企業経営や投資をしていく上で「ESG」という言葉をよく耳にしませんか?この言葉は日本では2010年代後半から注目を浴びていますが、世界ではここ15年くらい叫ばれている言葉です。
今後企業価値を挙げていく上で非常に重要な概念であり、特に企業を経営されている方は意味を知っておく必要があります。この記事ではESGの意味やESGが注目される理由、具体的なESG経営の事例をご紹介します。
ESGとは?

ESGとは、三つの単語「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字をとってできた言葉です。企業が長期的に成長していくためにはこれら3つの観点を重要視していく必要があるとの考えが普及してきています。
これらの3ポイントを意識した経営をする「ESG経営」、ESG経営をしている企業に投資する「ESG投資」などの文脈で使われます。
では、この3つのポイントを意識した経営とはどのようなものでしょうか?各単語について見ていきながら、ESGについて理解していきましょう。
E(Environment/環境)

環境を意識した経営とは、事業によって環境にかかる負担を減らす取り組みを含めた経営のことです。具体例は以下が挙げられます。
- CO2の排出削減
- 廃水による水質汚染の改善
- プラスチックゴミの排出量削減
- 再生可能エネルギー比率の向上
S(Social/社会)

社会を意識した経営とは、労働者の勤務条件の是正や男女差別の撤廃など、人権を侵すことのない経営のことです。具体例は以下が挙げられます。
- ワークライフバランスを保った雇用
- 男女比率の改善(女性役員の登用など)
G(Governance/ガバナンス)

ガバナンスを意識した経営とは、不祥事や内部不正が起こらないように社内統治をしっかりする経営のことです、具体例は以下が挙げられます。
- リスク回避のための情報開示
- 法令遵守
ESGと似ている言葉との違い

ESGと見た目も意味も似ている言葉は多数あり、それらは混同されがちです。それぞれの単語の意味とESGとの違いを理解しておきましょう。
ESGとSDGSの違い
SDGsはESGとよく混同されます。SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の略で、「持続可能な開発」と略されます。2015年の国連サミットで採択され、2030年までに持続可能な社会を実現するための17つの目標が示されています。
両者とも要点は似ていますが、SDGsは政府や企業など世界全体で目指すべき具体的な数値目標であり、ESGはその中でも企業の取り組みを評価する際のポイント、と分けると違いがわかります。
ESGとCSRの違い
CSRもESGと混同しやすい言葉です。CSRとは、Corporate Social Responsibilityの略で、「企業の社会的責任」と訳されます。自社の利益のみを考えるのではなく、社会全体の利益を考えるべきであるという、倫理的な責任をうたったものです。
CSRは会社の責任として社会の利益への貢献を求めることなのに対し、ESGは社会問題に取り組むことが長期的には企業の利益につながるから戦略的に取り組むべき、と捉えている点で両者は異なります。
ESG経営が注目されている理由

このESG経営という言葉、一体なぜ注目されているのでしょうか。その理由には、世界の投資事情が関係してきます。
ESG投資が活発になっているから

「ESG投資」とはESGに取り組んでいる企業に投資する手法のことです。近年世界では、この動きが非常に活発になってきています。2006年に国連が、機関投資家が投資先を決定する際にESGへの取り組みを考慮するべきであると提唱する「PRI(責任投資原則)」を発表しました。

