炭素税とは?

炭素税は、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量(厳密には、原料や製品などに含まれる炭素の含有量)に応じて課税される税金のことで、環境保全を目的とした「環境税」のうちの1種と言えます。
炭素税を導入することで、CO2削減に対して、企業や個人の行動や意識が促進される効果が期待されます。
炭素税は“カーボンプライシング”の代表例

炭素税について理解を深めるには、「カーボンプライシング(CP)」の概念を押さえておく必要があります。
カーボンプライシングは言葉のとおり、「炭素の価格付け」を指し、CO2排出量に応じて企業や個人にコストを負担させる仕組みのことを言います。
近年、このカーボンプライシングの動きが世界的に広がっていますが、具体的な手法としては大きく分けて2つあります。
- ・炭素税
- ・排出量取引制度
炭素税については先述の通りですが、「排出量取引制度」は予め企業などが排出できるCO2の上限量を決めておく制度を指します。上限を越えてCO2を排出せざるを得ない場合は、上限に達していない企業などからお金を払ってCO2を買い取るという仕組みです。
現在、日本ではまだ「排出量取引制度」の導入は検討中です。本制度は、制度設計が非常に難しく、どの企業にどれだけの排出枠を与えるかなど、課題が多々あります。
しかし、本制度を既に導入し始めている国も増えつつあり、今後の動向が注目されています。
日本の炭素税の導入状況
日本では、広義の意味では炭素税とも言える「地球温暖化対策税」が2012年より導入されています。
その内容としては、CO2排出量1トンあたり289円が企業などに課されるというもので、税収は年間で2,500億円ほど。
ただ、諸外国に比べるとまだまだ税率は低く、2019年10月の消費税10%増税に伴い、再び炭素税の導入が話題に挙がるようになりました。
現在では、炭素税の具体的な導入について特に目処は立っていません。
と言うのも、炭素税の導入は産業界に大きな影響を与えるため、経済産業省や経団連が歯止めをかけているという背景があるからです。
炭素税による収入の使用用途

CO2は、企業においても個人においても、何かしらの形で排出しているもの。
つまり、炭素税は国民全員が対象となる税金であるため、その使用用途は気になるところです。
新たな炭素税の導入はこれからですが、既に導入されている「温暖化対策税」の使用用途を参考にしてみましょう。
炭素税は、税収アップというより、社会的・経済的政策に使用することを目的としている点に特徴があります。こうした税金を“作用目的税”と呼びます。
具体的な使用用途としては、主に以下の3点が挙げられます。
- ・CO2排出量の少ない省エネ機器や自動車の購入補助
- ・温暖化対策技術や新エネルギーの開発補助
- ・社会保障費や公共サービスの財源
温暖化対策のために徴収している税金で、さらに温暖化対策を促進するという二重の効果を狙っていることが分かります。また、新たな税金が課税されるとなると、企業や個人にとって負担のかかる側面に注目しがちですが、その分社会保障費が軽減されるなど、なるべく産業・消費活動に支障が出ないよう工夫がされています。
炭素税導入のメリット・デメリット

