拡大するESG投資〜ESGにフォーカスしたファンドの現状を解説〜

ESG経営
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投資家が企業の価値を評価する場合、従来、企業の業績や財務状況が重視されてきましたが、近年、非財務的側面であるESG、つまり環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)への取り組みを重視するESG投資が拡大しています。この傾向は今後も続くのでしょうか。

ESG投資拡大の背景、世界や国内の状況などについて、詳しく解説します。  

ESGとは

ESGは企業が果たすべき社会的責任を環境、社会、企業統治の3つの観点から示したものです。具体的には、以下のような取り組みが求められます。

  1. 環境(E) :二酸化炭素排出量の削減、廃水による水質汚染の改善、水資源の有効活用、海洋中のマイクロプラスチック対策、再生可能エネルギーの利用、生物多様性の保全など   
  2. 社会(S) :女性活躍の推進、適切な労働環境の実現、ダイバーシティの推進、サプライチェーンのリスク管理、地域社会への貢献など
  3. 企業統治(G) :リスク管理のための情報開示や法令順守、株主権利の確保、業績悪化に直結する不祥事の回避や汚職防止、取引の透明性、資本効率に対する意識の高さなど

ESG投資拡大の経緯

ESG投資は、ESGにフォーカスしたファンドへの投資のことです。近年、このESG投資が拡大しています。どのようにしてESGは拡大してきたのでしょうか。以下では、拡大のきっかけとなった国連の提唱と、国連が推進してきたPRI署名機関について説明します。

国連の提唱がきっかけ

国連では、1972年6月にスウェーデンのストックホルムで113か国が参加して国際連合人間環境会議(ストックホルム会議)を開催して以来、持続可能な社会を構築する取り組みを強化しています。

ESGが注目されるようになったのは、2006年に国連が責任投資原則(PRI)を提唱したのがきっかけです。当時国連事務総長を務めていたコフィ―・アナン氏が、機関投資家に対して、投資の意思決定プロセスに受託者責任の範囲内でESGを反映させるべきであると提唱したものです。

これは、従来の利益追求型の企業活動が気候変動などの社会への悪影響をもたらしたことから、持続的な成長を望むためには企業の事業活動にESGの視点を組み込むことが重要になるとの考え方に基づくもので、現在では世界共通のガイドライン的な位置づけとなっています。

ESGを後押ししたのが、2015年9月に国連がまとめたSDGs(持続可能な開発目標)です。2030年までに世界で達成されるべき17の目標を提示したもので、企業がESGに注目して事業活動を展開することでSDGsの目標達成につながり、持続的に企業価値も向上するという考え方が強まりました。

PRI署名機関は3,332(2020年8月現在)に

国連では責任投資原則(PRI)の6つの原則(下表)を掲げ、賛同する企業に署名を依頼するという方法でESG投資を推進しました。署名した企業はPRIのウェブサイトに名前と概要が掲載される仕組みです。2020年8月現在、署名機関数は3,332(うち日本は85機関)となっています(下図)。

1私たちは、投資分析と意志決定のプロセスにESGの課題を組み込みます。
2私たちは、活動的な(株式等)所有者になり、その所有方針と所有慣習にESG問題を組み入れます。
3  私たちは、投資対象の主体に対してESGの課題について適切な開示を求めます。
4私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるように働きかけを行います。
5私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します。
6私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します。
PRIの6原速(出典:PRIホームページ https://www.unpri.org/)
PRI署名機関数・合計資産残高(出典:国土交通省ホームページ)

世界におけるESG投資の現状

では、現在、世界におけるESG投資の現状はどうなのでしょうか。世界のESG資産保有高や日本におけるESG投資の動向と、2018年以降における最新のESG投資への資金流入状況を見てみます。

ESG資産保有高は30兆ドル超に

持続可能な投資の普及を図っている世界持続可能投資連合(GSIA)では、隔年でESG投資の世界動向をまとめています。

最新のレポートによれば、2018年の世界のESG投資額は30兆6,830億ドル(約3,360兆円)に達し(下表)、2016年からの2年間で34%増加しました。地域別では、世界のESG市場の46%を欧州が、39%を米国が占め、体の85%が欧米で占められています。

地域2016年(10億ドル)  2018年(10億ドル)
欧州12,04014,075
米国8,72311,995
日本4742,180
カナダ1,0861,699
豪州/ニュージランド516734
合計 22,89030,683
地域別ESG資産保有残高(出所:Global Sustainable Investment Review 2018)

