環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)といった非財務面を重視したESG投資が世界的に広がっている中、東洋経済新報社が毎年発表しているESGに優れた上位200社を選定する「ESG企業ランキング」で毎年上位に君臨してい企業があります。それが丸井グループです。
百貨店のマルイをはじめとして一般消費者の我々にも馴染みの深いこちらの企業ですが、実は環境配慮や社会貢献といったESG活動にもかなり力を入れて取り組んでいる、ESG先進企業です。
今回はそんな丸井グループのESGへの取り組みを徹底解説します。
丸井グループのESG概要

丸井グループは、東洋経済新報社が発表した「ESG企業ランキング2020」で2位を獲得している、ESG先進企業です。
このランキングでは、環境/社会性/企業統治/人材活用の4観点でそれぞれ100点満点の評価をつけ、その合計点で並べ替えたものをその企業の順位としています。
2020年の最新の発表での丸井の得点は、以下のようになっています。いずれの部門でも高得点を獲得していますが、特に環境/企業統治/人材活用の領域では全企業の中でもトップクラスの評価となっています。
総合得点 | 環境 | 社会性 | 企業統治 | 人材活用 |
392.9 | 100.0 | 93.9 | 99.0 | 100.0 |
丸井グループは「インクルージョン」をテーマとし、これまでマイノリティであったがゆえに見過ごされて来た顧客や労働者の人権を含めた、全ての人が幸せである社会を目指して事業に取り組んでいます。
特に環境活動に関しては強く力を入れており、CO2削減への注力や2030年までに使用電力の再生可能エネルギー比率の目標を100%と設定し実行するなど、多角的に環境負荷削減に取り組んでいます。
丸井グループのESG活動に関しては、2008年から毎年CSRレポートとして、2016年以降はタイトルを「共創サステナビリティレポート」に改められて発行しています。
統合報告書に該当するこの共創サステナビリティレポートは外部からの評価が高く、日本最大の投資機関であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)からESG投資の検討材料となる優れた統合報告書の一つとして選出されています。
丸井グループのESG取り組み事例(ESG経営全般)

それでは具体的に丸井グループのESGへの取り組みを見ていきましょう。
ESG活動全体にかかる活動としては、主に組織の構築と目標の設定があります。それぞれについて見ていきましょう。
組織体制の構築
サステナビリティやesgへの取り組みを推進するために、丸井グループでは組織体制の変更や新部署の設置を行なっています。
例としては2015年にIRの専任部署を、2016年10月にESG推進部を設置し、機関投資家の皆さまとの対話や情報開示、社内のesg活動の推進を行なっています。
目標やテーマの設定
丸井グループでは今後サステナブルな企業経営を行なって行く上での目標やテーマを設定しています。
設定されているものとしては大きく二つあり、2050年を見据えた企業ビジョンを定めた「ビジョン2050」と、それを達成するための「4つの重点テーマ」です。それぞれについて見ていきましょう。
ビジョン2050の策定
丸井グループは2019年2月、すべての人が「しあわせ」を感じられるインクルーシブで豊かな社会を共に創るための道筋として、「ビジョン2050」を宣言しました。
健常者と障がい者、富裕層と低所得者層など、互いを対立・分断させることで、差別や格差が引き起こされる「二項対立」が私たちの生活には沢山あります。
丸井グループは「インクルージョン」を通じて、このような二項対立ではなくすべての人の利益の重なり合う部分を広げていくことで社会全体の幸福の最大化をすることをビジョンとしています。
また、丸井が目指す未来を三つの視点から以下のように言語化し、その実現に努めています。
- 私らしさ」を求めながらも、「つながり」を重視する世界
- 世界中の中間・低所得層に応えるグローバルな巨大新市場が出現する世界
- 地球環境と共存するビジネスが主流になる世界
4つの重要テーマの策定
丸井グループでは上記の達成するために重要となる4つの重点テーマを策定しており、これらのテーマに沿ってESG活動を進めています。それぞれのテーマとその概要について見ていきましょう。
お客さまのダイバーシティ&インクルージョン
