企業は利益追求を目的として成り立つ組織です。しかし、近年ではその認識が変わりつつあり、企業は利益一辺倒ではなく社会的責任も果たすべきであると考えられるようになりました。そこで出てきた言葉が、CSRです。
本記事ではCSRの意味や企業の実際の活動事例、メリットやデメリットをご紹介します。
CSRとは?

CSRはCorporation Social Responsibilityの頭文字をとったもので、企業の社会的責任と訳すことができます。
企業の社会的責任とは、企業が組織活動を行うにあたり社会に対して配慮すべき内容のことです。具体的には自社商品のバリアフリー化、排気ガスの削減、環境保護活動などが挙げられます。
近年CSRという言葉をよく聞くようになりましたが、その背景には欧米の企業活動と社会の関係性の捉え方があります。
欧米では社会の上でこそ企業が存続できるという考えが一般的であり、企業はその社会を持続・発展させるための責任を担うべきであるというその考え方が世界に浸透してきたことで、CSR活動が注目されるようになりました。
CSRの歴史
日本のCSR研究者の間では、日本で最初にCSRが提唱されたのは1956年の経済同友会での決議「経営者の社会的責任の自覚と実践」であるとされています。ここでは以下のような決議が出ています。
現代の経営者は倫理的にも、実際的にも単に事故の企業の利益のみを追うことは許されず、経済、社会との調和において、生産諸要素を最も有効に結合し、安価かつ良質な商品を生産し、サービスを提供するという立場に立たなくてはならない。(中略)経営者の社会的責任とは、これを遂行することに外ならぬ(中略)。
経済同友会(2010)「日本企業のCSRー進化の軌跡ー」
これがCSRの原型であると言われていますが、上記の決議が出た当時の日本は高度経済成長期で、利益を重視しない経営という概念は経営者にも業界全体にも、あまり納得できる内容ではありませんでした。
CSRの浸透はそれよりもかなり後、1980~90年代に環境問題に対する条約、議定書が立ち上がりサステナビリティという考えが一般的になってからになります。
そして2002年に経団連が「企業行動憲章」を改定し、社会貢献、環境報告書の継続発行や不祥事防止の法令遵守を徹底することを提唱しました。これにより、この3つを担当する部門として2003年にCSR部門が創設される流れができた。このことから2003年はCSR元年と呼ばれている。
CSRとESGの違い

CSRとかなり近い概念として、企業が取り組むべき3項目として環境・社会・ガバナンスをまとめた概念である 「ESG」があります。
この両者の違いは社会貢献活動の捉え方の違いです。
CSRは社会的「責任」であり、社会に対して利益を還元する義務があるという倫理的観点に基づいています。
一方でESGは、社会活動を行うことが結果的に企業の持続的成長につながるという考え方から来ており、企業戦略としての能動的な取り組みです。
社会貢献活動を義務と捉えて遂行する場合はCSR、利益追究のための戦略と捉えて実行する場合はESGということになります。
CSRのメリット

CSR活動は社会に対しての責任を果たすという意味で、一見制約のような印象を受けます。
しかしCSRに取り組むことで企業に還元されるメリットもあり、それは多岐にわたります。具体的に見ていきましょう。
企業イメージの向上
CSRへの取り組みの一番の理由として挙げられるのが「企業イメージの向上」です。
東京商工会議所のアンケートでは、98.3%の大企業がCSRに取り組む目的として企業イメージの向上と答えています。
企業イメージの向上は、後述の取引先との関係性の強化や顧客からの信頼の獲得など、多岐にわたって間接的なメリットがあり、信用獲得が特に重要な大企業にとっては取り組みが大きなメリットになる可能性があります。
従業員の満足度向上
CSRに取り組みの中には従業員の満足度向上につながるものがあります。
直接従業員の待遇改善をおこなう場合や、社会への貢献度が高い企業になることで間接的に従業員の満足度やロイヤリティを高める場合もあります。
東京商工会議所のアンケートでは、実際に72.9%の大企業がCSRに取り組むことで従業員満足度の向上を目指していると回答しています。
取引先との関係性強化
CSRに取り組むことで、取引先との関係性強化につながります。
先ほど述べたようにCSRの主目的である企業イメージの向上を企業が目指す目的の一つとして、取引先や顧客からの信頼を強固にできることがあります。
特に大企業ほど多くの取引先と仕事を行うため、取引先によるダメージリスクを避けるために企業イメージを重視し、CSR活動がそのような取引先選定に与える影響は大きいといえます。
企業のCSR活動事例

CSRに取り組む企業の活動事例をご紹介します。
富士フィルム
富士フィルムでは自社のCSRの考え方を明確に打ち出し、従業員がCSRに日々取り組めるような工夫を施しています。
具体的には、自然保護に対して10億円の資金を捻出し、自然保護をテーマとした民間企業による公益信託として「公益信託富士フィルム・グリーンファンド」を設立しています。
ブリヂストン
タイヤ部門を中心として世界に展開するグローバル企業であるブリヂストンは、独自のグローバルCSR体系「Our Way to Serve」を運用しています。
具体的には、以下のような活動を行なっています。
- バスのバリアフリー化
- 免震ゴム技術の社会還元
- ゴム農園周辺森林の保全活動
ブリヂストングループのCSR活動は高く評価されており、代表的なサステナビリティ指数である「Dow Jones Sustainability Index」と「FTSE4Good Index Series」の構成銘柄に選定されています。
KDDI
大手キャリアの一社であるKDDIはホームページの企業情報に「サステナビリティ」の項目を設け、様々な観点からのCSR活動を公開しています。
一例として災害対策領域に関しては、以下の取り組みを行っています。
- 災害復興用の重機無人運転技術の開発
- 被災地ボランティアの実施
- 被災した東北の学生に向けたIT教育支援
CSRのデメリット

ここまで述べたようにCSR活動には多くのメリットがありますが、実際に取り組めていない企業は少なくありません。
企業のCSR活動を阻むデメリットをご紹介します。
取り組みにコストがかかる
CSRは長期的に見れば企業の利益向上に貢献していると言えますが、これらは間接的な影響であり、直接的に利益を追求する活動ではないため、短期的にはコストのかかる取り組みとなります。
キャッシュフローや経営状態に余裕のある企業でなければ、CSRに取り組むことは難しいのが難点です。
人員の不足
CSRに取り組むには主軸の事業以外に人員を投下する必要があり、経営難の企業や中小企業ではこの人員を割けずにCSRに取り組めない場合もあります。
実際に東京商工会議所のアンケートによると、およそ半数の企業が人員不足によってCSRに取り組めていないと回答しています。