地球温暖化対策と持続可能な未来に向けて、再生可能エネルギーへのシフトが喫緊の課題となっています。その牽引役として期待されている太陽光発電について、世界と日本の現状、企業が採用するメリットとデメリット、将来の展望を含めて解説します。
太陽光発電とは
太陽光発電は、地球に降り注ぐ太陽光エネルギーを電気に変換する発電方法。環境負荷の低い再生可能エネルギー(以下:再エネ)を利用するため、風力発電や水力発電と並ぶ次世代の主力電源として期待されています。
統計資料などでは、太陽光発電を「Solar PV」と表記することもあります。PVは、英語のPhotovoltaic(光電池の)を略したものです。
太陽光発電の歴史
太陽光発電は1950年代から本格的な研究が始まり、1958年にはアメリカが打ち上げた人工衛星の電源に用いられました。
日本に普及するきっかけとなったのが、1973年の石油ショック。第四次中東戦争に端を発した石油の価格高騰と受給ひっ迫は、当時エネルギーの大部分を中東からの石油に頼っていた日本に大きな打撃となりました。これを受けた日本政府は、新エネルギーの開発プロジェクト「サンシャイン計画」をスタート。その柱のひとつに、太陽光発電が位置付けられます。
太陽光発電の現状
それから約半世紀を経た現在、太陽光発電を取り巻く状況はどうなっているのか、世界と日本に分けて解説しましょう。
世界の現状
国際的な再エネ政策ネットワーク組織「REN21」によると、全世界のエネルギーミックス(電源構成)に太陽光発電が占める割合は2.8%。再エネの中では水力発電(15.9%)、風力発電(5.9%)に次ぐ割合です。
2.8%というと少なく感じるかもしれませんが、ここ数年間の普及スピードを見るとまったく違う印象を受けるでしょう。下のグラフの通り、新たに導入された再エネの設備容量は太陽光発電が断然トップ。2019年の導入量は115GWで、再エネ全体の導入量(200GW)の半分以上を占めています。
日本を含むOECD加盟国が参加する「国際エネエルギー機関(IEA)」は、引き続き太陽光発電が普及拡大していくと予測。2025年までに再エネが石炭火力発電に代わる主力となり、その牽引役を太陽光発電が担うとしています。
日本の現状
2019年の太陽光発電の導入量を見ると、日本は世界第4位。累積導入量では3位となっています。実は日本は、世界有数の太陽光発電導入国なのです。
現状1:FITにより大幅普及
2012年から2019年までの日本国内の導入量は、10倍近くになっています。
日本国内の目覚ましい普及を後押ししたのが、2012に始まったFIT制度。 FIT(Feed In Tariff:固定価格買取制度)とは、太陽光発電の発電分を電力会社が買い取る制度です。買い取りという経済的インセンティブを設けることで、再エネの普及拡大を目指す国の政策として行われてきました。
2012年当初の買取価格は、設備容量10kW以上の場合1kWhあたり40円。そのため「太陽光発電バブル」と呼ばれる状況が生まれ、事業所内の空きスペースに売電専用の太陽光発電を設置する企業も見られました。
しかし買取価格は徐々に下がり2020年は1kWhあたり13円となり、売電のメリットは以前ほどありません。これは当初の目的である太陽光発電の普及拡大が、一定の成果を上げたことを意味しています。
現状2:FIPでさらなる普及拡大へ
国は次の段階として、2022年を目処にFIP制度の導入を計画しています。FIP(Feed In Premium)とは、太陽光発電を含む再エネ電気を市場取引する制度。その際に売電価格に割増金(プレミアム価格)を上乗せすることで、再エネ発電事業者の投資インセンティブが確保される仕組みになっています。
FIPによる市場取引が始まることで、太陽光発電のさらなる普及拡大に弾みがつくでしょう。国の「エネルギー基本計画」では、2030年のエネルギーミックスにおける太陽光発電の割合を7%としていますが、この目標を上回る可能性もあります。
こうした流れの中、太陽光発電の主流は売電によって収益を得る手段から、自分たちが使う電気を自分たちで作る「自家消費型太陽光発電」へと移っています。
太陽光発電のメリット・デメリット
企業が自家消費型として導入することを前提に、太陽光発電のメリットとデメリットを見ていきましょう。
太陽光発電のメリット
メリット1:枯渇の心配がないクリーンエネルギー
第一のメリットが、枯渇の心配がない太陽光エネルギーを活用できること。
地球に到達するすべての太陽光で、全世界が1年間に消費する電気を1時間で賄えるという試算もあるほどです。もちろんすべての太陽光を100%利用する技術はまだないため、この試算は現実的といえません。しかしながら、これほど大きなポテンシャルを秘めた発電方法は太陽光発電の他にはないでしょう。
太陽光発電は、火力発電のようにCO2などの温室効果ガスを排出することもありません。業界団体である太陽光発電協会(JPEA)は、10kWの太陽光発電(年間発電量10,000kWh)を導入した場合の効果を、以下のように試算しています。