少子高齢化など、課題先進国と言われる日本には、約1億2,600万人の多様な人々が暮らしています。
お客さまの年齢・性別・身体的特徴などを超え多様な社会の中の「すべての人」の役に立つ商品・サービス・店舗を提供することを目標として、「お客さまのダイバーシティ&インクルージョン」が一つ目のテーマとなっています。
ワーキング・インクルージョン
丸井グループは「人の成長=企業の成長」という考え方のもと、全ての社員にとって働きやすく成長できる環境を提供することが重要であると考えています。
その上で、性別や身体能力、価値観による多様性を受け入れる「ワーキング・インクルージョン」を推進することで、丸井グループの社員6000人全員の働きやすい場所の提供を目指します。
エコロジカル・インクルージョン
丸井グループは低炭素社会や循環型社会の実現をめざし、環境負荷の少ない事業を推進し、自然と環境の調和を図るエコロジカルなライフスタイルを提案していきます。
顧客にライフスタイルを提供する事業を展開する丸井グループとしては、自社の環境負荷低減にとどまりません。社会全体の環境配慮を踏まえた事業の実現を達成するために「エコロジカル・インクルージョン」を三つ目のテーマとしています。
共創経営のガバナンス
丸井グループは企業価値を、すべてのステークホルダーの利益、「しあわせ」の調和であると考えています。
そのためにはガバナンスが最重要となってきます。全てのステークホルダーを巻き込んだ上で透明性の高い経営を行うために、「ステークホルダー・インクルージョン」を4つ目の重点テーマとして経営を進めていきます。
丸井グループのESG取り組み事例(E:環境)

続いて環境問題への取り組みについてです。
丸井が定めている4つの重要テーマの中では、「エコロジカル・インクルージョン」が主に環境問題への取り組みにあたります。
環境に関しても丸井グループでは目標を設定しており、例としては2030年までに使用電力の再生可能エネルギー比率を100%にすることや、スコープ1~2CO2の排出量を2030年までに80%、2050年までに90%削減することを定めています。
これらのエネルギー・CO2削減を中心として様々な角度から環境問題に取り組んでいます。以下ではそれらを具体的に見ていきましょう。
CO2・温室効果ガス排出量の削減
丸井グループではCO2をはじめとした温室効果ガスの排出量削減に取り組んでいます。具体的には、以下のような活動です。
- 使用電力の再生可能エネルギーへの転換(後述)
- 各社ごとに、電気、ガス等エネルギー使用について節電の実施や設備の効率化
- グループ会社で太陽光発電設備を設置し、年間一般家庭100世帯分の発電量を創出、電力会社へ売電
- グループ会社で物流事業で使用する車両へのエコハイブリッド車の導入
- マルイ、モディ店舗で従来の広告看板と比較しCO2排出量が少ないデジタルサイネージの導入
これらの取り組みの結果として、6年連続でCO2排出用の削減に成功しています。

また、環境情報の透明性向上のため、2017年3月期より外部の第三者である一般財団法人日本品質保証機構(JQA)より、CO2など温室効果ガス排出量における検証を受けています。
ここからは、温室効果ガス排出量削減のための取り組みの内、再生可能エネルギーへの転換と使用電力の削減について詳しく見ていきます。
再生可能エネルギーへの転換
丸井グループが自社で排出するCO2の8割は電力使用であり、環境負担の主な要因となっています。
そこで丸井グループは2018年に国際的イニシアチブ「RE100」に加盟し、 2030年度までに使用電力を再生可能エネルギー100%で調達することを目標に掲げ、 全国のマルイ・モディ店舗などへ再エネ電力の導入を進めています。
RE100の加盟から再生可能エネルギーへの転換は以下のように急ピッチで進められています。
- 2018年12月:みんな電力(株)と資本業務提携を行い、新宿マルイ本館を皮切りにマルイ・モディ店舗での再エネ電力の切り替えを開始
- 2019年9月:グループ会社の(株)マルイファシリティーズ が小売電気事業者としての認可を取得。発電事業者から電力を直接仕入れることも可能に
- 2020年4月より再エネ電力の直接調達を開始
また上記の他にもグリーン電力証書システムへの参加、自社での太陽光発電設備の設置なども行い、再生可能エネルギー利用の幅を広げています。
これらの取り組みの結果、ほかの電力各社からの調達と合わせ、2020年度の再エネ使用率は50%程度まで到達しています。
使用電力の削減
