男女雇用機会均等法とは

男女雇用機会均等法とは、正式名称「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」の通称で、職場や雇用機会における男女差別を禁止することを目的に定められた法律のことです。
企業の経営者や管理者が募集・採用・配置・昇進・福利厚生・定年・退職・解雇といった各項目において性別を理由とする差別を禁止することを定めている他、セクシャルハラスメント防止のための雇用管理も事業主に対して義務づけています。
男女雇用機会均等法による社会変化は多岐に渡りますが、身近な例としては看護婦が看護師に、スチュワーデスが客室乗務員に名称変更されたことなどが挙げられます。
男女雇用機会均等法の歴史
男女雇用機会均等法の前身は、1972年に制定された「勤労婦人福祉法」です。制定の背景としては高度経済成長期、社会進出の機会が増えた女性が差別的な扱いを各地で受けたことが問題視されたことにあります。
このような背景から、性別に関係なく能力を十分に発揮できる環境を望む声が多くあがり、勤労婦人福祉法を発端として法整備が進みました。
その後男女雇用機会均等法は勤労婦人福祉法を前身として1985年に制定され、1986年に施行されました。今では30年以上の歴史があります。
現在では育児・介護休業法や女性活躍推進法などの関連法令とあいまって、日本国憲法に定める「両性の(法の下の)平等」を実現するだけでなく、女性の社会進出の促進までを射程とした広範な権利・義務を規定する重要な法令として位置づけられています。
男女雇用機会均等法で遵守すべき項目

男女雇用機会均等法では、募集や採用、配置や昇進、教育訓練や福利厚生などさまざまな面において性別による差別を禁止しています。
ただし、社内の女性の人数が少なく、女性のみで支店を立ち上げるなど「ポジティブ・アクション」と呼ばれる男女間の差を解消するための取り組みは、差別に該当しません。あくまで男女格差が開くことを助長する優遇のみが対象となります。
ここからは事業主に対して禁止されている、男女格差が開く差別の具体的な項目について詳しく説明します。
求人募集
求人募集の際に、男性または女性のいずれかを募集対象から外すことは禁止されています。
一方の性別を禁止していない場合でも、性別ごとに異なる採用枠数や採用条件を設けるとも禁止となります。
また、「男性歓迎」「女性歓迎」のような、一方の性別を歓迎する表現も禁止です。
面接・採用
面接や採用を行う際、男女で差別的な扱いをすることは禁止されています。例としては、以下のような事例が挙げられます。
- 就職活動者に対して「結婚や出産後も仕事を続けようと思うか」と質問し、それを判断材料に用いる
- 女性のみが採用試験の受験に推薦書を必要とするプロセスにする
一方で、結婚出産後の仕事に関してなどは、会社の産休制度の整備において重要なポイントであり、差別的な選考を行わないながらも会社の制度は整える必要がある点が、困難を極めます。
人員配置
性別を理由にした不当な人員配置は禁止されています。例としては、以下のような事例が挙げられます。
- 営業職を男性のみとする
- 受付や秘書を女性のみとする
- 結婚や子供の存在を理由に、特定の職務への配置の対象外とする
昇進・降格
性別を理由にして昇進させないことは禁止されており、以下のような制度は不当にあたります。
- 女性には役職への昇進の機会を与えない
- 一定の役職までしか昇進できない
- 昇進試験において、女性のみ上司の推薦を必要とする
現在日本の女性の管理職比率が低い現状は、能力以前にこのような不当な昇進条件が多いことである可能性があります。
教育・訓練
教育・訓練の際、男女間での差別は禁止されています。例としては以下のような差別です。
- 一方の性別を教育・訓練の対象外とする
- 研修の内容や期間を男女で異なるものにする
- 教育・訓練の実施にあたり、男女間で異なる勤続年数や勤務率の条件を提示する
福利厚生
性別によって、福利厚生を差別することは禁止されています。以下の例が該当します。
- 貸付や給付、住宅貸与などの要件を男女間で異なるものにする
- 世帯主を対象とした補助、女性の場合は配偶者よりも収入が多い場合に限る
- 女性にのみ配偶者の所得証明を求める
- 会社の寮の入居対象者を特定の性に限定する
職種や雇用形態の変更
職種や雇用形態の変更の際に、性別によって不当な扱いをすることは禁止されています。例としては以下のようなものが挙げられます。
- たとえば総合職から一般職への変更にあたって、男性の一般職への変更を認めない
- 女性のみ、一定年齢に達したら専門職から事務職へと変更する
- 有期契約労働者が正社員になる際、試験の基準を男女間で異なるものにする
解雇
性別を理由とした不当な解雇は禁止されています。例としては以下のようなものが挙げられます。
- 経営を合理化するために、女性のみを解雇の対象とする
- また解雇の際、男女のどちらかを優先する
- 解雇基準を設定する際に、男女間で異なる条件をつける
労働契約
性別を理由にして労働契約を変えることは禁止されています。たとえば経営を合理化するために、男性のみを労働契約更新の対象とし、女性については更新しない(雇止め)などです。
また労働契約の更新にあたって、男女どちらかを優先させてもいけません。労働契約の更新基準を満たす従業員から、女性よりも男性を優先させて更新の対象とするのは不当です。また、男女いずれかに契約更新の上限回数を設けるなども違法となります。
間接差別と直接差別

