近年、SDGsの概念が浸透し、持続可能な社会の実現に向けた取り組みが加速しています。
その中でも、環境保護を目的とした「リサイクル」の重要性がますます高まっています。
リサイクルと言うと個人の行動に注目されがちですが、ESG推進(※)の観点では企業にとっても避けては通れない活動です。
今回は、リサイクル活動の概要、取り組むべき理由などについて、企業の先進事例も合わせて解説していきます。
(※)ESGについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。ぜひご参考ください。
リサイクルとは?

誰もが一度は耳にしたことのある「リサイクル」というワード。
何となく環境に良い取り組みというイメージがあると思いますが、その内容をきちんと理解できているでしょうか。
リサイクルとは、製品をもう一度資源化することにより、形を変えて再利用することです。
私たちの暮らしの中でも、実はリサイクルによって生まれ変わった製品がたくさんあります。
例えば、
・新聞や雑誌などの再生紙からできたトイレットペーパー
・使用済みのペットボトルからできたボールペンやTシャツ
などを使用したことがある方も多いでしょう。
こうしたリサイクルを行うことで、限られた資源を有効活用することができるのです。
リサイクルは「3R(スリーアール)」のうちの1つ
リサイクルの大元の概念である「3R」について押さえておきましょう。
3Rとは、環境保護に必要な以下の取り組みの頭文字「R」をとったものです。
【3Rの種類】 | 【意味】 | 【具体的な行動(例)】 |
Reduce リデュース | <ゴミを減らす> | マイバックを持参する |
Reuse リユース | <繰り返し使う> | 使用済み製品の修理・交換して再利用する |
Recycle リサイクル | <再資源化する> | ゴミの分別をきちんと行う |
3Rを意識した行動をすることで、製品の廃棄量を削減することができます。
3Rのうちの「Reduce」についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
リサイクルの歴史
リサイクルの概念が浸透するまでの歴史を振り返ってみましょう。
大きな転換点として挙げられるのは、以下の通りです。
・江戸時代
・戦後(1950〜60年代)
・オイルショック(1970〜80年代)
・リサイクル法改正(1990〜2000年代)
・中国の廃プラ輸入禁止(2017年)
1つずつ、概要をご紹介します。
転換点①:江戸時代【循環型社会の形成】
江戸時代は、衣食住のあらゆる場面において、高いレベルの循環型社会が形成されていました。
当時日本では鎖国が行われており、資源が限られていたために、日常で使う物資のほとんどは再生可能な動植物を活用していたのです。
使用した着物をリメイクしたり、使用済みの灰や紙を再生紙にしたりと、人々はさまざまな工夫を凝らしていました。
こうした江戸時代の取り組みは、現代においても参考になる点が多くあります。
転換点②:戦後【大量生産・大量消費】
戦後の日本は、目覚ましい経済成長を遂げました。
その背景には企業の生産活動や個人の消費行動の拡大があり、人々は物質的に豊かな暮らしを手に入れます。
つまり、物を大量に生産して大量に消費するという行動様式が当たり前になったのが、まさにこの時期。
しかし、その一方で、こうした大きな変化から公害などのさまざまな社会問題も生まれました。
転換点③:オイルショック【資源の有限性への気づき】
1973年、中東戦争を発端に石油価格が高騰し、世界中がパニックに陥るなか、日本でも、トイレットペーパーや洗剤などの買い占め行動が起きます。
オイルショックを契機に、エネルギーの安定供給が重要な社会課題と認識されるようになり、石油の効率的な使用や、石油に代わるエネルギー源の開発・導入などに注目が集まりました。
限られた天然資源の活用を見直す転換点として、オイルショックは非常にインパクトのある出来事だったと言えるでしょう。
転換点④:リサイクル法の改正【一般社会への浸透】
1990年代は、リサイクルに関しての法整備が行われた年代です。
戦後構築された大量生産・大量消費の社会では、廃棄物の増加が課題として浮き彫りになりました。
