日本企業の間でも話題に挙がることが多くなったSDGsですが、何となく理解している状態の人も多いのではないでしょうか?
今やSDGsへの取り組みは世界共通の義務であり、ビジネスを成立・進行させるときに必ず問われる項目の1つです。
日本は2019年のSDGs達成度ランキングで世界15位につけていますが、今後さらなるSDGsの取り組みが期待されています。
今回はSDGs目標14「海の豊かさを守ろう」を題材にして、SDGsとは何か、企業にどんなことが求められているかを理解して頂けると幸いです。
SDGsとは?

SDGs(エスディージーズ)はSustainable Development Goalsの略で「持続可能な開発目標」のことです。SDGsは21世紀の世界が抱える貧困や飢餓・気候変動といった問題を打開するために、世界全体で達成すべき目標として掲げられています。
SDGsは2015年9月に国連サミットで採択され、17の目標(Goals)と169のターゲットが示されました。そのすべての目標に対して「誰ひとり取り残さない(No one will be left behind)」をスローガンに取り組むことが世界の共通意識の1つです。
SDGsの誕生背景
実はSDGsが採択される以前から飢餓・貧困の撲滅、環境保全を目標とした国連の動きは始まっていました。その代表が2000年の国連サミットで採択された「MDGs(ミレニアム開発目標)」です。
MDGsは2000年から2015年までの長期的な開発指針として8つの目標が掲げられ、社会環境の是正などが期待されました。しかし発展途上国が抱える問題を先進国が判断するといった不平等性が重なり、思う通りの結果を得られませんでした。
そこで新しく誕生したのがSDGsで、前回の反省を活かすように先進国と発展途上国が一丸となることが前提とされています。
SDGsが注目される理由
SDGsが注目される理由は企業がESG課題を重視するようになったことが挙げられます。2006年国連事務総長であったアナン氏が提唱した責任投資原則(PRI)をきっかけに、投資家がESG課題を重視して企業に投資するようになったため、企業もESG課題を重視せざるを得なくなりました。
簡単に言えば、ESG課題(環境:Environment、社会:Social、管理体制:Governance)に積極的に取り組む企業が投資家の人気を集めるということです。
例えば、SDGsの取り組みとして再生可能エネルギーの利用やCO2削減に努める企業は、ESG課題に積極的であると評価され、投資家の人気も上がります。つまりSDGsは企業評価に直結する大切な指標の1つとして注目されているわけです。
SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」とは?