次に、使用する電力量そのものを削減する取り組みです。
丸井グループでは長期目標の実現に向けて、新省エネ技術の導入・既存設備との入替えから、売場・倉庫・事務所の照度や湿度管理の徹底まで、継続して電気使用量の削減を進めています。
具体的に実施されているものの例としては以下の通りです。
- 照明設備:2015年から2016年にかけて売り場基礎照明のLED化を完了
- 空調設備:定期メンテナンスによる機器類の高効率化、運転時間・温度設定の見直しによる効率稼動、さらに2015年3月から省エネ型空調設備の導入開始
- POS・ATM:2014年から省エネ型の新タイプへの切り替えを開始(全切り替え済)
- 「Fun to Share」参加企業として「クールビズ」をはじめとした省エネイベントの実施
カーボンフットプリントの可視化
カーボンフットプリントとは、ある商品が原料調達から製造、販売されるまでの過程で排出されるCO2の量を数値として可視化したもののことです。
丸井では、特定の商品にこのカーボンフットプリントを表示する取り組みを進めており、2019年3月時点で81商品にカーボンフットプリントを表示しています。
環境にやさしい商品が消費者にわかるようになることで、環境意識の高い消費者からの環境配慮製品の消費を促し、エコロジカルなライフスタイルの提案に繋げています。
カーボンオフセット活動の実施
カーボンオフセットとは、事業を通して排出されたCO2などの温室効果ガスについて、削減しようと努力をしてもどうしても削減できない分を、他の環境への取り組みや投資で埋め合わせる活動のことです。
丸井グループでは2009年よりこのカーボンオフセットの取り組みを実施しており、「ラクチンきれいパンプス」をはじめとしたヒット商品の販売実績より生じたCO2排出分を、震災地復興や生産地応援などに投資して合計でのoCO2削減に尽力しています。
これらの取り組みは外部からも高く評価され、丸井グループは2017年3月期に「カーボン・オフセット大賞」優秀賞を受賞しています。
資源の節約・再利用(リデュース/リユース/リサイクル)
丸井グループ全体として資源の節約や再利用を実施しています。
代表的なものとして廃棄物について見てみると、丸井グループでは廃棄物量の削減および廃棄物の分別によるリサイクル率の向上につとめており、2020年3月期のリサイクル率は63%となりました。
以下では節約や再利用されているものの事例を具体的に見ていきます。
水の節約
丸井グループでは、一部のマルイ店舗や本社ビルの建物で水資源の有効活用をおこなっています。屋上で貯水した雨水をトイレでの排水に使用したり、社員用トイレの排出量は無駄のない量に設定しています。
包装紙の削減
丸井グループは、紙包装材・プラスチック包装材の総重量の削減を推進しており、また社内での包装紙リサイクル率は100%を実現しています。
ホームページにて公表されている、過去3年間の包装紙の総重量の表は以下の通りです。
分類 | 項目 | 2017年度 | 2018年度 | 2019年度 |
紙 | 総重量(トン) | 385.1 | 319.4 | 236.4 |
再生材や認証材を使用した包装材の構成(%) | 21.7 | 24.4 | 33.2 | |
社内リサイクル率(%) | 100 | 100 | 100 | |
プラ | 総重量(トン) | 331.9 | 165.0 | 99.4 |
再生材や認証材を使用した包装材の構成(%) | 0 | 0 | 0 | |
社内リサイクル率(%) | 100 | 100 | 100 | |
社内外リサイクル率(%)* | 90.8 | 90.8 | 90.8 |
包装紙の重量は年々削減されており、また再生材や認証材を用いた包装紙の比率も上昇していることがわかります。
これらの削減達成のために行われている取り組みの事例としては以下が挙げられます。
- ショッピングバッグの素材を紙へと変更
- 顧客への簡易包装の選択肢の提示
- 紙手提げ袋無料配布の終了
- マイバッグ持参キャンペーンの実施
在庫廃棄の少ない商品の開発

丸井グループが開発し、累計販売足数350万足を超えるプライベートブランド「ラクチンきれいシューズ」は、業界でも異例のヒットとなり、今や代表商品となっています。
この商品は、ファッションの循環型社会を目指すに先駆けて丸井が行なった靴の下取り活動の中で、履かれない靴の放置の原因の大半が「デザインが良くて買ったけれど、履き心地が良くなかったり、サイズが合わず痛くなったから」であることに着想を得て開発されたものです。
