ESG情報開示の課題とは?日本の企業が価値を高めるためにすべきこと

ESG経営
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近年、世界的に拡大しているESG投資に関して、国際競争力の確保・市場活性化を目的とした日本企業のESG情報開示を促進する動きが活発になっています。

しかし、ESG情報開示が世界的に重要になる中、「どのように評価すればいいかわからない」「現場の負担が増す」という理由から難色を示す企業も少なくありません。

ではESG情報開示を実行するにあたりどんな課題があるのでしょう。今回はESG情報開示の現状や課題を解説していきます。

ESG情報開示とは?

ESG情報開示とは「ESGに関連する非財務情報を顕在化し、投資家に対して提供すること」です。現代社会では、企業のESG情報をもとに投資するかどうかを決定する「ESG投資」が主流になりつつあるため、ESG情報開示は企業の方向性を決める1つのファクターになっています。

ESGが注目されたきっかけは、2006年に国連が提唱した「責任投資原則(PRI)」で、投資家はESGを考慮に入れて企業を選ぶようになりました。そのため今まで表に出てこなかった非財務情報(E:環境、S:社会、G:企業統治)を企業は積極的に開示することが求められているのです。

日本の企業は潜在的なESG価値が高いと言われているため、ESG情報開示を利用し企業価値を大きくすれば、グローバルで展開するESG投資において世界をリードできるのではないかと考えられています。

ESG投資について詳しく知りたい方はこちらのESG記事を合わせてご覧ください。

ESG情報開示の現状

2020年代に入った世界では、企業による高いレベルのESG情報開示が要求される時代となっています。そこには以下の3つの背景が関係しています。

  • 海外の公的年金基金などの機関投資家によるESG投資が進み、2018年の世界のサステナブル投資運用資産が全運用資産の38.7%に到達
  • 2015年9月に世界最大の年金基金であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIに署名し、ESG投資を率先垂範している
  • MSCIなどのESG情報提供会社がESG情報のデータベース化を進め、機関投資家が簡単にESG情報を手に入れることが可能になる

ESG情報開示に関しては欧州がリードしているとされていますが、世界と日本ではESG情報開示に対する現状にどんな違いがあるのでしょうか。

ESG情報開示の現状【世界】

世界の企業によるESG報告書の発行数は年々増加し、2017年には1万を超えました。また、世界の大企業と呼ばれる企業の93%がESG報告書を発行しており、企業におけるESG情報開示がどのくらい重要なのかを読み取ることができます。

また、ESG情報の開示基準が導入されたことで、企業の開示目的や指標・考え方を投資家が理解しやすくなったこともESG情報開示に拍車をかけた要因の1つです。

世界は2008年に起きたリーマンショックを境に短期的な経営ビジョンより長期的で持続可能な経営ビジョンを重要視するようになり、ESG情報開示に対して積極的な姿勢を取っています。

参考:ニッセイアセットマネジメント「多様化するESG情報開示基準等の果たす役割と課題」

ESG情報開示の現状【日本】

日本はESG投資額やESG情報開示基準の策定において世界に後れを取っています。しかし、ESG情報開示自体はとても積極的で統合報告書を含めた企業による開示数は右肩上がりです。

ESG報告機関については後ほど説明しますが、TCFD賛同機関数ではアメリカやイギリスを抑えて1位、CDPの評価においてもアメリカと並ぶ企業数を誇っています(2020年12月31日時点)

ではなぜESG情報開示に積極的な日本は世界で評価されにくいのか。それは日本のESG情報開示に弱点があるからとされています。

参考:金融庁「ESG要素を含む中長期的な持続可能性について」

ESG情報開示の現状【世界と日本の差】

世界と比較して日本のESG情報開示が評価されない理由は主に以下の3つです。

  • グローバルベースの評価項目を十分に理解できておらず、評価を高められる項目の開示がされていない。
  • 日本と欧米では企業に関係する制度や歴史が異なるため、開示が難しい項目が存在する
  • 取締役会の承認が必要な項目など2.3年はかかる項目に関して未着手である

世界のESG情報開示基準に合わせることができる日本の企業は現状一握りで、先の3点を改善することで世界と日本の差を埋めていくしか方法はないと考えられています。

ESG情報開示の課題(日本)

日本のESG情報開示を世界に通用するまで改善するには、取り組むべき課題がいくつかあります。今回はその中でも重要とされる以下の4つの課題を紹介します。

  • ESG情報開示の基準統一(政府レベル)
  • ESG情報開示の促進(政府レベル)
  • ESGに関する投資家との対話強化(1企業レベル)
  • 他社との比較可能性を踏まえた開示の準備(1企業レベル)

政府や企業連合で取り組むべき課題

ESG情報開示に関して政府や企業連合で取り組む必要がある課題は「ESG情報開示の基準統一」と「ESG情報開示の促進」です。いずれも1企業の努力では改善することが難しいため、国家プロジェクトのような枠組みで進める必要があります。