不法投棄や産業廃棄物などによる環境被害も社会課題化し、適切な廃棄物処理が急務となっていました。
そうした背景のなか、1991年に廃棄物処理法を改正。
廃棄物の排出抑制と分別・再生(再資源化)が法律の目的に加わったのです。
その後も「資源の有効な利用の促進に関する法律(資源有効利用促進法)」が同年に制定され、2000年代に入り「循環型社会形成推進基本法(循環基本法)」が制定されると、3Rの概念が一気に浸透していきました。
それまでの「大量生産・大量消費」から「循環型社会」に向けて、大きく舵を切りました。
転換点⑤:中国の廃プラ輸入禁止【関心の高まり】
世界では、中国を中心に、廃プラスチックや古紙などの資源ごみを新たな製品の原料にすることを目的に、他国から廃プラスチックを買って輸入する流れがありました。
しかし、中国国内の経済成長に伴い、廃棄物量が増加したことや、輸入ごみが原因の環境汚染が社会課題になったことから、2017年、中国は廃プラスチックの輸入を禁じました。
日本の廃プラスチック輸出量は非常に多く、実は香港・アメリカに次ぐ世界3位。
実際、その多くを中国に輸出していました。
また、中国の代替輸出先として、台湾や東南アジア各国が浮上したものの、それらの国でも同様の動きが次々と起こります。
行き場をなくした廃プラスチックをどうするのかという課題は非常に大きなものとなっており、最近ではレジ袋の有料化をはじめ、国を挙げた政策が積極的に打ち出されるようになりました。
こうした背景から、プラスチックの使用抑制や、代替素材の開発が期待されています。
リサイクルを今後も推進すべき理由

ここまで、リサイクルの概念が浸透してきた変遷を辿ってきましたが、今後もリサイクルを推進すべき理由は何でしょうか。
それは、冒頭でも触れたとおり、2030年のSDGsの達成を視野に入れた“持続可能な社会の実現”に向けて、環境保護は欠かせない要素だからです。
戦後を発端とする「大量生産・大量消費」という生活様式は、経済的な観点で見れば、人々の生活を豊かにし、国力を高めます。
しかし、生産活動は限られた天然資源を奪うことに等しく、生態系の破壊にもつながるのです。
物を廃棄する際も同様に、焼却時にCO2が排出されたり、埋め立てによる土壌汚染が起こったりと、「大量生産・大量消費」が環境に与えるダメージは計り知れません。
こうした理由から、私たちの暮らす地球環境を守り、持続可能な社会を実現するためには、個人や企業がリサイクルを意識した行動を取ることが重要なのです。
リサイクルに関する法律の種類
現在、日本ではリサイクルの推進を目的に、数多くの法律が制定されています。
その体系と主な法律の概要は、以下の通りです。

法律①:資源有効利用促進法(H13.4 全面改正施行)
・再生資源のリサイクル
・リサイクル容易な構造・材料などの工夫
・分別回収のための表示
・副産物の有効利用促進
循環型社会を形成していくために必要な3Rの取り組みを総合的に推進するための法律です。
3Rの取り組みが必要となる「10業種・69品目」を指定し、事業者が取り組むべき事項を定めています。
産業廃棄物対策としても、副産物の発生抑制(リデュース)やリサイクルを促進し、循環型経済システムの構築を目指すことを目的としています。
法律②:容器包装リサイクル法(H12.4 完全施行、H18.6 一部改正)
・容器包装の市町村による分別収集
・容器の製造、包装の業者による再商品化
容器包装の廃棄物は、家庭から排出されるごみの重量の約2~3割、容積で約6割を占めます。
本法律では、リサイクルの促進等により、廃棄物の減量化を図るとともに、資源の有効利用を図ることを目的としています。
法律③:家電リサイクル法(H13.4 完全施行)
・廃家電を小売店が消費者より引取
・製造業者による再商品化
家電リサイクル法が制定される前までは、一般家庭から排出される使用済みの廃家電製品(エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機など)は、約半分がそのまま埋め立てられていました。
しかし、廃家電製品には、鉄・アルミ・ガラスなどの有用な資源が多く含まれていること、また、廃棄物最終処分場がひっ迫しており、廃棄物の減量とリサイクルが必要になったことから、資源の有効利用を促進することを目的に、本法律が制定されました。
