バーチャルウォーターとは?

バーチャルウォーター(仮想水)とは、食料や畜産物を輸入し消費している国において、輸入した食料を自国で生産すると仮定したときに必要と推定される水のことです。
この概念はロンドン大学東洋アフリカ学科名誉教授のアンソニー・アラン氏によって提唱されました。
例えば、1kgのトウモロコシの生産には1,800リットルの灌漑用水が必要です。また、牛はとうもろこしをはじめとした穀物を大量に消費して育つため、牛肉1kg の生産にはその20,000 倍もの水が必要です。
国は海外から食料を輸入することによって、これらの生産に必要な分の自国の水を使わずに済みます。すなわち、食料の輸入は形を変えた「水」の輸入と考えることが出来ます。
一般的に食糧自給率が低い国ほど輸入に頼らざるを得ないため、必然的にバーチャルウォーターの輸入割合も上がると言えます。

バーチャル・ウォーターの概念がつくられた背景は、水不足の国の消費者に食料や衣服など、生産に大量の水を使用する商品をいかに届けるか、という問題意識からでした。
国際的な輸出入が活発に行われている現代では、水不足の国々や食料自給率の低い国は、食料を輸入した相手国の水資源に大きく依存しています。一方でその様相は目には見えません。
そこで生産時に必要な水の量を想定することで、国内の消費が他国の水に依存している度合いを可視化し、持続するための消費行動の改善の促しなどを行うためにバーチャルウォーターが用いられるようになりました。
バーチャルウォーターとウォーターフットプリントの違い
バーチャルウォーターと類似している言葉に、ウォーターフットプリントがあります。
ウォーターフットプリントとは、モノやサービスを消費する過程で消費された水の総量を図る概念です。バーチャルウォーターとウォーターフットプリントの違いは大きく2点あります。
1点目は、前者は生産にかかる水の量のみを算出しているのに対し、後者は輸送や消費、消費後リサイクルなど商品が生み出されてから使われた後までの全てのプロセスで消費される水に着目している点です。
2点目は、前者は消費される水の総量のみを算出しているのに対し、後者は消費された水の水源地や内訳まで推測している点です。
これらからウォーターフットプリントはバーチャルウォーターの上位概念であり、バーチャルウォーターはウォーターフットプリントを考える一つの要素ということができます。
バーチャルウォーターの計算例・代表的な食べ物の数値例

自分達が日頃食べている食べ物の生産に使用された水の量をイメージするのは簡単ではありません。そこで、環境省のホームページには、食品とその分量(食事の場合は原材料の分量)を入力することでバーチャルウォーターを算出する仮想水計算機が設置されています。
計算方法としては、原材料ごとに単位量あたりのバーチャルウォーターが定められており、それぞれの原料の分量に応じて最終的なバーチャルウォーターを算出しています。
実際に計算を行ってみると、自分たちの消費に必要な水の量が、意外なほど多いことがわかります。
ここからは、自分たちにとって身近な食べ物のバーチャルウォーターを実際に計算したものをいくつかご紹介します。
おにぎり
とりそぼろおにぎりの原材料と合計のバーチャルウォーターは以下の通りです。
- お米(0.8合):444リットル
- 鶏肉(20g):90リットル
- 合計(とりそぼろおにぎり1個):534リットル
ハンバーガー
ハンバーガーの原材料と合計のバーチャルウォーターは以下の通りです。
- 牛肉(45g):927リットル
- パン(45g):72リットル
- 合計(ハンバーガー1個):999リットル
牛丼
牛丼の原材料と合計のバーチャルウォーターは以下の通りです。
- 牛肉(70g):1,442リットル
- たまねぎ(20g):3リットル
- ごはん(120g):444リットル
- 合計(牛丼1杯):1889リットル
塩ラーメン
塩ラーメンの原材料と合計のバーチャルウォーターは以下の通りです。
- 小麦粉(200g):420リットル
- 卵(55g):176リットル
- 鶏がら(250g):75リットル
- 大根(360g):46リットル
- 豚ひき肉(35g):206リットル
- にんじん(50g):9リットル
- キャベツ(150g):18リットル
- たまねぎ(125g):20リットル
- 合計(塩ラーメン1杯):970リットル
日本茶のバーチャルウォーター
日本茶の原材料と合計のバーチャルウォーターは以下の通りです。
- 日本茶(3g): 19リットル
- 水(90cc):0.09リットル
- 合計(日本茶1杯):19リットル
ここまで紹介してきた以外の食べ物でも、自分で原材料とその分量を調べて入力することで、バーチャルウォーターを算出することができます。
世界のバーチャルウォーターの現状と問題点

世界のバーチャルウォーターの現状を見ると、大きくバーチャルウォーター輸出国とバーチャルウォーター輸入国に分かれています。主要なバーチャルウォーター輸出国・輸入国の例は以下の通りです。
バーチャルウォーター 輸入国 | バーチャルウォーター 輸出国 |
アメリカ合衆国 | アメリカ合衆国 |
日本 | 中国 |
ドイツ | インド |
イタリア | ブラジル |
中国 | アルゼンチン |
このようにそれぞれの主要国を挙げると、バーチャルウォーター輸入国の多くは先進国であることがわかります。この構図には問題が潜んでおり、その問題とは、輸出国の水を利用することでその国の水問題を悪化させてしまう可能性があるということです。
本来バーチャルウォーターの理想形は、水資源の豊富な国が輸出し、水不足になりがちな国が輸入することでバランスが取れることです。ところが実際には、水不足であるにもかかわらず経済成長を輸出に依存し、バーチャルウォーター輸出国となって水不足に拍車をかけている国は多くあります。
1日6回も水汲みに出なくてはならないインドや、灌漑設備が干上がって泥水を汲みに3時間歩くエチオピア。世界最大の地下水輸出国のパキスタンでは利用可能な水が毎年80%ずつ減少しており、またアメリカのカリフォルニア南部では、水不足のためすべての水を北部から購入している状態です。