私たちの暮らす地球を守るため、地球温暖化対策を行うことに意義を申し立てる人はなかなかいないでしょう。ただし、負荷の高い税負担や、業界や企業間の不公平感があれば、誰もが納得することはできません。
炭素税を導入するメリット・デメリットを改めて整理してみましょう。
主なメリット
主なメリットは以下の3点です。
- ・地球温暖化対策への具体的な行動を促すことができる
- ・新エネルギーの導入を推進できる
- ・省エネ効果のある製品を普及できる
- ・さまざまな社会課題の解決につながる
1つずつ詳しく見ていきましょう。
メリット①:地球温暖化対策への具体的な行動を促すことができる
当然のことですが、課税によって金銭的な影響が出るならば、なるべく支出を抑えるための行動をしようとする意識が働くようになります。
地球温暖化というと、どこか他人事のように聞こえることもあると思いますが、課税という目に見える形で影響が現れることで、問題を自分事化することができるのです。
メリット②:新エネルギーの導入を推進できる
先ほど、炭素税の使用用途についての項目でも触れましたが、課税によって得られた収入は、新たな温暖化対策技術にも使われることになります。
現在日本では、化石燃料を使用しない発電についてはまだまだ発展途上です。炭素税の収入を使用して新しいエネルギー開発を進めることができれば、根本的なCO2排出量削減につなげることができます。
メリット③:省エネ効果のある製品を普及できる
冷蔵庫やエアコンといった家電製品は、年々性能が高まり省エネ技術も向上しています。
しかし、せっかくそういった製品が誕生しても、消費者が買い替えを行わなければ意味がありません。
炭素税を導入することで、こうした製品を開発する企業を優遇することができるほか、財源を使用して省エネ製品の買い替え補助に充てることで、消費者の購買を促すこともできます。
メリット④:さまざまな社会課題の解決につながる
先ほど炭素税は“作用目的税”というお話をしましたが、炭素税の使用用途をさまざまな政策と組み合わせることで、社会課題の解決につなげることが可能です。
例えば、社会保障や福祉の充実に財源を充てたり、低所得者層に再配分されるような仕組みをつくったりすることもできます。
税金は、本来私たちの生活をより豊かにするものであるべきです。
他の税金に比べて、炭素税は使用用途に柔軟性があるため、幅広い分野での還元ができるでしょう。
主なデメリット
主なデメリットは以下の3点です。
- ・産業の空洞化につながる可能性がある
- ・低所得者に負担がかかる
- ・産業界の成長を止めてしまう可能性がある
1つずつ詳しく見ていきましょう。
デメリット①:産業の空洞化につながる可能性がある
日本国内での活動に重い炭素税をかけてしまうと、海外を拠点にして活動する動きが促進されてしまう可能性があります。
現状、国によってCO2排出量の制限度合いはさまざまななので、せっかく国内で規制をかけたとしても、規制が緩い国でCO2を大量に排出していたら、全く意味がありません。
自由経済下においては、企業が海外を拠点に活動すること自体を制限することはなかなかできませんが、産業の空洞化に対する施策を十分に練った上で制度設計を行う必要があります。
デメリット②:低所得者に負担がかかる
炭素税は、CO2排出量に応じて一律に課税されるものなので、所得が低い人ほどその負担は大きくなります。仕組みとしては消費税と同じですね。
低所得者層の負担を軽減するためには、先ほどメリットの3つ目でご紹介したとおり、炭素税を社会政策全体のなかで扱いながら、負荷の軽減を検討する必要があります。
デメリット③:産業界の成長を止めてしまう可能性がある
炭素税の導入は、産業の特性上CO2排出量が多く、炭素税の影響を特に受けやすい鉄鋼や化学業界などに大きなダメージを与えます。
日本は化石燃料を輸入に頼っており、もともとエネルギーコストが高いにも関わらず、さらに炭素税が上乗せされるとなると、日本のものづくりを支える企業にとってはかなり厳しい状況です。
こうした背景から、炭素税の導入については産業界の反対の意向が強く、なかなか前進しない事情があります。今後、どういった形で産業界の成長とCO2の削減を両立していくかは、非常に難しい課題となっています。
環境先進国での取り組み事例

近年、世界各国で炭素税の導入が進められていますが、中でも1990年代からいち早く炭素税を導入してきた環境先進国である、
- ・フィンランド
- ・スウェーデン
- ・デンマーク
の取り組みについて、概要をご紹介します。
事例①:フィンランド

出典:環境省(https://www.env.go.jp/policy/tax/misc_jokyo/attach/intro_situation.pdf)
・1990年に世界初の炭素税を導入
・炭素税収を所得税の減税や企業の社会保障費削減による税収減の一部に充てている
・2011年以降、「暖房用燃料」と「輸送用燃料」の税率を分離している
・産業用電力やバイオ燃料に対しては減税するなどメリハリをつけた措置を行っている
事例②:スウェーデン

出典:環境省
(https://www.env.go.jp/policy/tax/misc_jokyo/attach/intro_situation.pdf)
・1991年に炭素税の導入および法人税を大幅に減する税制改革を実施
・CO2排出量の削減とGDP成長の両立を達成し、環境と経済を切り離すことに成功
・炭素税率を上げるタイミングと同時に、低所得者層の所得税引き下げを実施
事例③:デンマーク

出典:環境省
(https://www.env.go.jp/policy/tax/misc_jokyo/attach/intro_situation.pdf)
・1992年にCO2税を導入
・当初は、産業部門に対して大幅な軽減税率を適用していたが、2010年に税率を一本化
・2010年以降の毎年の税率引き上げは、インフレ率に応じて自動的に設定
今後の炭素税導入の動きに注目

炭素税は、企業にとっても個人にとっても、影響のある税制制度です。
温暖化対策という、誰もが意識して行動しなければならないことではありますが、課税のメリット・デメリットがそれぞれあることが分かりました。
現在日本では、具体的に新たな炭素税が導入される動きはまだ見られていませんが、世界的に環境への関心が高まっている中、導入される日も近いかもしれません。
特に産業界への影響は必然的に大きくなるため、炭素税に関する今後の動向に注目です。
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