法律④:食品リサイクル法(H13.5 完全施行、H19.6 一部改正)
・食品の製造、加工、食品廃棄物などの再生利用
食品循環資源の再生利用などを促進するため、食品関連事業者に対する指導監督の強化や食品関連事業者が行う再生利用の取組みなどを円滑にすることを目的に制定された法律です。
本法律施行後、食品小売業及び外食産業の中でも、取組み内容にバラつきがあったことから、指導監督の強化や再生利用の取組みの円滑化を図るため、一部内容が改正されています。
法律⑤:建設リサイクル法(H14.5 完全施行)
・建築物の分別解体、建築廃材などの再資源化
建設工事に伴って廃棄されるコンクリート塊、アスファルト・コンクリート塊、建設発生木材の建設廃棄物の総量が非常に多いことや、昭和40年代の建築物が更新期を迎え、今後建設廃棄物の排出量の増大が見込まれることから、制定された法律です。
資源を有効利用するため、廃棄物の再資源化を促しています。
法律⑥:自動車リサイクル法(H15.1 一部施行、H17.1 完全施行)
・使用済み自動車の引取、フロンの回収、解体、破砕
・エアバッグ、シュレッダー、ダストの再資源化
・フロンの破壊
使用済み自動車は、有用金属・部分を含み資源として価値が高いため、従来は解体業者や破砕業者において売買を通じて流通し、リサイクル・処理が行われてきました。
本法律では、自動車所有者、使用済み自動車の引取業者、フロン類回収業者、解体業者、破砕業者、自動車メーカーなどの役割分担を明確にし、使用済み自動車のリサイクル・適正処理を図ることを目的に制定されました。
法律⑦:小型家電リサイクル法(H25.4 完全施行)
・使用済み小型電子機器などを再資源化
デジタルカメラやゲーム機などの使用済み小型電子機器等の再資源化を促進することを目的とした法律です。
主務大臣による基本方針の策定や、再資源化事業計画の認定、当該認定に従って行う廃棄物処理業の許可などに関する特例について定めています。
リサイクルに関するマークの種類

リサイクルを促進するためには、廃棄物を正しく分別し、適切な処理を行うことが求められます。
先ほどご紹介した「資源有効利用促進法」では、廃棄物を分別回収する際の目安となる識別マークを表示することを義務付けています。
以下は、代表的な識別マークの一覧です。
廃棄物の分別は、誰もができるリサイクル活動。
物を廃棄する際は、識別マークに注意しながら正しく分別を行いましょう。
【素材/形状】 | 【用途】 | 【識別マーク】 |
プラスチック製容器包装 | 飲料、酒類、特定調味料用の PETボトルを除く | ![]() |
紙製容器包装 (飲料・酒類用紙パックでアルミ使用のものを含む) | 飲料・酒類用紙パックでアルミ不使用 のもの、段ボール製容器包装を除く | ![]() |
PETボトル | 飲料、酒類、特定調味料用 | ![]() |
スチール缶 | 飲料、酒類用 | ![]() |
アルミ缶 | 飲料、酒類用 | ![]() |
段ボール製容器包装 | ― | ![]() |
紙パック (アルミ不使用のものに限る) | 飲料、酒類用紙パックでアルミ不使用 のものに限る | ![]() |
リサイクルに取り組む企業の先進事例

リサイクルは、個人にとっても企業にとっても必要な行動ですが、スケールメリットを活かしやすい企業の取り組みは社会により大きなインパクトを与えることができます。
実際に、リサイクル活動を積極的に行っている企業の事例を7つご紹介します。
事例①:マクドナルド
マクドナルドでは、子ども向けのハッピーセットに付随するおもちゃのリサイクル活動を定期的に行っています。
その取り組み内容は、店頭に回収ボックスを設置し、子どもたちが不要になったおもちゃを返すというもの。回収されたおもちゃはリサイクルされ、店内で使用されるトレーなどに生まれ変わります。
また、単純にリサイクルを行うだけでなく、子どもたちが実際にリサイクル活動を体験することができる環境教育の一環としても役立っています。
事例②:ファミリーマート
ファミリーマートでは、食品(生ゴミ)のリサイクルに力を入れています。
