2030年までに達成すべき国際的な目標、SDGs。17ある目標の17番目は「パートナーシップで目標を達成しよう」です。主に開発途上国への資金や技術の提供、貿易での措置によって開発を支援しようという内容。どのような取り組みが行われているのでしょうか。
SDGsとは?

SDGs(エスディージーズ)とは、日本語で「持続可能な開発目標」と呼ばれている「Sustainable Development Goals」の略語です。SDGsの目標(Goals)は全部で17あり、その下に具体的な取り組みを示す169のターゲットと232の指標が設定されています。
SDGsの17の目標は決して独立したものではなく、関連し合いながら「誰一人取り残さない」持続可能な世界の実現を目指すもの。2015年9月の国連サミットで採択され、国連加盟国である193の国が2030年までに達成しなければならないとされています。
それぞれの項目について各国の達成度は、国連による「Sustainable Development Report」という公式サイトで確認可能です。
SDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」とは?

SDGsの目標17は、持続可能な開発のためにグローバル・パートナーシップを活性化しようという目標です。目標17には自国の税収や他国への投資、技術協力、貿易、説明責任などに関する19のターゲットが設定されています。
SDGs目標17と19のターゲット
SDGsの目標17は「パートナーシップで目標を達成しよう(Pertnerships for the Goals)」。「持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」という目標です。目標17に設定されているターゲットは19個あり、全ての目標の中で最も多くのターゲットが設定されています。
目標17のターゲットには「ODA」という用語が頻繁に登場します。これは「政府開発援助」のことで、先進国の政府機関による開発途上国や国際機関への援助という意味です。
17.1 | 課税及び徴税能力の向上のため、開発途上国への国際的な支援なども通じて、国内資源の動員を強化する。 |
17.2 | 先進国は、開発途上国に対するODAを国民総所得(GNI)比0.7%に、後発開発途上国に対するODAをGNI比0.15~0.20%にするという目標を達成するとの多くの国によるコミットメントを含むODAに係るコミットメントを完全に実施する。ODA供与国が、少なくとGNI比0.20%のODAを後発開発途上国に供与するという目標の設定を検討することを奨励する。 |
17.3 | 複数の財源から、開発途上国のための追加的資金源を動員する。 |
17.4 | 必要に応じた負債による資金調達、債務救済及び債務再編の促進を目的とした協調的な政策により、開発途上国の長期的な債務の持続可能性の実現を支援し、重債務貧困国(HIPC)の対外債務への対応により債務リスクを軽減する。 |
17.5 | 後発開発途上国のための投資促進枠組みを導入及び実施する。 |
17.6 | 科学技術イノベーション(STI)及びこれらへのアクセスに関する南北協力、南南協力及び地域的・国際的な三角協力を向上させる。また、国連レベルをはじめとする既存のメカニズム間の調整改善や、全世界的な技術促進メカニズムなどを通じて、相互に合意した条件において知識共有を進める。 |
17.7 | 開発途上国に対し、譲許的・特恵的条件などの相互に合意した有利な条件の下で、環境に配慮した技術の開発、移転、普及及び拡散を促進する。 |
17.8 | 2017年までに、後発開発途上国のための技術バンク及び科学技術イノベーション能力構築メカニズムを完全運用させ、情報通信技術(ICT)をはじめとする実現技術の利用を強化する。 |
17.9 | 全ての持続可能な開発目標を実施するための国家計画を支援するべく、南北協力、南南協力及び三角協力などを通じて、開発途上国における効果的かつ的をしぼった能力構築の実施に対する国際的な支援を強化する。 |
17.10 | ドーハ・ラウンド(DDA)交渉の受諾を含むWTOの下での普遍的でルールに基づいた、差別的でない、公平な多角的貿易体制を促進する。 |
17.11 | 開発途上国による輸出を大幅に増加させ、特に2020年までに世界の輸出に占める後発開発途上国のシェアを倍増させる。 |
17.12 | 後発開発途上国からの輸入に対する特恵的な原産地規則が透明で簡略的かつ市場アクセスの円滑化に寄与するものとなるようにすることを含む世界貿易機関(WTO)の決定に矛盾しない形で、全ての後発開発途上国に対し、永続的な無税・無枠の市場アクセスを適時実施する。 |
17.13 | 政策協調や政策の首尾一貫性などを通じて、世界的なマクロ経済の安定を促進する。 |
17.14 | 持続可能な開発のための政策の一貫性を強化する。 |
17.15 | 貧困撲滅と持続可能な開発のための政策の確立・実施にあたっては、各国の政策空間及びリーダーシップを尊重する。 |
17.16 | 全ての国々、特に開発途上国での持続可能な開発目標の達成を支援すべく、知識、専門的知見、技術及び資金源を動員、共有するマルチステークホルダー・パートナーシップによって補完しつつ、持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップを強化する。 |
17.17 | さまざまなパートナーシップの経験や資源戦略を基にした、効果的な公的、官民、市民社会のパートナーシップを奨励・推進する。 |
17.18 | 2020年までに、後発開発途上国及び小島嶼開発途上国を含む開発途上国に対する能力構築支援を強化し、所得、性別、年齢、人種、民族、居住資格、障害、地理的位置及びその他各国事情に関連する特性別の質が高く、タイムリーかつ信頼性のある非集計型データの入手可能性を向上させる。 |
17.19 | 2030年までに、持続可能な開発の進捗状況を測るGDP以外の尺度を開発する既存の取組を更に前進させ、開発途上国における統計に関する能力構築を支援する。 |
以上のように、目標17ではODAや投資、技術協力、貿易での措置などによって開発途上国の発展と支援するとともに、モニタリングやデータを用いた説明が可能となるよう、さまざまなレベルのパートナーシップを強化することが主な内容です。
SDGs 17を取り巻く現状

