法人税の負担を軽減するために、企業は役員報酬の損金算入を行います。しかし、役員報酬が損金不算入として扱われると所得を減らせず節税できません。
平成29年度の税法改正で、損金算入についての見直しが行われたことは企業にどのように影響を与えたでしょうか。損金算入の概要とともに、確実に役員報酬を損金算入する3つのポイントを紹介します。
損金算入とは?

損金算入とは法人税を割り出すときに差し引ける費用です。法人の財産を減少させる原因となる損金は原価・費用・損失の3項目に分類できます。些細な費用・損失でも、損金として扱われることにより法人税を節約できます。
損金算入できる金額が大きいほど所得が減り、計算される法人税は少なくなるため経営者にとって重要な節税ポイントです。
損金算入できる3項目について、さらに理解を深めましょう。
年度内に商品化するためにかかった費用である原価、事業を運営するためにかかった販売費や管理費などすべてのコスト、自然災害などで資産価値が減少したときに起きる損失の3つです。
事業運営のためにかかったとしても、損金算入が制限されている費用があります。なかでも、経営者が金額を増減して法人税を操作してしまう恐れがあると考えられているのが「役員報酬」です。
役員報酬の損金算入に関するH29年度の税法改正

平成29年度に税法改正が行われたことによって、原則として役員報酬は損金算入できないようになりました。役員報酬を損金算入できる条件について、税法改正の前と後では、どのように変化したのか解説します。
損金算入に関する税法改正の見直し
平成29年度の税法改正前は、一定の要件に該当している役員報酬は損金算入の対象になりました。不相当と判断される高額な役員報酬でない場合は損金算入し、法人税を節約できていたのです。
しかし、平成29年度に役員報酬の見直しが行われました。日本は欧米に比べて役員報酬の中でも業績連動報酬の割合は低く、固定報酬が中心です。世界の先進諸国と同じように多様な報酬制度の導入を促進したいという企業の声が受け入れられ、役員報酬の種類ごとに損金算入の可否が改めて定められました。
損金不算入の規定が設けられている理由
なぜ、損金算入・不算入の規定が設けられているのでしょうか?日本国憲法で規定されている「平等原則」は税制にも適用されているからです。とくに「特定の人や企業だけが税金を軽減または重課税されることがないように」という公平の原則に基づき、税法が規定されています。
役員報酬は金額を経営者が自由にきめられるため、役員報酬の損金算入に制限を設けなければ法人税の操作が可能です。税制に関する平等原則を守るために、損金算入として認められない規定が設けられています。
役員の範囲とは

では、役員報酬が支払われる「役員」には誰が含まれているのでしょうか。会社法では株主総会で選任された取締役・監査役・会計参与等が役員とみなされますが、税法上の役員は違います。
税法上で役員とみなされるのは、取締役・執行役・監査役・会計参与・理事・監事・清算人などのほか、みなし役員です。損金不算入の規定を実効あるものにするため、一般的な考えよりも広い概念で役員の範囲が定められています。
H29年度の税法改正による損金算入・不算入の概要一覧

平成29年度の税制改正によって、役員報酬の損金算入・不算入はどのように変更されたのでしょうか。役員報酬の内容ごとに定められている、損金算入についての現行制度は次の通りです。
報酬の種類 | 報酬の内容 | 交付資産 | 損金算入可否 (現行制度) | 平成29年度改正 |
---|---|---|---|---|
リストリクテッド・ストック (RS) | 一定期間の譲渡制限が付された株式を役員に付与。 | 株式 | 可能 | 可能 (①類型) |
株式交付信託 | 会社が金銭を信託に拠出し、信託が市場等から株式を取得。一定期間経過後に役員に株式を付与。 | 株式 | 不可 | 可能 (①類型又は②類型) |
ストックオプション (SO) | 自社の株式をあらかじめ定められた権利行使価格で購入する権利(新株予約権)を付与。 | 新株予約権 | 可能 | 可能 (①類型又は②類型) |
パフォーマンス・シェア (PS) | 中長期の業績目標の達成度合いに応じて、株式を役員に付与。 | 株式 | 不可 | 可能 (②類型) |
パフォーマンスキャッシュ | 中長期の業績目標の達成度合いに応じて、現金を役員に付与。 | 金銭 | 可能(利益連動の場合のみ。一定の手続が必要) | 可能 (②類型) |
ファントム・ストック | 中長期の業績目標の達成度合いに応じて、株価相当の現金を役員に付与 | 金銭 | 不可 | 可能 (②類型) |
退職所得 | 退職時に給付する報酬 | 金銭・株式・新株予約権 | 可能 | 可能 (業績連動の場合は②類型の要件を満たすことが必要) |
役員報酬を損金算入する3つのポイント