例えば、東京都内の約120店舗から出る余ったお弁当などの食品残渣(食品廃棄物)を回収し、食品リサイクル工場に運んで液状の飼料にします。
また、使い終った食用油(廃食用油)は専門の業者が回収し、石鹸の原料になったり、家畜のエサに添加物として混ぜたり、一部はシャンプー・リンスの原材料として再生。
実際にファミリマートでは、食用油をリサイクルしてできた薬用ハンドソープを店舗で利用しており、リサイクルの輪が形成されています。
事例③:ユニクロ
ユニクロでは、全国の店舗に使用済みの服を回収するボックスを設置しており、リユースできるものは難民キャンプや被災地などへ送り届ける活動を行っています。
リユースできない商品の場合は、独自の技術で商品に使えるダウン・フェザーに再生したり、CO2削減に貢献する代替燃料や防音材などに加工されたりしてリサイクルをしています。
服から服へのリサイクルはもちろん、全く異なる素材にも変えてしまう、独自のリサイクルの取り組みです。
事例④:Apple
Appleでは、iphoneやMacbookといったデバイスにリサイクル素材と再生可能素材を組み合わせて使用しています。
これにより、製品自体が長持ちすることに加え、将来的に製品を完全回収することができます。
また、分解ロボットを活用しながら、古くなったデバイスから、新しいデバイスに使える素材を効率良く回収できる仕組みも整えています。
事例⑤:コカ・コーラシステム
コカ・コーラシステム(※)では、コカ・コーラがグローバルに掲げる「World Without Waste(廃棄物ゼロ社会)」を目指した取り組みを行っています。
具体的には、使用済みPETボトルを新品のPETボトルに生まれ変わらせる「ボトルtoボトル」というリサイクル活動に力を入れています。
PETボトルのリサイクルでは、繊維やシートなどへの再生もよく行われますが、「ボトルtoボトル」リサイクルであれば、環境負荷の少ないPETボトルの製造が可能というメリットがあります。
(※)コカ・コーラ カンパニーの日本法人で、原液の供給と製品の企画開発をおこなう日本コカ・コーラと、全国5社のボトリング会社などで構成されています。
事例⑥:ソフトバンク
ソフトバンクでは、回収した使用済み携帯電話の本体や電池パックなどをリサイクル処理することで、レアメタル(パラジウム、コバルトなど)や金、銀、銅などとして再資源化を行っています。
また、その他にも、リサイクル工程から生じた副産物はコンクリート・セメント原料として、本体のプラスチック素材については補助燃料や再生プラスチックとして再利用します。
携帯電話のデバイス以外でも、ネットワーク設備を更新・撤去する際に使用するケーブル、交換機、電柱などの通信設備の廃材についても、再資源化を推進しています。
事例⑦:三井不動産
三井不動産では、
三井不動産グループは、独自の古紙リサイクル・ループ・システムを構築し、オフィスビルや商業施設から排出される古紙をリサイクルし、オリジナルリサイクルOA用紙「都紙再生」やトイレットペーパー、段ボールなどとして再生利用しています。
また、管理運営するオフィスビルから排出される使用済みカーペットを回収し、環境対応型タイルカーペットの原料としてリサイクルし、首都圏のオフィスビルで再生利用するシステムも構築。
その他にも、生ゴミや使用済み蛍光灯や乾電池など、オフィスビルや商業施設だからこそ発生する廃棄物に対し、積極的なリサイクルに取り組んでいます。
リサイクルは、持続可能な社会の実現への第一歩

現代では、地球環境の保護に向けて、リサイクルを推進することは不可欠です。
個人・企業に関わらず、リサイクルに取り組むことは、持続可能な社会の実現への第一歩となります。
特に企業の積極的なリサイクルへの取り組みは、ESGの観点でも評価されるものであり、今後企業を取り巻くステークホルダーからの注目度もますます高くなっていくでしょう。
また、今回は、実際にリサイクルに力を入れている企業の先進事例をご紹介しました。
事例を通じて、各企業が業界特性に応じて、独自の取り組みを行っていることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
リサイクルの重要性を改めて認識した上で、自社の取り組みとして導入できそうなものはないか、ぜひ参考にしてみてください。