- CO2排出削減量=年間5,415kg
- 原油消費削減量=年間2,270リットル
メリット2:設置場所の制約が少ない
太陽光発電は一定の日照量さえ確保できれば、場所を選ばずに設置できます。事業所内の空き地、建物の屋根や壁面など、設置場所のバリエーションは多彩です。
また、システムの規模(太陽光パネルの面積)に関係なく発電効率はほぼ一定(おおむね20%前後)のため、設置スペースの大小を問わず導入しただけの効果が得られます。システム寿命は20年以上と長く、他の発電方法と比べて構造もシンプルなため、メンテナンスも容易です。
ただし完全なメンテナンスフリーではなく、設置しっ放しでは確実に発電効率の低下を招きます。本来の性能を維持するためにも、ノウハウを持った太陽光発電設備業者にメンテナンスを依頼するのが安心です。
太陽光発電のデメリット
太陽光発電のデメリットとして、度々あげられるのが以下の2点。それが本当に導入の障壁となるほどなのかを掘り下げて解説します。
デメリット1:導入コストが高い
一般的に、太陽光発電は導入費用がかかるといわれています。心臓部である太陽光パネルが高価なためです。しかしシステム費用は2012年は1kWあたり42.2万円だったのが、2019年には26.6万円まで下がっています。
今後も普及が進むにつれてシステム費用は下がり、ランニングコストでの回収も容易になるでしょう。もちろん業種や使い方によって条件は異なるので、何年ぐらいで回収できるかは一概にいえません。太陽光発電設備業者を交えてシミュレーションを行うと良いでしょう。
デメリット2:発電が不安定
太陽光発電はいうまでもなく、夜間は発電できません。天候も影響するため発電も不安定になりがちです。このデメリットは、他の発電方法と組み合わせることで解決できます。
一般的なのが、ガスコージェネレーションシステム(コージェネ)との組み合わせ。コージェネは都市ガス(天然ガス)やLPガスでエンジンやタービンを回して発電を行い、その際に発生する排熱を冷暖房や給湯などの熱需要に活用するエネルギーシステム。コージェネは出力制御が効くため太陽光発電の変動分を吸収でき、安定した発電が可能になります。
すでに太陽光発電+コージェネの組み合わせはオフィスビルや公共施設、商業施設、医療施設、工場などに広く普及しています。
しかしながら、化石燃料を使用するコージェネは温室効果ガスを排出します。あくまでも再エネが主力電源となるまでの暫定的な措置ととらえ、早いうちに太陽光発電+風力、太陽光発電+木質バイオマスなど、再エネどうしの組み合わせにシフトしていくべきでしょう。
太陽光発電のデメリットを打ち消す新技術
再エネどうしを組み合わせる未来形として期待されているのが、バーチャルパワープラント(VPP:仮想発電所)。VPPとは各地に分散している太陽光発電や風力発電、水力発電などの再エネ、電気自動車や蓄電池などをICT(情報通信技術)によってネットワークでつなぎ、大規模発電所のように運用する構想です。
ネットワーク化して総合的に運転制御することで、日照が多い時間帯には太陽光発電、風が強い日には風力発電という具合に、再エネを最大限に活用することが可能に。昼間の太陽光発電で余った電気を蓄電池に貯めておいて、夜間に使うのも自在です。
これからの時代、大規模発電所(火力、原子力)の新規建設は困難になります。環境対策という理由はもちろん、少子高齢化による人口減少のため電気の需要自体が減っていくからです。VPPはそのような時代にマッチした発電方法としても期待されており、国は実用化に向けた研究開発を進めています。
IoTやDX(デジタル・トランスフォーメーション)の進化により、VPPの実現もそほほど困難でなくなりました。太陽光発電はまったく新しいシステムの担い手として、まだ発展していく余地があるのです。
企業が太陽光発電を導入すべき理由
企業は経営戦略として、太陽光発電をはじめとする再エネを積極的に導入すべきです。そうすることが環境対策や社会貢献の枠にとどまらず、実利にもつながるからです。
理由1:ESG投資を呼び込むため
これからの時代、環境問題や社会問題に無関心な企業は淘汰されます。投資の対象から外されるからです。これからは、本サイトのタイトルにもなっている「ESG」に代表されるサステナブル投資が主流に。ESGとは Environment(環境)、Social(社会)、 Governance(ガバナンス)の頭文字を取ったものです。
従来の投資では、企業の財務情報が重視されていました。今後は「環境に配慮したエネルギーを選んでいるか」、「働く人の人権を守っているか」、「不祥事に対するガバナンスは構築されているか」といった、財務以外の情報もシビアに検討されるようになります。
日本におけるサステナブル投資の残高は、2018年で2兆1,800万ドル。2016年の4,740億ドルから、300%以上の伸びを示しています。
単位:10億ドル
