において多様なバックグラウンドをもつ社員がそれぞれの力を発揮できる職場環境づくりに取り組んできました。
その中で取り組んだ社内風土改革は「女性の活躍3ステップ」と呼ばれ、段階的に企業風土の醸成を行ってきたことが分かります。
同社での仕事と育児の両立支援の具体例では、1990年に導入された育児制度と時短制度、2003年に解説された事業所内保育所があります。
2017年からは女性社員を対象に研修“Next Leadership Session for Women”を実施し、自分らしいリーダーシップスタイルやマネジメントスタイルを見つけられる仕組みを整えてきました。
育児休業からの職場復帰後の定着率は98%超を誇り、女性従業員比率58.4%、女性管理職比率30.8%、女性役員数は19人中5人。男性も女性も育児・介護をしながらキャリアアップを目指せる企業風土となっています。
こうした取り組みが評価され、資生堂は2020年度に内閣府「女性が輝く先進企業2020」で内閣総理大臣表彰を受賞しました。
なお、資生堂のガバナンスに関する取り組みも以下の記事で紹介しています。
全員が自分の働き方を選べる企業へ
長い歴史の中で女性はさまざまな場面で働いてきました。しかし、それは「結婚するまで」「出産するまで」といった期間限定のものが主流。現在でも、長期間の育児休暇を取得するとキャリアップが難しくなるといった問題点が指摘されています。
しかし、男女共同参画社会を目指すとともに少子化の影響で労働人口が減少する中で、採用候補者にさまざまなバックグラウンドの女性を含めることは企業にとって大きなメリットがあります。
ESG投資、SDGs、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みなどに見られるように、今求められているのは「より多様な人々が働ける企業」。多くの才能やスキル、観点を取り込むことで、価値観が多様化する社会への対応力も高まります。
施設内保育所はハードルが高いかもしれませんが、在宅勤務制度、短時間勤務制度、フレックス制度、1時間単位の有給休暇といった制度は規則の見直しで対応できる可能性が高いもの。管理職登用なども、対象者に女性社員を含めることで選択肢が広がるかもしれません。
社員全員が自分の働き方を柔軟に選び活躍できる企業を目指し、社内の人事制度を再点検してみませんか。