経営者が役員報酬を増減させて所得を操作できることを懸念し、法人税において役員報酬の損金算入が制限されています。しかし、役員報酬が損金不算入になれば、実際に流出している費用に税金がかかってしまうので注意が必要です。
では、役員報酬を損金算入の対象にできる3つのポイントを解説します。
ポイント1:定期同額給与に当てはまる
まず、役員報酬が定期同額給与でなければなりません。つまり、毎月同じ額の給与を役員報酬として支払い、会計処理していれば税務上でも損金算入できる費用として認められます。
ポイントは「定期」と「同額」です。売り上げに応じて役員報酬を増減していれば定期同額給与に当てはまらないため、損金不算入になります。
急激な業績悪化ゆえに役員報酬を減少させなければならない場合もあるでしょう。役員報酬の厳格決定が分かる証拠を作成していれば、年度の途中で役員報酬額が変わっても損金算入が認められます。また、減額した役員報酬の金額が決算日まで毎月同額であれば損金算入が可能です。
例えば、4月から9月までの役員報酬が毎月10万円だった場合を考えてみましょう。経営悪化により10月から3月までは5万円に報酬を減少したとしても、減額後に決算日まで毎月同額を計上していれば税法上、損金算入が認められます。
ポイント2:事前確定届出が提出済み

定期的な給与以外の臨時報酬は損金算入できないのでしょうか?あらかじめ税務署へ事前確定届出を提出していれば、臨時の役員報酬も損金算入の対象になります。
事前確定届出の提出には株主総会での決議が必要です。決議から1ヶ月を経過する日までに所轄の税務署に届出をしなければなりません。ですから、臨時給与は賞与としてではなく役員給与に含めて、手続きの手間を減らす経営者が多いようです。
ポイント3:「有価証券報告書」への記載
役員報酬として賞与を支給する場合には「有価証券報告書」の記載が必要です。有価証券報告書とは、金融商品取引法により提出が義務付けられており、企業の事業内容や営業状況などが記載された報告書を指します。
有価証券報告書の提出が求められているのは有価証券所有者が1,000人以上の会社です。そのため、同族会社が有価証券報告書を作成し、利益に対する取り決めを記載してるケースは極めて少ないといえます。
過大役員給与は損金不算入になる

上に挙げた損金算入の対象となる3つのポイントを守っていても、金額次第では過大役員報酬と判断される場合があります。
まず、役員報酬が形式基準を満たしているかが判断基準の一つです。会社の定款に記載されている方法で議事録を作成し、役員報酬が定期同額給与になっている証拠を用意しておきましょう。
形式基準だけではなく、役員の業務内容や会社の売り上げ、従業員への給与などの金額がチェックされます。他の同業会社が報告している役員報酬よりも高額である場合は、合理的な理由が必要です。
また役員に対して金銭や土地、建物などの資産を貸した場合には、利息相当額や適正賃料との差額などを役員報酬としてみなされ、過大であると判断される可能性があります。
役員報酬が形式基準と実質基準の両面でチェックされ、適正ではないとみなされると損金不算入になるので注意しましょう。
妥当な役員給与を設定し節税効果を得る

税法改正により、役員報酬は一定の条件を満たさなければ損金算入できなくなりました。しかし、実際に企業の資産から流出している役員報酬を損金として処理することは不可能ではありません。
定期同額給与であることを証明する書類の作成を怠らず、臨時給与を支払う場合は事前確届出を提出しましょう。確実に役員報酬を損金算入するようおすすめします。法人税節約のために役員報酬の損金算入は見逃せません。必要な場合は税理士などの税務のプロに相談しましょう。
また、節税対策を行いながら税金を納めることにより、ESGへの取り組みに説得力を加えられます。ESGに関するさらに詳しい情報は下記の記事をご覧ください。