では、SDGsの目標17を取り巻く現状はどうなっているのでしょうか。
国連のSDGs進捗報告サイト「Sustainable Development Report」や国連広報センターによる日本語版「SDGs報告2020」から、SDGs目標17の達成状況を見ていきましょう。「Sustainable Development Report」の「Interactive Map」の画像とともに解説します。
最初に世界の状況を、次に日本の状況を見ていきましょう。
SDGs 17を取り巻く現状【世界編】
下のマップは、目標17について国ごとの達成度を色で表したものです。マップの中で緑色の国・地域はSDGsの目標17を達成済みのところ、黄色〜赤色の国・地域はまだ課題が残っているところ。色が濃くなるほど大きな課題があることを示します。

SDGs目標17を2020年までに達成した国・地域は、ノルウェー、クロアチア、チュニジア、南アフリカ、ウルグアイ、キューバなど。一方、カナダ、アメリカ、イギリス、日本などは大きな課題を残しており、より一層の取り組みが求められています。
SDGsの目標17で注目されるODAの純流入額については、2018年と2019年で総額はほぼ変化していないものの、アフリカと後発開発途上国への援助額がそれぞれ1.3%(370億ドル)と2.6%(330億ドル)増加しました。
しかし、2020年から世界的に流行するCOVID-19の影響は大きく、2020年における低・中所得国への送金は2019年の推定5540億ドルから大幅に減少する見込み。世界の外国直接投資も、2020年は最大40%減少すると予測されています。
世界貿易に関しても、後発開発途上国による輸出のシェア拡大は困難な状況であることが報告されました。COVID-19の影響で世界貿易が13〜32%減少すると予測されているとともに、特恵関税が平均1.1%という低水準になっているためです。
下のグラフは、2010年から2018年の国際貿易において、後発開発途上国(左のグラフ)と開発途上国(右のグラフ)の輸出量が占める割合(%)を示したものです。点線は製品の輸出、実線はサービスの輸出を表します。

