バイオ燃料は近年耳にすることが多くなった言葉ですが、意味をご存じでしょうか?
実はこのバイオ燃料、脱炭素社会を目指す世界にとって将来欠かせない燃料になる可能性を秘めています。
しかし、肝心の日本ではバイオ燃料という言葉はあまり聞く機会がないと思います。それは日本人の環境問題に対する意識の低さが原因の1つです。
今回はそのバイオ燃料について取り上げます。
バイオ燃料とは

バイオ燃料とは、「バイオマスと呼ばれる再生可能な生物由来の資源を発酵・熱分解させて作る燃料のこと」です。脱炭素を目標とする世界の国々で研究・実用化されている期待の分野の1つです。
バイオ燃料はカーボンニュートラルという観点から大気中のCO2量を増やさない燃料に分類されています。そのためEVやFCVと並び、地球にやさしい燃料として自動車や船舶・ジェット機への利用拡大が期待されています。
バイオ燃料の定義
バイオ燃料は以下のように定義がされています。
動植物などから生まれた生物資源の総称で、これらの資源からつくる燃料をバイオマス燃料と呼びます
資源エネルギー庁
バイオ燃料の資源は私たちの身近な場所にたくさん存在し、活用することが可能です。例えば、サトウキビやトウモロコシ、微細藻類といった「栽培作物系」と生ごみや下水汚泥といった「廃棄物系」はバイオ燃料の代表的な資源です。
藻類バイオマスの存在
バイオ燃料の普及が叫ばれる中、注目されているのが「藻類バイオマス」の実用化です。世界に2000種以上生息している藻の中から、油を溜め込む性質に優れた藻を探し出し、バイオ燃料に利用する研究が各地で行われています。
藻は植物バイオマスより高い生産性を持ち、繁殖する土地を選ばないため、次世代のバイオ燃料を担う存在になると多くの企業が注目しています。
バイオ燃料の種類

バイオ燃料は液体燃料である「バイオエタノール」「バイオディーゼル」、気体燃料である「バイオガス」の3つが広く利用されています。
バイオエタノール
バイオエタノールはサトウキビやトウモロコシの糖を発酵させて製造するエタノールで、ガソリンの代替になりうる燃料の1つです。ブラジルではサトウキビ、アメリカはコーン、欧州はビーツ(砂糖大根)を原料としてバイオエタノールを生成しています。
バイオエタノールとガソリンを混合した「混合ガソリン」は、化石燃料と比較してCO2排出量が少なく、エコ燃料として重宝されています。
混合ガソリンは混合比率やその原料によって以下のように分類されます。
E10ガソリン | バイオエタノールを10%含んだガソリン |
E15ガソリン | バイオエタノールを15%含んだガソリン |
ETBE | エチル・ターシャリー・ブチル・エーテルのことで、バイオエタノールと イソブテンから合成される。ガソリンと混合して利用する |
バイオディーゼル
バイオディーゼルは油やしや菜種の果実に含まれる油を加工して作るディーゼル燃料です。主に軽油と混合して利用され、トラックやトラクター、発電機の燃料になります。
バイオディーゼルはBFO(Bio Diesel Fuel)と呼称されることが多く、BFOの中でもFAME(脂肪酸メチルエステル)やHVO(水素化植物油)は世界中で利用される燃料です。
アメリカや欧州は大豆由来のバイオディーゼルが主流ですが、日本では植物油や廃食用油を活用したバイオディーゼルの製造に力を入れています。
バイオガス
バイオガスは生ごみや下水汚泥、家畜排せつ物を発酵・嫌気性消化させて生成するガスです。中国やインドでは発電や熱供給にバイオガス中のメタンが利用され、家庭用のバイオガス施設が普及しているほどです。
バイオガスの利用は環境保全・地域振興の2つの面にメリットがあるため、商業的な大規模バイオガス施設を建設する取り組みが盛んになっています。
世界各国のバイオ燃料の使用状況

環境に優しいバイオ燃料ですが、国によって普及の速度が全く異なる状況です。普及の速度に違いができる原因は、国が保有する資源の多さや加工技術の高さが関係しています。
例えば、2018年時点でバイオエタノールは生産・消費量ともにアメリカとブラジル2カ国がシェアの8割を占める状況です。アメリカやブラジルは国土が広く、資源が豊富なことも普及が進む理由の1つですが、国内の政策としてバイオ燃料の販売を義務化したことが大きく影響しています。