日本のサステナブル投資が突出して伸びた背景のひとつに、2017年に「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」がESG投資に踏み切ったことがあります。GPIFは日本の公的年金を運用すると同時に世界最大の機関投資家としても知られており、その影響力は計り知れません。
また、環境省が2019年に金融機関192社に行ったアンケート調査では、75%がESG投資を成長領域と認識し、投資の指標として再エネの導入に注目すると回答しています。
ESG投資については、こちらの記事で詳しく解説しています。
理由2:次世代に選ばれる企業になるため
就職する企業を選ぶ基準として、環境問題や社会問題への取り組みをあげる学生が増えています。
就職情報会社のディスコが2020年8月に就職先決定者に行ったアンケート(回答者853人)では、企業を選んだ理由の1位が「社会貢献度が高い」(30%)でした。
SDGsについては70%以上が「知っている」と回答。逆に「まったく知らない」と答えたのは8.6%と、前年調査の26.9%から大幅に減少しています。
今や「Z世代」(1990年代半ば以降に誕生)と呼ばれる環境問題に関心の高い世代が、企業を選ぶ時代。スウェーデンの環境活動家・グレタ・トゥーンベリさん(2003年生まれ)から「世界気候アクション」という国境を超えた運動が生まれ、日本のZ世代も再エネの普及拡大に声をあげています。
太陽光発電の導入は、次世代に選ばれる企業になるための「投資」といえるかもしれません。
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーン」および、企業の再エネ導入の取り組みについては、こちらの記事をご参照ください。
理由3:電気料金を低減するため
太陽光発電で作った電気を自家消費すれば、電力会社に支払う電気代は当然下がります。企業にとって課題となっているのが、基本料金を抑えること。基本料金は契約電力量で決まります。
契約電力量は「最大デマンド」と呼ばれ、過去1年間でもっとも多かった電気の使用量を意味します。たとえば猛暑で冷房に多くの電気を使った場合は、それが最大デマンドとなって基本料金が算出されます。他の時期の使用量がそれほど多くなくても、考慮されません。
そこに太陽光発電を導入すれば最大デマンドが下がり、基本料金の低減につながります。
理由4:BCP強化のため
太陽光発電は、BCP強化のための非常用電源としても活用できます。
BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、災害などの非常時でも企業活動を継続できるようにする取り組み。2011年の東日本大震災を受けて、その必要性が強く認識されるようになりました。
とくに電力会社からの送電がストップする停電による操業停止は、大きな経済的損失をもたらします。こうした災害時でも、太陽光発電があれば最低限の電気を確保することができます。
近年は地球温暖化による気候変動のせいもあり、毎年のように大規模な災害が日本を襲っています。その中から、長期間の停電が起きたケースをまとめてみました。
災害名 | 発生年月 | 停電期間 |
東日本大震災 | 2011年3月 | 約1週間 |
熊本地震 | 2016年4月 | 約1週間 |
西日本豪雨 | 2018年6月 | 約1週間 |
北海道胆振東部地震 | 2018年9月 | 約1週間 |
令和元年台風第15号 | 2019年9月 | 約3週間 |
令和元年台風第19号 | 2019年10月 | 約2週間 |
令和2年7月豪雨 | 2020年7月 | 5日 |
大規模災害の発生が当たり前な状況となりつつある現在、電気についても日頃からの備えが欠かせません。太陽光発電は非常用電源としても平常時の電源としても利用できるので、BCP強化に有効な選択肢です。
太陽光発電のこれから
太陽光発電をはじめとする再エネへのシフトは、今や世界的な潮流です。その背景には、待ったなしの状況となった地球温暖化があります。
2015年12月に採択されたパリ協定は地球温暖化を抑えるため、21世紀後半に温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を定めています。これをクリアするためには、再エネが必要不可欠です。
2050年頃に90億人に達すると予測されている人口問題も、避けて通れません。増える一方のエネルギー需要を満たすには、無尽蔵なエネルギーといえる太陽光の活用しかありません。
期待されている新技術のひとつが、宇宙太陽光発電。これは宇宙空間に巨大な太陽光パネルを浮かべ、そこで発電した電気をマイクロ波のビームに変換して地球に送るというものです。実現すれば、従来とは比較にならない量の太陽光エネルギーを安定的に利用することが可能になります。
まるでSF映画のような構想ですが、日本政府は宇宙航空研究開発機構(JAXA)などとともに、宇宙太陽光発電の実用化に向けた検討を進めています。
太陽光発電を次世代の主力エネルギーにできるかは、人類の存亡に関わる問題でもあるのです。社会的にも経済的にも大きな影響力を持つ日本企業は、率先してその中核を担うことが期待されています。