課題①:ESG情報開示の基準統一

ESG情報開示の基準を統一することはESG情報を同じ物差しで計測するために欠かせない課題です。日本の現状はTCFDSASBGRIIIRCなどの国際的枠組みの中から任意で選び報告することが推奨されています。それぞれの枠組みについて図1で簡単にまとめてみました。

TCFD提言SASBスタンダードGRIスタンダード国際統合報告フレームワーク(IIRC)
策定
主体
金融安定理事会(FSB)の下に設置された民間主導のタスクフォース米の民間非営利組織蘭のNGO団体英の民間非営利組織
概要気候変動の影響が企業財務にもたらすリスクと機会を、投資家等に報告するための枠組みサステナビリティ(ESG等)に係る課題が企業財務にもたらす影響を、投資家等に報告するための枠組み企業が経済、環境、社会に与える影響を、投資家を含むマルチステークホルダーに報告するための枠組み企業の財務情報とサステナビリティを含む非財務情報について、投資家等に対し統合的に報告するための枠組み
特徴原則主義細則主義細則主義原則主義
報告
内容
・ガバナンス
・戦略
・リスク管理
・指標と目標
11のセクター、77の業種別に開示項目及びKPIを設定
(例)
・温室効果ガス排出量
・労働災害事故発生割合
経済、環境、社会それぞれについて開示項目及びKPIを設定
(例)
・排水の水質及び排出先
・基本給と報酬総額の男女比
・組織概要と外部環境
・ガバナンス
・ビジネスモデル
・リスクと機会
・戦略と資源配分
・実績
・見通し 等
公表2017年2018年2000年2013年
図1「非財務情報の開示に関わる国際的枠組み」
出典:金融庁「ESG要素を含む中長期的な持続可能性について」

しかし、これらの枠組みは統一された採点法があるわけではないため、ESG情報開示を見て簡単に企業同士を比較することが出来ないという欠点があります。そこでESG情報開示の基準統一が急務になっています。

課題②:ESG情報開示の促進

日本は現状、ESG情報開示が明確に義務付けられていないため、企業にESG情報開示を促す方向性で議論を重ねています。しかし、菅総理が2050年までにカーボンニュートラルを実現すると表明したことで、企業のCO2排出量といった非財務情報の開示の促進が急務になりました。

現に菅総理就任後、日本はESG情報開示の促進に向けた以下のような取り組みをしてきました。

  • 2020年6月、一般社団法人「ESG情報開示研究会」を設立。ESG情報開示の課題や基準、方向性について取り組む(オブサーバーとして経済産業省・金融庁・環境省が参加)
  • 2020年11月、金融庁から「記述情報の開示の好事例集2020」が公表され、任意に情報開示を行うときのポイントを説明
  • 2021年1月、環境省・経済産業省は「サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス」を取りまとめ、企業と投資家間の開示・対話を促す

日本のESG情報開示は取り組みを機に義務化や法規制などが検討され、さらなる促進が期待されています。

1企業で取り組める課題

ESG情報開示の課題には1企業で取り組めるものがあります。それが「ESGに関する投資家との対話強化」と「他社との比較可能性を踏まえた開示の準備」です。

課題③:ESGに関する投資家との対話強化

ESGに関する投資家との対話強化は「企業と投資家の間にあるギャップ」を是正するために重要です。実はESG情報開示に対する満足度は企業と投資家の間ではかなりの差があることが一般社団法人生命保険協会のアンケートによって判明しました。

アンケートによるとESG情報開示を十分していると答えた企業は28%であるのに対し、ESG情報開示を十分にしていると答えた投資家の割合は1%でした。投資家の約半数は企業のESG情報開示が不十分であると感じており、企業と投資家の対話強化が必要な事態となっています。

参考:東京証券取引所「ESG情報開示実践ハンドブック」

課題④:他社との比較可能性を踏まえた開示の準備

他社との比較可能性を踏まえた開示の準備は、資本市場の市場規律を強めることにつながります。比較可能性には「同一企業内での時系列比較」と「同業種での比較可能性」がありますが、ここでは後者の比較可能性が担保されることで、他社比較を投資判断の1つに活用できるわけです。

GRIFの2019年調査によると、システマティック/パッシブ運用では比較可能性に優れたESG情報へのニーズが高いとされています。つまり、他社との比較可能性を踏まえることはこれからのESG情報開示に欠かせない準備と言えます。

ESG情報開示は世界の共通認識へ

今回はESG情報開示の現状や課題を中心に解説してきました。今やESGの評価が高い企業は株価において優位に立つとされています。自社のESGを正当に評価してもらうにはESG情報開示は大きな武器にもなるでしょう。

ESG情報開示は投資家の多様性を理解してどのような情報を伝えるかが大切になるため、企業と投資家のエンゲージメントが鍵を握っています。ESG情報開示は世界の共通認識と言えるほど重要性を増しているので、積極的な企業参加が望まれています。

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