デザインの良さだけでなく、履き心地と一人ひとりに合うサイズの商品の提供に力を入れており、サイズに不具合やはき心地が原因で測れずに廃棄される靴の問題を解決する商品となり、結果的にリデュースが実現します。
このように商品の下取りから商品開発までの一連のプロセスに独自で取組むことを通じて、廃棄在庫のリデュースと収益工場の両立を進めています。
備品の再利用
丸井では商品販売や運送に伴う備品の再利用やその仕組みづくりにも取り組んでいます。
代表例としては、ハンガーとダンボール代わりののコンテナがあります。
丸井では1997年より百貨店統一ハンガーを導入し、納品後再び回収して返却する循環型の運用を実施、またそれ以外の不要ハンガーはプラスチック原料としてリサイクルをおこなっています。2017年4月からはリサイクル用の中でまだ使用できるものを直接リユースする運用もスタートしています。
また、折りたたみ式のコンテナ「リピートBOX」(通い箱)の導入も進めています。結果として子会社の株式会社ムービングを起点とする物流用のダンボール使用はゼロとなっています。
環境負荷低減を実現するサービスの提供
丸井グループでは環境負荷の低減を目的とした新たなサービスやビジネスモデルの開発・実施を行なっています。ここでは以下の二つの事例をご紹介します。
「体験ストア」の運用
マルイでは2015年9月から2020年9月まで、試着用のサンプルをお客さまに自由に試していただく「体験」の部分に特化したショップを一部地方で試験展開しています。
体験ストアの実施によって以下の環境負担削減が期待されています。
- 店頭在庫が不要なため配送時のCO2削減、在庫廃棄ロスの削減
- 持ち帰りの包装が不要→梱包材が減少
- 試着フローを通るためEC返品率が低く、配送時のCO2削減
EC事業を支える物流センターに「オートストア」導入
丸井グループのEC物流部門「株式会社ムービング」の三郷Web通販総合物流センターで、ロボット倉庫「オートストア」が2017年10月に稼働しました。
「オートストア」では、2万7,000個の専用コンテナを12段に分けて積み上げ、空間を無駄なく使用することで、倉庫の保管効率が従来の約3倍に向上しました。
また、「オートストア」ではロボットが商品を「ポート」と呼ばれる作業スペースまでピッキングするため、社員は入庫・出庫作業をほとんど歩くことなくおこなえるようになり、作業負担が大幅に軽減されました。
環境ボランティア活動
丸井グループでは社会貢献として環境ボランティア活動にも取り組んでいます。
富士山ナショナルトラスト
富士山ナショナル・トラストとは、富士山の自然と景観を保全するための、植樹を中心とした緑化活動のことです。
マルイグループユニオン・福祉会では1999年より社員とその家族を中心に植樹活動に参加しています。その他にも、環境保全団体を通じて湘南海岸(神奈川県)・須磨海岸(兵庫県)などの各地域で、環境ボランティアの活動に取組んでいます。
地域清掃活動
マルイ店舗では社員が中心となった地域清掃活動に積極的に参加しています。
多様化するお客さまニーズの中で、環境や社会貢献に対する意識は高まっており、企業としてこうした世の中のニーズの変化を敏感に感じ取ることも一つの目的として、清掃をはじめとした地域貢献活動の推進に取組んでいます。
打ち水キャンペーン
ヒートアイランド現象が進行する都心の店舗を中心に、各店で「打ち水キャンペーン」を開催しています。地域の皆さまやお客さまも参加することができ、地域顧客と一体となって暑さ対策に取り組んでいます。
生物多様性のエコロジカルネットワークの創出
丸井グループは、持続可能な街や社会の礎となる健全な生態系を保全するため、生物多様性に配慮した土地利用を推進するための店舗開発の一環として、自然溢れた憩いの場を提供しています。
中野マルイでは、店舗の西側に860m²を超える緑豊かな広場を作っています。また、里山や水辺環境などを取り入れたビオトープを設け、鳥や昆虫などが共生できる空間をつくることで生物多様性を促進しています。

また、「新宿マルイ」本館の屋上に本格的な英国庭園を設置し、 ショッピングの合間に季節の花々を楽しみながら、ゆっくり休憩できるようになっています。

中野マルイは2013年と2016年に、新宿マルイは2014年に「公益財団法人 都市緑化機構」より「都市のオアシス」に認定されています。
これらの他にも北千住マルイの屋上やノクティプラザの屋上に遊具広場を設置するなど、マルイでは庭園開発の取り組みを広げています。