PRIに署名している機関投資家の数は年々増加し、現在署名数は2300以上、その運用額は86兆ドルにものぼります。日本では2015年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が署名しており、それをきっかけに日本でもESGという概念が広く知られるようになりました。
世界全体での資産運用額に占めるESG投資の割合は2018年段階で33.4%にものぼり、アンケートでESGを意識すると回答している投資家は75%を越えています。
今後企業が資金調達をしたり株価を上げていく上でESGへの取り組みは一層重要になってくると言えるでしょう。
では、なぜESG経営をする企業に投資する潮流ができているのでしょうか?
ESGが重視されていない経営には長期的リスクがあるから
ESGが投資において重視されるようになったのは、環境・社会問題やガバナンスを無視した経営は、長期的に見て企業の利益を損ない、企業価値を下げるという見方が一般的になっているからです。
2004年に国際機関のUNEP FIに加盟していた12の運用会社が出した「社会、環境、コーポレートガバナンス課題が株価指標に与える重要性(マテリアリティ)」では、以下のように述べられています。
環境、社会、コーポレートガバナンスの諸問題は長期的な株主価値に影響を与える。そしてその影響は、場合によっては深刻なものにもなりうる。
UNEP FI(2004)「The Materiality of Social, Environmental and Corporate Governance Issues to Equity Pricing」から抜粋
ESG経営を怠ったことで企業利益が深刻に損なわれた例としては、以下が挙げられます。
- 2018年にカリフォルニアで発生した山火事で送電設備に不具合のあったアメリカの電力・ガス大手PG&Eの責任が問われ、PG&Eは経営破綻
- 日産のゴーン会長の騒動やレオパレス21の騒動など、ガバナンスの脆弱性によって起こる問題での株価が急落
上記の出来事などもあり、これらのリスクを回避する、すなわちESG経営に力を入れることが長期で見た時には合理的であると言われるようになってきました。
その結果、ESGが投資においても重視されるようになったのです。
ESG経営の事例

これまでESGの意味や注目される理由について説明してきましたが、言っても具体的にどのような活動を行なっているのかピンときていない人も多いのではないでしょうか。ここでは2つの企業を取り上げて、その具体的な取り組み事例を簡単にご紹介します。
スターバックス・コーヒー

ESGの代表的企業といえば、スターバックスです。
2020年1月から開始した紙製ストローの全店舗導入に加え、森林保全につながるFSC認証紙カップの導入など、使い捨て資源の使用量削減の取り組みを次々加速させています。
エネルギーの面では2018年時点で再生可能エネルギー比率は77%に到達し、あと数年で100%にすることを宣言しています。
さらにスターバックスは社会的・倫理的に持続可能なコーヒー豆の調達を行うための購買モデル「C.A.F.E.プラクティス」を2004年に導入しています。2015年には全コーヒー豆の99%がこのCAFEプラクティスやフェアトレードなど、倫理的な調達源からのコーヒー豆となっており、その取り組みは継続されています。
近年ESG経営への取り組み方針を宣言する企業は多いものの、ここまで具体的な数値を公開して実績を出している企業はなかなかありません。
これらの取り組みによってスターバックスは、日経BPが発表した「第一回ESGブランド調査」で総合7位に選出されています。
セブン銀行

セブン&Iホールディングスの銀行事業、セブン銀行ではESGへの取り組みを自社のCSRページで公開しています。
具体的には、ATMを省エネ化したモデルに次々替えることで電力40%削減を達成したり、封筒やリーフレットのFSC認証紙比率を上げるなど、環境への負担を軽減する取り組みを次々と遂行しています。
さらに地方自治体との提携を結んで多文化共生社会実現への姿勢を示したり、社外取締役の比率を増やすことで社内統治の透明性を担保するなど、社会やガバナンス領域にも幅広く取り組んでいます。
ESGの課題点
ESG経営に取り組むことが企業の長期的利益につながるという認識が広まり、ESG経営を行う方向に社会全体が向いていることは、持続的な社会を実現していく上で非常に良い流れであるといえます。
しかし、現状ESGに取り組んでいない企業はまだまだ多いのが実情です。
利益を投資して人員を割り当てる点で先行投資的な活動であるため、資金や人員に余力がなければ取り組むことが難しいのがESGの難点です。この理由から、経営難の企業や中小企業でESGに取り組めていない企業は一定数存在します。
さらに、ESGに取り組んでいる企業でもそれは方針を示すにとどまっており、具体性がないところも多いです。方針さえ示せば企業価値が上がってしまうような現状は一つ問題であると言えるでしょう。
ESG経営に力を入れよう
まだまだ認知されてから日が浅いESG経営ですが、事例などで紹介したように身近から取り組めることは沢山あります。
今一度ESGの重要性を理解し、企業価値を最大限に高める経営とは何か、考えてみると良いかもしれません。