男女差別にあたる内容は大きく直接差別と間接差別の2種類に分かれています。
直接差別とは、ここまで紹介してきたような労働条件で男女間の条件を変えるなどの直接的な差別のことです。一方で形式上は男女差がないものの、一方の性別が不利になるような間接的に差別にあたる内容を、間接差別と言います。
男女雇用機会均等法においては、以下の3つの措置は合理的な理由がない場合間接差別として禁止されます。
a. 労働者の募集又は採用に当たって、労働者の身長、体重又は体力を要件とすること。
b. コース別雇用管理における「総合職」の労働者の募集又は採用に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること。
c. 労働者の昇進に当たり、転勤の経験があることを要件とすること。
引用元:厚生労働省「男女雇用機会均等法のあらまし」
b、cについては禁止される理由が少しわかりにくいですが、転居を伴う転勤や転勤を女性が男性に比べてしにくい環境であるため、これらは間接差別にあたります。
男女雇用機会均等法の遵守はESGにつながる?

男女雇用機会均等法を遵守し男女平等の実現に動くことは、企業にとって法の遵守以外にもメリットが存在します。それがESG経営につながるという点です。
ESGとは環境(Environment)、社会(Society)、ガバナンス(Governane)の頭文字をとってできた言葉で、持続的な開発や企業経営を行うために配慮すべき3項目のことを指します。
近年ESG経営を行なっている企業に投資をするESG投資の潮流が生まれていることで、安定した企業成長のためにはESG経営が不可欠であるという考え方が一般的になってきています。
そしてESGの項目の中で海外と比較して日本が特に課題としているのが、 Socialの1要素として存在する男女格差なのです。

世界経済フォーラムが毎年公表している、男女平等の度合いを評価したジェンダーギャップ指数のランキングによると、日本の男女平等は121位/153国と、G7主要国の中で最低順位となっています。
評価項目の一つである経済面では、男女の賃金や管理職比率で格差が開いており、また非正規社員比率は男性22.3%、女性56.4%と採用の領域でもその差は顕著です。
このように日本の男女格差には課題が山積みであり、先駆けてその差を解消する活動を行うことでも国内他社とは大きく差がつき、企業価値の向上につながるといえます。
ESGについてより詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
近年の改正動向

男女雇用機会均等法は1986年に制定されたものですが、1999年に男女差別の禁止項目が努力義務から禁止規定となった改正を皮切りに、様々な改正がなされてきました。
2000年代に突入してから最初の改正は2007年です。この改正では出産・育児による不利益取扱の禁止や、1999年の改正時点で規制されていなかった男性に対する差別、セクシャルハラスメントの禁止などが規定されました。
そしてこの時に定められた出産・育児差別の禁止を強固にするため、2017年の改正で妊娠・出産等に関するマタニティハラスメント防止措置義務が新設されています。
さらに2020年の改正では職場のパワーハラスメント防止措置が義務づけられた他、セクシャルハラスメントやマタニティハラスメント等の防止指針が改正強化されています。
また、ここまで上げたものは禁止事項や防止指針の改定ですが、目標に関しての見直しも行われてます。
2020年7月、日本政府は「2020年度までに指導的地位に女性が占める割合を30%にする」目標を先送りし、「20年代の可能な限り早期」に変更する方針を示しています。