丸井グループのESG取り組み事例(S:社会)

次に、S(社会)に対しての丸井グループの取り組み事例です。
4つのワーキング・インクルージョンがグループ社員の労働に関しては主なポイントになってくるが、他にもエコロジカルインクルージョンや他のテーマの下でも人権や労働に関する取り組みが多く行われています。
サプライチェーンの管理で責任ある調達の実現
サプライチェーンの管理によって、商品の製造過程で人権の侵害とみなされる労働環境の提供に加担していないかをチェックしています。
その方法としてまずマルイグループは人権や労働環境への取り組み方針「マルイグループ 調達方針」を制定しており、その調達方針をもとに製造現場をはじめとした現地にてミーティングを行なっています。そのミーティングでは、製造を委託している国内外の工場の照明の明るさや整理整頓・清掃の状況、勤務時間など、現場の労働・安全衛生状況を確認しています。
労働者/顧客の多様性の確保
丸井グループでは、「一人ひとりが互いの良さを認め合い、全員がイキイキと活躍できる風土づくり」の推進を目的に、社員の労働環境の改善を目指した取り組みを行っています。
社員の多様性確保への取り組みの歴史は以下のようになっています。
年度 | プロジェクト名 | 活動内容 | |
2013年 | 2030委員会 | ・現在の取り組みの前進となる「2030委員会」は、「2020年までに女性管理職30%」という政府の目標数値から命名された委員会。 ・当初は、女性管理職5名でスタート。・2013年下期には、男性管理職2名が加わる。 | |
2014年 | 多様性推進委員会 女性の活躍推進プロジェクト | 管理職(女性6名/男性3名)による「多様性推進委員会」と、社内公募15名による「女性の活躍推進プロジェクト」を発足。 | |
2015年 | 多様性推進委員会 多様性推進プロジェクト | プロジェクトの名称から「女性」を除き、「多様性推進プロジェクト」に変更。社内公募メンバーは15名から43名に増加。 | |
2016年 ~2017年 | 多様性推進委員会 多様性推進プロジェクト | 2016年下期より新メンバー50名で第2期「多様性推進プロジェクト」をスタート。 | |
2018年 | 多様性推進委員会 多様性推進プロジェクト | 2017年下期よりメンバー54名による第3期「多様性推進プロジェクト」を新たにスタート。 | |
2019年 | ダイバーシティ&インクルージョンプロジェクトへ進化 | 「ダイバーシティ&インクルージョンプロジェクト」に統合し、取り組みの範囲を拡大。 |
ここからは社員の属性別に、雇用や活躍促進のための取り組みを見ていきます。
女性雇用の促進
丸井グループは、社員5,130名の約45%に当たる2,297名(2020年3月期)が女性社員であり、女性の活躍を推進するため、「意識改革」と「制度づくり」の両アプローチで取り組みをすすめています。
2014年3月期には2021年3月期までの目標数値を掲げ、女性活躍のための取り組みとその成果を可視化。女性活躍浸透度は毎年上昇し、以下の表のように2020年3月期は99%、男性社員育休取得率も高水準となっています。
2016 3月期 | 2017 3月期 | 2018 3月期 | 2019 3月期 | 2020 3月期 | 2021 3月期(目標) | ||
意識改革・ 風土づくり | 女性活躍浸透度 | 74% | 96% | 97% | 98% | 99% | 100% |
女性の上位職志向 | 62% | 64% | 67% | 69% | 67% | 80% | |
男性社員育休取得率 | 66% | 94% | 109% | 100% | 126% | 100% | |
女性の 活躍推進 | 育児フルタイム復帰率 | 66% | 81% | 63% | 74% | 64% | 90% |
女性リーダー数 | 603名 | 611名 | 643名 | 654名 | 657名 | 900名 | |
女性管理職数 | 29名 | 32名 | 40名 | 46名 | 49名 | 55名 | |
女性管理職比率 | 9% | 10% | 11% | 12% | 14% | 17% |
後述する育児支援の充実なども含め、このように女性活躍のための風土づくりは高水準となっており、以下のように「なでしこ銘柄」をはじめとして多くの受賞歴があります。
- 女性活躍推進に優れた企業として「なでしこ銘柄」に選定
- 「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選定