SDGs14「海の豊かさを守ろう」は「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」ことをテーマに掲げたSDGs目標の1つです。SDGs14は14.1~14.7に記された7つの具体的な目標と14.a~14.cに記された3つの提案から構成されています。
海洋資源の乱獲や海洋汚染によって海中の生態系が破壊されることを防ぐために、政府だけでなく企業やNPO団体が率先して事業に取り組んでいます。
SDGs目標14のターゲット
SDGs14に定められたターゲットは計10個です。具体的な目標が記されているため、1つずつ確認しておくとよりSDGs14が理解できます。この記事ではSDGs14の10個のターゲットを以下にまとめていますので、ぜひ目を通してください。
番号 | 内容 |
14.1 | 2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する。 |
14.2 | 2020年までに、海洋及び沿岸の生態系に関する重大な悪影響を回避するため、強靱性(レジリエンス)の強化などによる持続的な管理と保護を行い、健全で生産的な海洋を実現するため、海洋及び沿岸の生態系の回復のための取組を行う。 |
14.3 | あらゆるレベルでの科学的協力の促進などを通じて、海洋酸性化の影響を最小限化し、対処する。 |
14.4 | 水産資源を、実現可能な最短期間で少なくとも各資源の生物学的特性によって定められる最大持続生産量のレベルまで回復させるため、2020年までに、漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業及び破壊的な漁業慣行を終了し、科学的な管理計画を実施する。 |
14.5 | 2020年までに、国内法及び国際法に則り、最大限入手可能な科学情報に基づいて、少なくとも沿岸域及び海域の10パーセントを保全する。 |
14.6 | 開発途上国及び後発開発途上国に対する適切かつ効果的な、特別かつ異なる待遇が、世界貿易機関(WTO)漁業補助金交渉の不可分の要素であるべきことを認識した上で、2020年までに、過剰漁獲能力や過剰漁獲につながる漁業補助金を禁止し、違法・無報告・無規制(IUU)漁業につながる補助金を撤廃し、同様の新たな補助金の導入を抑制する。 |
14.7 | 2030年までに、漁業、水産養殖及び観光の持続可能な管理などを通じ、小島嶼開発途上国及び後発開発途上国の海洋資源の持続的な利用による経済的便益を増大させる。 |
14.a | 海洋の健全性の改善と、開発途上国、特に小島嶼開発途上国および後発開発途上国の開発における海洋生物多様性の寄与向上のために、海洋技術の移転に関するユネスコ政府間海洋学委員会の基準・ガイドラインを勘案しつつ、科学的知識の増進、研究能力の向上、及び海洋技術の移転を行う。 |
14.b | 小規模・沿岸零細漁業者に対し、海洋資源及び市場へのアクセスを提供する。 |
14.c | 「我々の求める未来」のパラ158において想起されるとおり、海洋及び海洋資源の保全及び持続可能な利用のための法的枠組みを規定する海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)に反映されている国際法を実施することにより、海洋及び海洋資源の保全及び持続可能な利用を強化する。 |
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/goal14.html
SDGs目標14と他の目標との関連性
SDGs14の取り組みはSDGs5やSDGs8に寄与することがわかっています。例えばSDGs5「ジェンダー平等を実現しよう」との関係性ですが、世界の漁業従事者3億人のうち女性の割合は5割に及ぶため、漁業存続のための環境保全は女性の働く場所を守ることにつながるわけです。
また、SDGs8「働きがいも経済成長も」に関しては、SDGs14に取り組むことで漁業を始めとする産業の発展、強いては地域活性化での安定雇用につながります。このようにSDGs14は海を守るだけでなく、人々の暮らしを守ることを意味するのかもしれません。
SDGs14を取り巻く現状

SDGs14を取り巻く現状として忘れてはいけない問題が3つあります。それが以下の3点です。
- 水産資源の乱獲
- プラスチックごみ問題
- 漁業の雇用問題
問題の根源は「人の暮らし」にあり、SDGs14達成のためには人が水産資源や海洋汚染に対する認識を改め、対策を取る必要があります。
水産資源の乱獲
水産資源の乱獲は海洋生物の生態系を破壊する行為の1つです。2018年の段階で世界の魚介類総生産量は1億7900万トン、2030年には2億トンに達すると予想されています(図1)

一方、世界の魚介類消費量を見てみると2018年は1億5600万トン、2030年には1億8300万トンとなっています(図2)。

生産量と消費量を対比させると、いずれ水産資源が枯渇することは明らかです。さらに悲惨なことに魚介類総生産量の内、増加する見込みがあるのは養殖だけで、天然の魚は減少傾向に転じることが予想されています(図3)。

日本にも馴染みの深い魚料理が食べれなくなる時代が来ないようにSDGs14の取り組みを強化する必要があります。
プラスチックごみ問題
海洋生物の命を奪いかねないプラスチックごみが年間800万トンも海に流れ込んでいると発表されました。特に小さいマイクロプラスチックごみは小魚を経由して人間の身体にも入り込む可能性があるため除去や排出抑制が重要課題です。
問題となっているプラスチックごみは一部のアジア諸国(中国・インドネシア・フィリピン・タイ・ベトナム)が原因とされてきましたが、近年の調査でアメリカが最大のプラスチックごみ排出国であることが判明しました(図4)

かつて最大のプラスチックごみ排出国と言われた中国は、廃プラスチックの輸入を禁止したこととごみ処理のためのインフラが強化されたことで排出量の数字を落とすことに成功しました。
プラスチックごみの削減には世界の多くの企業が対策を講じ、プラスチックのボトルを紙製にしたり、ストローの廃止をしたりする努力を続けています。
漁業の雇用問題
海洋資源が減少することは漁業を生業としている人にとって大ダメージです。魚が採れる海域も少なくなり、漁業を諦める人が増えても不思議はありません。また、SDGs14.4に定められている法に反した漁業が横行する可能性もあるため改善が必要です。
日本は2017年の時点で15万3500人の漁業就業者がいましたが、今も減少を続け2028年には10万2000人台、2048年には7万3000人台になると推測されています(図5)
世界に目を向けると漁業就業者の数は微増しているものの、養殖業に転換する就業者が増えたことが影響しているに過ぎず、元来の漁業就業者の数は微減といった状況です(図6)

