昨今、インセンティブなどを活用した「攻めのガバナンス」に基づいた役員報酬の設計が行われています。
役員報酬については、その額の算定について注目されがちですが、実は支給方法についても細かな制度設計がなされています。
役員報酬に関する税制や各種ルールが整備される背景には、こうした「攻めのガバナンス」を後押しする目的と、不正や利益調整を防ぐ目的があります。
税務上の役員報酬ルールを正しく理解し、実践することは会社経営における重要事項です。
本記事では、役員報酬の体系の1つである「定期同額給与」について解説します。ぜひご参考ください。
定期同額給与とは?

定期同額給与とは、損金算入を行うことができる役員報酬の一種です。
役員報酬の中で、損金算入ができる形態は以下の3つで、定期同額給与も含まれています。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
それぞれの対象と概要を一覧で確認してみましょう。
<主な対象> | <概要> | |
定期同額給与 | 役員の月給 | 1年間毎月定額を支給することで損金にできる役員報酬 |
事前確定届出給与 | 役員の賞与や 非常勤役員の年俸 | 支給の時期と支給額を事前に届けることで損金にできる役員報酬 |
業績連動給与 | 役員の臨時賞与 | 利益に連動して支給される役員報酬 (利用要件が厳しいため、中小企業ではほぼ導入されない) |
上記の通り、定期同額給与は、毎月定額を支給する役員の月給を指します。
ただし、損金算入されるにはいくつかの条件があるので、詳細を次の項目で解説します。
損金算入するための要件

役員報酬を損金算入するためには、以下の3つの要件を満たしている必要があります。
- 報酬額を期限内に決めること
- 毎月の支払額が一定であること
- 相場と比較して不当な金額でないこと
1つずつ詳しく見ていきましょう。
要件①:報酬額を期限内に決めること
損金算入をするのであれば、毎月の役員報酬の金額はいつでも変更できるわけではありません。
変更期限は、会社設立日または事業開始日から3ヶ月以内と明確に定められています。
また、期限を過ぎてから変更をしたいとなった場合も、決算後3ヶ月以内の1度だけという制約があります。
つまり、基本的には1年に1回見直しのタイミングがあるものの、期間中に変更手続きを行わなかった場合は、前年度と同額を支給することになります。
要件②:毎月の支払額が一定であること
役員報酬の額は株主総会などで決定しなければなりません。
また、毎月の給与は金額が一定であることが条件になります。この点は従業員の給与とは大きく異なるポイントです。
株主総会で額を決定した後は、基本的に次の決算までの1年間は変更することができないので、気をつけましょう。
要件③:相場と比較して不当な金額でないこと
役員報酬の金額は、明確な計算式があるわけでないので判断が難しいですが、あまりに相場に反して高額な設定をしている場合、損金算入ができないことがあります。
同業や同規模の会社との比較をした時に、収益規模があまり変わらないにも関わらず、役員報酬の額が何倍も異なっていたらどうでしょうか。このようなケースでは、不正支給と見なされてもやむを得ません。
特に、オーナー企業などで、親族に役員報酬を支払っている場合は注意が必要です。
出勤回数や業務実績などと照らし合わせて、実態に対して妥当な額の支払いになっているかどうかは整合性が取れるようにしておきましょう。
以下は参考ですが、企業の役員報酬の相場を示しています。あくまでも相場ではありますが、役員報酬の支給額を検討する際に、参考にしてみると良いでしょう。
<資本金> | <男性> | <女性> | <合計> |
2,000万円未満 | 674万 | 372万 | 582万 |
2,000万円以上 | 921万 | 571万 | 832万 |
5,000万円以上 | 1,158万 | 490万 | 1,086万 |
1億円以上 | 1,326万 | 760万 | 1,279万 |
10億円以上 | 1,799万 | 521万 | 1,598万 |
出典:「社長の教科書」
事前確定届出給与との違い

先ほどご紹介の通り、損金算入できる3つ役員報酬の中に「事前確定届出給与」があります。
今回のテーマである定期同額給与と内容が少し似ているので、その違いについて正しく理解しましょう。
両者の主な違いは以下の2点です。
- 報酬金額の設定方法
- 届出の必要性
1つずつ詳しく見ていきましょう。
主な違い①:報酬金額の設定方法
先述の通り、定期同額給与は、報酬金額を一定にしないと損金算入を行うことができません。
変更を行う際は、決算後の3ヶ月以内に一度だけという制約があります。
一方で、事前確定届出給与は報酬金額を自由に設定することができます。
毎月同じ額ではなく、月によって高低差のある給与を支払いたいという場合には、事前確定届出給与は非常に便利なシステムなのですが、1点注意しなければならない点があります。
それは、毎月同額の支払いでなくても良いが、金額は事前に確定させなければならないという点です。
もし、実際に支払う金額が事前に確定させた金額と1円でも違うと損金算入が認められなくなるので、注意が必要です。
主な違い②:届出の必要性
定期同額給与は、株主総会で支給額を決定した後、議事録にその旨を記録しておく必要はありますが、税務署への届出は不要です。
一方、事前確定届出給与は、提出期限内に税務署に届出をしないと損金算入が認められません。
提出期限については、
- 株主総会などの決議日から1ヶ月以内
- 事業開始日から4ヶ月以内
のいずれか早い方の日程となります(ただし、新設した会社の場合は、設立日から2ヶ月以内)。
年途中の変更が認められるケース

最近のコロナウイルスの影響などで、予期せぬ業績悪化に見舞われ、役員報酬を見直したいと考える企業も少なくないのではないでしょうか。
定期同額給与を用いている場合、原則的には報酬の支給額は1年間変更することはできません。
しかし、定期同額給与であっても以下の条件に当てはまる場合は、年途中の変更であっても損金算入することができます。
- 役員の地位や職務内容に変更が生じた場合
- 経営状況が著しく悪化した場合
1つずつ詳しく見ていきましょう。
変更できるケース①:役員の地位や職務内容に変更が生じた場合
年度途中であっても、役員の交代があった場合は、増額・減額を行うことができます。
具体的に想定されるケースは以下の通りです。
《変更が認められる例》
・役職が昇格/降格した
・役員が他のポジションを兼任することになった
・役員が休職から復帰した/休職入りした
変更できるケース②:経営状況が著しく悪化した場合
業績が悪化した場合も、年途中での変更が可能になることがありますが、業績悪化事由として認められるかどうかは、一部要件が設けられています。
一時的な業績悪化という理由だけでは十分とは言えず、役員の報酬を減額するほどの客観的事情があることを証明しなければならないのです。
《著しい業績悪化の事由として認められる例》
・取引先の倒産
・災害
・原材料の高騰
・コロナの影響
上記の理由などから、従業員への給与支給が遅れてしまっていたり、取引先への支払いができていなかったりと、客観的に業績悪化を示せる状況であれば、年途中の役員報酬の変更が認められます。
役員報酬の透明性を向上し、ガバナンスの強化につなげよう

定期同額給与の仕組みについてご理解いただけたでしょうか。
役員報酬にはさまざまなルールが設けられており、従業員報酬とはまた違った管理の難しさがあることをお分かりいただけたのではないかと思います。
そもそも役員報酬は、役員自身が決めることができることから、不正や利益調整の温床となってしまう恐れを想定しなければなりません。
昨今、ESGが重要視されている中で、役員報酬を始めとしたガバナンスにおいて、企業の不正が発覚してしまうことは大きな痛手となります。
正しいルールに則った手続きを取り、ガバナンスに強い体制づくりを目指しましょう。
ESGやガバナンスについては、こちらの記事で詳しくご紹介していますので、合わせてご参考ください。