- 「SMBCなでしこ融資」において「女性活躍の先進企業」評価
- 「共働き子育てしやすい企業グランプリ2016」特別奨励賞
- 子育てサポート企業として「プラチナくるみん」認定を取得
- 「イクメン企業アワード2016」グランプリ
- 「イクボスアワード2015」グランプリを受賞
- 「東京労働局長優良賞2013」を受賞
女性の活躍推進のための仕組み作りの中でも特に主軸となるのが、出産・育児のサポート体制の確立です。それぞれについて具体的な取り組みを見ていきます。
出産までのサポート
丸井グループでは出産する女性のための以下のような休暇制度を設置しています。
- ・産前休暇:妊娠直後より取得可能
- ・妊娠期間中の短時間勤務
- ・妻の出産休暇:特別休暇2日(有給)
- ・不妊治療休職:最長2年まで
これらの他にも出産育児休職者を対象に年1回開催の情報交換会を実施しており、会社の現状や人事制度の理解を深め、すでに育児をしながら働いている先輩ママを交えての意見・情報交換会を実施。質疑応答を中心とした交流を通じて、参加者の不安軽減や気づきにつなげています。
育児のサポート
丸井グループでは、育児をしながら短時間勤務で働く女性の「育児フルタイム復帰率」を指標の一つに掲げ、短時間勤務中も月4回までフルタイム勤務ができる制度や、営業時間が遅い店舗でも勤務時間を限定して働ける「時間帯限定フルタイム勤務制度」を導入しています。
それぞれの制度と利用可能条件は以下のようになっています。
- ・育児休職:子が3歳になるまで(子が1歳2カ月に達するまでに復職した場合は、7日間有給)
- ・育児のための短時間勤務:小学3年の期末まで
- ・時間帯限定フルタイム勤務制度:小学6年の期末まで
- ・子の看護休暇:小学校入学前の子1人につき年5日(半日単位で10回)、
2人以上年10日(半日単位で20回)の特別休暇(有給) - ・育児などによる赴任免除の勤務地限定勤務:エリア限定勤務
障害者雇用の促進
次に、障害者雇用促進の活動についてです。
丸井グループでは、障害者の新たな雇用を創出するために、1992年に特例子会社「株式会社マルイキットセンター」を設立しており、以来20年以上にわたって障がい者の雇用促進と職域の開発をおこなっています。
マルイキットセンターでは現在以下のような業務をおこなっており、年々その職域を拡げています。
- グループで使用する用度品(包装紙、事務用品)の管理・出荷業務
- 商品(洋服・雑貨類)の「検品業務
- グループ各社の事務作業や印刷・発送をおこなう「事務サービス業務
- グループ社員の名刺や社員証の作成
また、運営テーマを「障がい者の雇用の促進・定着」から「仕事を通じた成長」に拡大し、障がいの特性や個人の能力に応じた仕事やステージを準備することで、やりがいを持ち末永く自立して働ける環境を整えています。
こうした取り組みが認められ、企業として以下の賞を受賞しています。
- 2008年:「聴覚障害者のための職場改善好事例集(平成20年度)」最優秀賞(厚生労働大臣賞)
- 2012年:「障害者のキャリアアップや加齢に伴う問題への対応に関する職場改善好事例集(平成24年度)」優秀賞を受賞
多様な顧客のサービス利用の促進
多様性は社員のみならず、にも広がります。マルイグループでは、様々な特性を持ったお客様が分け隔てなくマルイのサービスを利用できる店作りを目指しています。
例えばマルイグループでは障害の有無を超えて楽しんでいただける店づくり、LGBTを含めた性別を超えて楽しんでいただける店づくりを東京オリンピック・パラリンピックで提供することを目標にすすめています。
商品については、プライベートブランド商品を中心に、デザインだけでなく、履き心地や着心地、そして何よりもサイズの幅を拡大することで、身体的特徴を超えてすべての人に喜んでいただけるファッション商品の開発を推進します。
社員に最適な労働環境の確保
マルイグループでは、特定の属性に限らずすべての社員への快適な労働環境の提供のために、様々な取り組みを行っています。
職種変更制度
職種変更とは、グループ共通の人事制度のもとで丸井グループを含む13社のグループ会社間を異動する独自の制度です。その異動はまるで別会社に転職するかのように、例えば小売店舗からITへ、物流からカード会社へなど多岐にわたります。
以下の表からわかるように、本格的に開始した2013年から2020年までの累計で、全グループ社員の約61%にあたる2,626人が職種変更を経験しています。また2016年11月に実施した職種変更に関するアンケートでは、約86%の社員が「異動後に成長を実感した」と回答しています。