出典:「IEEI国際環境経済研究所 バイオ燃料の現状と将来(1)」
ここからはアメリカ・ブラジル・日本におけるバイオ燃料の使用状況を見ていきます。
アメリカ
1980年代からバイオエタノールの生産を始めたアメリカは現在、E10を中心としたバイオエタノールの消費量が据え置きまたは減少傾向にあります。バイオエタノールの消費が増加に転じない理由として挙げられるのが「ブレンドウォール」です。
バイオエタノールはE10やE15のようにガソリンと混合して消費するのが一般的ですが、アメリカではガソリンの消費量自体が2000年代からほとんど横ばいの状態のため、バイオエタノールの消費量も増加しない現象に陥っています。これをブレンドウォールと呼びます。
現状を打破するには、国政やインフラ整備で活路を見いだすしかなく、バイオ燃料にとって追い風が吹くかどうか不透明な状況です。
ブラジル
ブラジルの2020年におけるバイオ燃料生産量は、前年比で10%の減少になると予想され、ブラジル食糧供給公社(CONAB)は対応に追われました。
コロナ渦で人の外出が減り、ガソリンの需要も減少したことが大きな原因です。ブラジルでは古くからサトウキビの糖を使いバイオエタノールを生産してきましたが、現在はサトウキビを食用である砂糖に加工する動きが強くなっています。
今の社会情勢が続くと、近いうちにエタノール生産事業者の実に25%が倒産するとシミュレーションされています。
バイオ燃料のメリット

バイオ燃料のメリットは2つ、「再生可能エネルギーであること」と「安定供給が可能なこと」です。この2つのメリットがあるからこそ、バイオ燃料への転換が叫ばれているのです。
再生可能エネルギーである
バイオ燃料は再生可能エネルギーの定義に準じた燃料です。再生可能エネルギーは次の3つの特徴があります。
- 地球上のどこにでも存在する
- 枯渇しない半永久的な資源
- CO2を排出しないクリーンなエネルギー
バイオ燃料は燃焼するときにCO2を排出しますが、これは植物が成長過程で吸収したCO2と見なすことができるため、実質大気中に排出するCO2はゼロであると考えられています。この考え方をカーボンニュートラルと呼びます。
つまりバイオ燃料は環境保全に優れた燃料の1つと言えるのです。
安定供給が可能
バイオ燃料は安定供給が可能なことがメリットの1つです。安定供給は同じ再生可能エネルギーである太陽光や風力にも難しいことで、バイオ燃料ならではのメリットと言えます。
バイオ燃料の資源は地球上に普遍的にあるものが中心で、天候に左右されることはありません。さらにバイオ燃料は化石燃料のように他国からの輸入に頼る必要がなく、国内生産が半永久的に可能なので、世界情勢に左右される心配が消滅します。
バイオ燃料の課題・デメリット

メリットが大きく取り上げられるバイオ燃料ですが、「コスト面」と「食糧と環境のバランス」に関してデメリットがあります。世界特に日本でバイオ燃料が思うように普及しないのはデメリットが原因の1つです。
コスト面
バイオ燃料のコストは化石燃料と比較すると大幅に高くなる傾向にあります。その理由としてバイオ燃料は資源の収集や運搬、管理に莫大なコストがかかることが挙げられます。
バイオ燃料を安定して生産するためには、資源の収集や運搬、管理を統率・最適化するシステムの構築が必要で、特に日本のように広大な土地を確保することが難しい国では最重要課題です。
食糧と環境のバランス
バイオ燃料の普及は食糧と環境のバランスを崩す可能性を秘めています。これはバイオ燃料が動植物を由来としていることに原因があります。
例えば、栽培したトウモロコシをバイオ燃料の資源として利用した場合、食糧としてのトウモロコシの量は減ります。するとトウモロコシの価格が高騰し、消費者の負担になる可能性が高くなるわけです。
他にも、バイオ燃料の資源確保のために森林を伐採すれば環境破壊につながります。まずはバイオ燃料が何のために必要なのかを考えなおして、食糧と環境のバランスを計算することが大切です。
バイオ燃料の代表的企業:株式会社ユーグレナ

バイオ燃料を活かした環境問題の是正を目指す企業が日本にも存在します。ここでは「ユーグレナ」のバイオ燃料事業をご紹介します。
ユーグレナ社は2020年4月から微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)を由来とするバイオディーゼル燃料の供給を開始しました。2020年3月末に横浜市鶴見区でバイオディーゼル燃料の実証試験を開始して以来、たくさんの企業と提携しユーグレナ由来のバイオディーゼル燃料普及に努めてきました。
ユーグレナ社では石垣島にある施設で、バイオディーゼル燃料となるミドリムシを大量に培養しています。ミドリムシの培養に関しては2019年から伊藤忠とともに海外で実証実験を行い、培養技術を高めた背景があります。
ユーグレナ社は2025年に巨大プラントを建設し、バイオ燃料の生産量を今の2000倍、生産コストを今の100分の1にする方針です。
バイオ燃料普及の壁は高い

今回はバイオ燃料の種類やメリット・デメリットをご紹介しました。世界におけるバイオ燃料の状況を鑑みるに、普及の壁は高いと言わざるを得ません。
まずはバイオ燃料に関する政策を国が立ち上げ、人々がバイオ燃料に興味を持つことが大切です。そうすれば国内にユーグレナバイオディーゼル車が行き来する時代もすぐ訪れるのではないでしょうか。
今回の記事を読んでバイオ燃料の「カーボンニュートラル」に興味を持たれた方はこちらの記事をご覧ください。