後発開発途上国による製品の輸出の割合は2018年に1%をわずかに上回る程度で、2010年の水準とほぼ変わっていないことが分かります。ターゲット17.11に設定されている「倍増」にはほど遠い状況です。
SDGsの目標17では、ICTをはじめとする実用技術の利用強化もターゲットに設定されています。しかし、2019年時点で固定ブロードバンド回線に加入している人は、先進国で住民100人あたり33.6人であるのに対して、開発途上国では11.2人にとどまりました。
これは、まだ世界人口の半分の人がインターネットを利用できないことを意味する数値。特に開発途上国では、固定ブロードバンド接続ができる環境を整えるためのコストが問題となっています。
ターゲット17.18に設定されたデータ・統計整備についても、貧困国ではデータを作成するためのリソース不足に悩まされています。データ・統計に対するODAは2017年時点で6億9000万ドルまで増加しました。しかし、まだ必要とされる金額の半分でしかありません。
開発途上国が自国の開発アジェンダの進捗状況をきちんとモニタリングするために、より大きく継続的な支援が求められています。
SDGs 17を取り巻く現状【日本編】
日本ではSDGs達成に取り組む国の組織として、全閣僚が参加する「SDGs推進本部」および有識者で構成する「SDGs推進円卓会議」を設置しています。
SDGs推進本部ではSDGs実施指針の策定や改定、SDGsアクションプランなどを作成。「ジャパンSDGsアワード表彰」では、SDGsに取り組んだ好事例を表彰しています。
日本のSDGs全体の進捗は世界17位
国連の「Sustainable Development Report」によれば、日本のSDGs進捗ランキングは国連加盟国193か国の中で第17位です。スコアは100点満点中79.2点となっています。2020年末までに日本が達成したSDGsの目標は、下の画像で緑色になっている目標4、9、16の3つでした。

SDGsの目標17に関しては、大きな課題が残っていることを意味する赤色です。
目標17に設定された指標のうち現在モニタリングされているものは2つあります。その1つである保健と教育に関する財政支出は、2015年以前から達成済み。一方、国民総所得(GNI)に占める政府開発援助(ODA)の額は2001年から2017年まで低水準のままです。
SDGsの目標17に関する日本での取り組み
大きな課題を抱えているSDGsの目標17に対し、日本政府は2021年以降どのような取り組みを行っていくのでしょうか。
SDGs推進本部が作成したSDGsアクションプラン2021から、SDGsの目標17に関して比較的大きな予算が付いている取り組みをいくつかピックアップしてみましょう。
農林水産省 | 地域協同で行う、多面的機能を支える活動や地域資源(農地、水路、農道等)の質的向上を図る活動を支援する。 農林水産分野に様々な分野の知識・技術等を結集し、革新的技術を生み出して商品化・事業化につながる産学官連携研究を支援する。 幅広い民間企業が参加する官民協議会、官民ミッション、二国間政策対話等の枠組みを活用し、官民が連携して途上国等のフ-ドバリュ-チェ-ンの構築を推進する。 |
外務省 | 国連開発計画(UNDP)と連携し、各国での SDGs の達成、人間の安全保障の推進、人道と開発の連携、アフリカ開発会議の成果を踏まえた開発課題への取組を推進する。 国連世界食糧計画(WFP)を通じて、緊急食料支援、中期救済・復興支援、開発事業、人道支援、物資輸送を目的とした事業等を実施する。 国連人道問題調整事務所(OCHA)を通じて、国際人道支援活動の総合調整、支援金の調達、政策の策定、情報の収集・モニタリング・分析・共有、問題提起・理解促進等を実施する。 |
経済産業省 | ESGに配慮した投資の促進、および企業の稼ぐ力とESG/SDGs 等の社会的価値を同期化するサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の推進を図り、企業と投資家の対話の更なる実質化を後押しする。 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)の国内外ネットワーク等を活用し、中小企業等海外展開支援事業を実施する。 2025 年大阪・関西万博の運営・開催を通じて、諸外国と共に SDGs に取り組む官民の姿を発信するため取組を推進する。 |
農林水産省は国内の資源の質的向上や技術革新のための産学官連携を進めるとともに、国外ではフードバリューチェーン構築の推進を行うとのこと。外務省ではSDGsの他の目標と同様に国連の機関を通じて多様な支援を行うようです。
経済産業省ではESGやSGDsを重視した経済活動を支援するとともに、中小企業等の海外展開支援を実施するとしています。
なお、経済産業省が推進するESGに配慮した投資については、以下の記事で詳しく解説しています。
SDGs 17達成のための企業の取り組み事例