ESG投資の内容を見てみると、株式による投資が全体の51%で、近年は債券やそのほかの多様な資産による投資が増えており、投資家の選択肢が増加していることがうかがわれます(下図)。なお、図中のPEとはプライベートエクイティ、すなわち未公開株式のことです。

ESG資産世界合計の種類別内訳
(出典:財務省 ファイナンス2020Ⅰ月号)

日本では16年~18年の2年間で306%増と急拡大

日本では、世界最大規模の資産を運用する年金積立金管理運用独立法人(GPIF)が2015年に責任投資原則(PRI)に署名しました。これによって、167.5兆円(2020年9月末現在)もの資産がESGに配慮して運用されることになったわけで、その後の流れが大きく変わりました。

金融庁もESG投資を後押ししています。2017年に「『責任ある投資家』の諸原則」(日本版スチュワードシップ・コード)を改訂 して、機関投資家が投資先企業のESG要素を含む非財務情報等の状況を的確に把握することを義務付け、2020年3月の改訂では持続可能性への配慮を求めています。

また、2020年10月、菅首相が所信表明演説で「温室効果ガス2050年実質ゼロ」を宣言したこともあり、日本のESG投資市場は今後も拡大傾向が続くと見込まれています 。

2018年1月~2021年1月もESG投資に資金が流入

米国の金融商品に関する調査会社のEPFRグローバルは、2018年から最近までのESG関連株式ファンド(投資信託)に資金が流入しており、累計で3,300憶ドルを超えていることを明らかにしました(下図)。ESG投資への資金流入は拡大の一途をたどっています。

今、ESG投資が注目される理由

国連などの取り組みから大きく拡大してきたESG市場ですが、今日、ESG投資が注目される理由としては、次の3つが挙げられます。

理由1:ESGに配慮している企業は、持続的な成長が期待できるとして投資パフォーマンスの向上につながると考えられています。SDGs関連銘柄の株価は堅調という分析もあります。

理由2:ESG投資は、長期的な資産運用に向いているためです。投資先を選別する際、企業の将来性や持続性などを分析して評価するという投資手法に基づくからです。

理由3:気候変動や人口問題などの地球規模の課題解決に投資の力を利用するという考え方が広く普及し、ESG投資が世界の新たな潮流となっているからです。

ESG投資は2025年に53兆ドルとの予測も

急速に拡大しているESG投資ですが、今後の展開をどう見ればよいのでしょうか。

ブルームバーグ・インテリジェンスによれば、2025年にはESG資産は53兆ドルになると予想しています。これは世界の運用資産残高140.5兆ドルの3分の1を超える数字です。このようなESG関連銘柄への投資をさらに加速する注目すべき動きを紹介します。

一つは、1月の米国のバイデン大統領就任で、これにより米国の環境政策が大きく転換したことです。就任と同時にトランプ前政権で離脱したパリ協定に復帰する文書に署名して注目されました。

また、2035年までに電力部門でのCO2排出ゼロ、2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロを目指すことを明らかにしています。これは持続可能な社会へ向けた世界の流れを大きく加速するものです。

二つ目は、欧州委員会が、2021年~27年の中期予算の一環で、コロナ禍の打撃を受けたEU加盟国の支援のため、7500億ユーロ(約89兆円)の規模になる復興基金「次世代EU」の設置を決めたことです。

これは、グリーンリカバリーファンドと呼ばれ、コロナ禍からの復興を目指す際に、「地球温暖化対策の国際協定であるパリ協定の達成に貢献する」、「国連のSDGs(持続可能な開発目標)の達成に一致した施策を実施する」ことを柱としたもので、注目されています。

三つ目は、欧州員会が2019年12月11日に気候変動対策の欧州グリーン・ディールを発表したことです。EUとして2050年に温室効果ガス排出が実質ゼロとなる「気候中立」を達成するための2030年までの行動計画をまとめたもので、欧州経済社会の構造転換を図る包括的な新経済成長戦略です。

また、2020年6月に欧州委員会は投資家に持続可能な投資を促進するためのEUタクソノミーを発表。これまで明確な定義がされていなかった投資商品や経済活動の「グリーン」や「持続可能性」の明確な規則を提供して、EUの環境目標に貢献する経済活動への資金を集めるのが目的です。

まとめ

ESGを組み込んだファンドへの投資は、企業にとっても投資家にとっても、長期的な視点に立てば、今や欠かせないものとなっています。

これまで、欧米で先行してきたESG投資ですが、日本でも政府が積極的な姿勢を示しており、今後取り組みが加速すると思われます。

ESGへの意識の高まりは金融業界を変え、投資先である企業経営のサステナビリティが評価され、企業の行動を変えつつあります。ESG投資の一層の拡大が期待されます。

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