一方で水資源が豊富にもかかわらずバーチャルウォーター輸入国となっている、過剰に水資源を消費している国も多く存在します。
日本はその代表例で、年間の降水量が多く水資源が豊富な国であるにもかかわらず、食料自給率が低く、多くの農産物を輸入するバーチャルウォーター輸入国です。
日本のように清潔で安全な水をいつでも豊富に使える国が海外の水もふんだんに消費している一方で、水不足による不衛生な環境にいながら、生きていくために貴重な水を消費して作物を作り、輸出せざるを得ない人達も世界にはいるというこの現状を、バーチャルウォーターは浮き彫りにしています。

そしてバーチャルウォーターを取り巻く世界の問題は、今後ますます深刻になって行くことが予想されます。
水源の需要拡大や人口の増加、気候変動によって、2040年までに、中東・北アフリカを中心に33ヶ国で重大な水ストレスが発生すると予測されています。この33か国にはアメリカ・中国などの先進国も含まれており、経済的な悪影響も懸念されます。
さらに2050年以降には、50億人以上が水不足に直面し、ロンドン・東京・モスクワといった比較的水資源が豊富な国でも水の入手が困難になると予測されています。
日本のバーチャルウォーターの現状

日本は世界有数のバーチャルウォーター輸入大国です。
環境省と特別非営利活動法人日本水フォーラムが算出した数値によると、海外から日本に1年で輸入されるバーチャルウォーター量は、約800 億立方メートル(2005年)です。これは、日本国内で使用される年間水使用量と同程度です。
このバーチャルウォーターの大半は食料に起因しています。日本はカロリーベースの食料自給率が40% 程度と非常に低く、食料の供給の多くを輸入に頼っているため、他国と比較してかなりの量のバーチャルウォーターを輸入しているのです。
さらに、日本の食料自給率は年々低下してきました。主な低下の理由は、日本人の食生活の変化です。
主食である米の消費量が50年で半分に減少してパンやめん類など小麦粉を使う主食が増加したことや、生活レベルが向上して肉、乳製品、油脂などの消費が増えたことが、食料自給率の年々低下を引き起こした一因であると言えるでしょう。

このように、日本は水資源が比較的豊富であるにもかかわらず大量のバーチャルウォーターを輸入し、他国の水資源を圧迫しています。
日本が輸入している食品は砂漠の多い国や水不足な国から来ていることも多く、生産国の圧迫につながっています。
例えば日本に多くの農作物を輸出している中国北部や米国中西部では、循環している水資源の6割を使用していて水ストレスが高く、米国中西部のカリフォルニア州セントラルバレーでは、ここ数年干ばつによって農業用水を確保できず、多くの農家が失業する事態に陥っています。
バーチャルウォーターを減らす解決策

世界のバーチャルウォーターの現状でも触れたように、世界の水不足問題は年々深刻さを増しています。対策が急務な環境問題であり、国や団体、企業といった各主体が解決策を講じています。
団体の代表例としては、国際NGOのウォーターエイドがあります。ウォーターエイドでは、2030年までに世界中の人々が、必要な水を必要な時に利用できるようになることを提言し、行政機関をはじめ、企業への呼びかけをしています。
企業主体の取り組みとしては、ディアジオ社やH&Mが挙げられます。
ディアジオ社では特定の年までに生産工場で消費される水量を50%にする「ウォーターブループリント戦略」を打ち出しており、また事業以外でもアフリカへ清潔な水、衛生設備を支給する活動も行っています。
H&Mグループでは、生産に使用する水量の25%削減や、生産時に使用する水の80~90%の再利用に着手し、見事成功をおさめました。またH&Mの創業者一族が出資する基金では、カンボジア、エチオピア、ウガンダ、パキスタンへ清潔な水と衛生設備の提供活動を行なっています。
まとめ
先進国、とりわけ豊かな水資源に恵まれた日本では、水不足の問題は他人事のように感じられるかもしれない。しかし、海外の水不足やそれに付随する様々な問題は、日本人の消費用輸入により起こっている側面もあります。
日本の食料廃棄は、毎年1,900万tだ。バーチャルウォーターを大量に輸入していながら、同時に大量に廃棄していることになる。
消費できる分だけを買う、そして可能なら国産のものを食べれば、輸入されるバーチャルウォーターの削減に繋げていける。
そしてこの問題は個人一人一人から取り組むことが非常難しい問題であり、国や企業と言って大きな主体が動く必要がある問題であるといえます。
近年企業が世界の環境や社会に貢献する活動(ESG)を行うこと
まずは、「バーチャルウォーター」についての見識を高めて、小さなことでも一人ひとりができることを始めてみましょう。