日本国内の企業においては、SDGsの目標17達成に向けてどのような取り組みが可能なのでしょうか。
外務省「JAPAN SDGs Action Platform」の「取組事例」から、目標17に関する国内企業の取り組み事例を2つ見ていきましょう。
企業事例1:川崎重工グループ
川崎重工グループでは、「世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献する”Global Kawasaki”」というグループミッションを掲げ、事業を通じてSDGs達成に貢献することを目指しています。
特にSDGsの目標17は全事業に共通する項目と位置付け、取り組んできました。事業では企業間パートナーシップ、オープンイノベーション、産学連携などを通じて社会課題の解決に尽力。下の画像のように、開発した技術について開発途上国への移転・普及も推進しています。

国内でのパートナーシップでは、川崎ワールドの運営、かかみがはら航空宇宙博物館「飛燕」展示支援、ヴィッセル神戸の公式スポンサー、「Kawasaki Good Times Foundation」などの事例があります。
Kawasaki Good Times Foundationは、川崎重工グループが米国に設置した社会貢献基金。米国現地法人であるKawasaki Heavy Industries (U.S.A), Inc.が管理・ 運営し、芸術・文化施設や各種慈善事業、教育・医療・科学の振興活動や被災地支援活動などに寄付を行っています。
企業事例2:UCCグループ
UCCグループでは、海外で直営農園を経営し環境保全や労働環境整備などの活動を続けてきました。
ジャマイカにあるUCCブルーマウンテン直営農園は、2008年にカリブ海初のレインフォレスト・アライアンスに認証され、現在も認証農園として経営されています。
レインフォレスト・アライアンスに認証は、生産者が森林を保護しながら生活を向上させ、農場労働者の人権推進と気候危機を緩和し適応するという、よりサステナブルな農法を用いていると認められるものです。
また、ルワンダのフイエ郡ソブ村で栽培されるフイエ・マウンテン・コーヒーの品質改善にも取り組みました。具体的な取り組み内容は、コーヒーの陰干しの実施、小区画での生産管理、土壌改良などです。

プロジェクト開始当時は荒れ地だった生産地も、現地の人々とともに改善を進め、今ではルワンダ有数のコーヒー生産地に。プロジェクト終了後も現地の人々は品質改善も含めてコーヒー事業に熱心に取り組んでいるとのことです。
UCCグループに関しては、SDGsの目標15でも取り組み事例を紹介しています。
まとめ

SDGsの目標17には、開発途上国への資金や技術提供の他、事業や官民や産学連携などによるパートナーシップ強化もターゲットに含まれています。
事業を海外展開する場合、ジェトロがスタートアップも含む中小企業の海外進出を支援していますし、国内では農林水産省や各自治体による支援のもとで多様なパートナーシップの構築・強化が可能でしょう。
「目標17は、うちの会社とは縁がなさそう」と感じていても、実際に取り組みを進めている他社の例を見れば「うちにもできるかも」ということがあるかもしれません。
地域の産業や文化、海外事業の展開、既存の基金を通した支援、目標17に取り組む企業との積極的な取引など、多角的に検討してみてください。