出典:「水産庁HP」https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r01_h/trend/1/t1_3_1.html
SDGs14達成のための企業の取り組み事例

SDGs14達成のために海洋保全に取り組む企業が増えています。業種としては、直接的に海を綺麗にする事業を行う水産業者から、間接的に海に流れるプラスチックごみを少なくしようとする大企業までさまざまです。ここでは5つの企業の取り組み事例をご紹介します。
企業事例1:イオン環境財団
イオン株式会社が1990年に設立した「イオン環境財団」は、植樹活動やクリーンエネルギーの活用など早い段階からSDGsへの取り組みを開始していました。SDGs14の取り組みとしては「里海」や「環境活動助成金」を通して世界に貢献しています。
また、イオンではシーフード類を持続可能な水産資源とする取り組み「MSC認証」が話題になりました。持続可能な漁業で適切な審査を受けた水産物に「MSCシール」を貼り、お客に購入してもらうことで、マーケットが広がり、インセンティブにつながる仕組みです。
MSCシールは海のエコラベルと呼ばれ、今後の発展が見込まれる取り組みです。

https://www.aeon.info/ef/approach_SDGs/
企業事例2:株式会社コーセー
化粧品メーカー大手のコーセー株式会社は女性目線を活かして、発展途上国の女性の支援を主に行っています。一方で、2009年夏から「Save the blue プロジェクト」と題した沖縄のサンゴ礁を保全する取り組みを進行中です。
サンゴ礁は地球温暖化による白化やオニヒトデの大量発生による破壊によって存続が危ぶまれている品種です。そこでコーセーは11年間で17342本のサンゴを移植することで、サンゴ礁を守ってきました。

https://www.kose.co.jp/company/ja/sustainability/special1/
企業事例3:協和キリン株式会社
協和キリン株式会社は地域と協力して、海洋環境の改善や維持を目標とした取り組みを行っています。また、企業が保有するノウハウを地域のコミュニティの育成に利用することで環境美化の意識を個人に芽生えさせる努力をしています。
協和キリン株式会社はプロジェクトの一環として「事業場ごとの河川清掃の実施」や「静岡県桃沢川へのあまご稚魚放流」を実現してきました。
企業事例4:SUSTAINABLE JAPAN
SUSTAINABLE JAPANは海洋浮遊ゴミ回収機「SEABIN」の普及を目指している企業です。SEABINは水面に浮遊する2mm超のマイクロプラスチックの回収も可能で、実際に熊本県水俣市や長崎県五島市の海で実証試験が行われました。
「未来の子供たちに綺麗な海を残す」をスローガンに海洋保全に日夜取り組んでいます。
企業事例5:ユニー株式会社
ユニー株式会社はSDGsの目標17個すべてに対して取り組みをしている企業で、SDGs14も例外ではありません。海洋汚染の原因であるプラスチックごみを削減するためにレジ袋の有料化も実施中です。
さらにユニーで販売されている「アトランティックサーモン」はノルウェーの汚水を全く排出しない工場から輸入されており、海洋汚染対策をしっかり実行しています。また、月に1回のペースで子供たちを店舗に招き、自然の素晴らしさを伝えることも取り組みの1つです。
SDGs14への取り組みは世界の潮流

今回はSDGs14の全体像を現状や企業の取り組みを通じてご説明しました。地球の約7割を占める海で今何が起きているか、SDGs14への取り組みで何が変わるのかをご理解して頂けたでしょうか。
SDGs14へ企業が参加することは世界の潮流になっており、企業の評価を定める指標の1つに数えられています。身近なプラスチックを紙で代用するだけでも立派な活動の1つですので、まずは行動に移してみましょう。
SDGs14以外の目標に興味を持たれた方はこちらのESG記事もご覧ください。