2016年3月期 | 2017年3月期 | 2018年3月期 | 2019年3月期 | 2020年3月期 | |
グループ会社間移動数(累計) | 1418人 | 1833人 | 2210人 | 2541人 | 2626人 |
グループ会社間移動率(累計) | 25% | 34% | 43% | 52% | 61% |
また、社内異動のみならず出向先の選択肢の拡張にも力を入れています。以下の表からわかるように、直近5年で提携会社への出向数は大きく増加しており、キャリア構築の場の選択肢はますます広がりを見せています。
2016年3月期 | 2017年3月期 | 2018年3月期 | 2019年3月期 | 2020年3月期 | |
出向経験者数(累計) | 0人 | 1人 | 9人 | 19人 | 35人 |
出向先企業数(累計) | 0社 | 1社 | 6社 | 12社 | 17社 |
残業の削減
丸井グループでは、2008年より労働時間管理・勤務体系の多様化への取り組みを開始しています。
その結果、2020年3月期の1人当たり平均残業時間は年間42時間、 月間3.5時間まで減少し、生産性の向上につながっています。

社員の健康の確保「ウェルネス経営」
丸井グループは「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」というのが私たちのめざすべき目標であると考え、活力高くイキイキと働くことを実現するために「ウェルネス経営」に取り組んでいます。
「活力」のウェルネスの取り組みを推進するため、グループ横断の公認プロジェクト「ウェルネス経営推進プロジェクト」のメンバーと、サポートする役割の管理職メンバーが主体となり、さまざまなウェルネス活動を企画・実行しています。
その取り組みの具体事例について見ていきましょう。
セルフケア研修
丸井グループでは自分の考え方のクセを理解し、別の角度から考えられるようになることでセルフケアできるようになることを目的としたセルフケア研修を行なっています。
職場で上長が中心となって社員同士で教え学び合う点が特徴的で、全社員(常時雇用社員)の 80%を超える、5,400人が参加しました。
ストレスチェック
丸井では各事業所でストレスチェックを行なっています。その後は組織分析の結果を活用し、事業所ごとに結果検討会を行い、重点項目に絞って対策を実施しています。
その結果、4年連続でストレス度、ワークエンゲージメント指数の偏差値がともに改善しています。

レジリエンスプログラムの実施
社員が主体となって職場の活気を作っていく活動を行うためには、トップ層や上司の理解も必要です。
丸井グループでは、組織への影響力が大きい役員、部長、課長層を対象に、1期1年間の「レジリエンスプログラム」を実施しており、トップ層が自身と周囲の活力を高める習慣を身につけることで組織全体の活性化を図っています。
このプログラムでは、開始前と終了時に本人・部下・家族の360度評価を実施し、受講者の活力度合いと周囲への影響度合いについてデータ分析を行っており、プロジェクト後には活力の向上が見られています。
2020年3月現在、累計105名が受講しており、社内のウェルネス活動の取り組みを積極的にサポートしています。
丸井グループのESG取り組み事例(G:ガバナンス)

ESGの3つ目の項目はガバナンスです。ガバナンスには大きく透明性確保のための組織構築と実際の情報開示の二つに分かれています。以下それぞれについて、丸井グループの取り組みを見ていきましょう。
ガバナンスのための組織構築
丸井グループでは、透明な経営を行うためのガバナンス体制の構築に長年取り組んできました。近年の代表的な取り組みを表にしたものが以下になります。
時期 | 取り組み |
2008年6月 | 独立社外取締役の選任を開始 |
2015年3月 | 社内取締役を10人から6人に減員 |
2015年8月 | 初の統合報告書 「共創経営レポート2015」を発行 |
2015年10月 | IRの専任部署を設置 |
2016年3月 | 取締役会の実効性評価を開始 |
2016年10月 | ESGの専門部署 「ESG推進部」を設置 |
2017年2月 | ESGデータブックの発行 |
2020年4月 | 役員報酬制度を改定 |
さらに具体的な取り組みについてそれぞれ見ていきます。
新たな部署の設置
株主・投資家の皆さまとの企業価値共創をめざし、2015年10月にIR部を設置しています。さらに、2016年10月にはESG推進部を設置し、非財務情報を含めた長期投資家との対話の強化をはかっています。
このように外部ステークホルダーとの対話を密に行えるような体制の改善を日々行なっています。
社外監査役・取締役の導入

丸井グループは、監査役設置会社として、取締役会および監査役会のほか、業務執行レベルの最高意思決定機関である経営会議、指名・報酬委員会を設置。経営上の高リスク分野を管理する5委員会と、それら を統括するコンプライアンス推進会議を設置しています。
また、共創サステナビリティ経営を推進することを目的にサステナビリティ委員会を設置し、関連リスクの管理および業務などの遂行機関である環境・社会貢献推進分科会を統括しています。 2020年6月の株主総会にて、経営体制の一層の強化を図るため、女性1名を含む新任監査役を2名選任しました。
なお現在の社外取締役比率は37.5 %、女性役員比率は25%となっています。
また、取締役会の機能向上を目的として、2016年3月期から年1 回、取締役会の実効性評価を実施しています。
まずは全取締役および全監査役を対象に、取締役会の規模・構成、運営体制、意思決定プロセス、役割・責務などの実効性に関する自己評価アンケートを実施。
その後アンケートの集計結果を踏まえ、取締役会において現状の評価結果および課題を共有するとともに、今後の対応について建設的な議論を行っています。
ステークホルダーとの共創
丸井グループではステークホルダーに対して透明な経営を行うために、各ステークホルダーとの対話の機会をふんだんに設けています。
参考として、投資家に向けたIRスモールミーティングは2020年3月期で9回行なっており、また取引先説明会参加社数は2016年3月期で約100社にも上ります。
役員報酬の改定
次に、各種情報開示についてです。ここでは主に役員報酬の開示について説明します。
丸井グループの報酬は、以下の3つで構成されています。
- 定額の基本報酬のほかに、
- 事業年度ごとの会社業績に基づく業績連動賞与(短期インセンティブ)と、
- 中長期的な会社業績に基づく業 績連動型株式報酬(中長期インセンティブ)
2020年3月期には、取締役会実効性評価において指摘のあった役員報酬制度の見直しを実施し、業績連動報酬の 割合を高めるとともに業績指標を変更しています。
その他社会貢献活動
丸井グループではESGの環境・社会・ガバナンスに直結する活動の他にも、社会全体のサステナビリティ向上のための社会貢献活動を行なっています。
最後にこれらの社会貢献活動の事例を見ていきましょう。
募金活動
丸井グループでは、自然災害などで被災された方への復旧支援のために、募金活動を実施しています。
直近の活動では、令和2年7月の豪雨に被害を受けられた方がに向けた募金活動を実施し、期間中に皆さまから寄せられた募金は、全体で1,545,411円となりました。集められた募金は日本赤十字社に寄付され、日本赤十字社を通じて被災地の支援に役立てられます。
震災地地復興支援活動
マルイグループユニオン・福祉会では、発災直後の義援金寄贈をはじめ、毎年夏に岩手県のボランティア団体「遠野まごころネット」に活動資金と学生への奨学金の寄贈をおこなってきました。
さらに、人的支援として本部役員を被災地に派遣し復興支援活動をおこなうとともに、マルイグループの特性(女性が多い、平日に活動ができる、接客が得意)を活かした人的ボランティア活動を、2012年2月から2020年3月まで継続して実施していました。
また、バラバラな場所から集まって仮設住宅で生活されている方々が集まって楽しく語り合える場を作るためお茶会や手芸の会を開催するなど、孤立を防止するためのさまざま活動のお手伝いをしています。
上記「地域コミュニティづくり」の一つである手芸の会で生まれた手芸製品は、2013年2月よりマルイ各店のチャリティーバザーで販売を開始し、現在までに販売数は2,000点を超えています。
丸井の多角的な取り組みは他社のベンチマーク

今回ご紹介したように、丸井グループはE、S、Gの各領域で先進的な取り組みを行っており、今後ESGへの取り組みが遅れていると言われている日本の大企業のベンチマーク的存在になるでしょう。
取り組みの幅が広い分、業種やビジネスモデルが異なる企業であっても参考にできる点は多くありります。
これらの取り組みを把握し、自社が取り組めることから1つ1つESG経営に取り組むことが重要です。