2021年6月に予定されているコーポレート・ガバナンスコード(CGコード)の改訂や、2022年4月に控える東京証券取引所(東証)の再編などに伴い、社外取締役の重要性が見直されています。
本記事では、こうした世の中の動向に応じて企業が把握しておくべき内容を整理し、そもそも社外取締役とは何なのか、社外取締役を設置するねらいは何なのかという観点で詳しく解説していきます。
社外取締役とは?

社外取締役とは、企業の意思決定や業務遂行、経営の監督を行うことを目的として、社外から選出された取締役のことです。
社内での昇進によって就任する社内取締役とは異なり、利害関係なく客観的に会社の経営状況に対して意見ができる立場として、経営状況のチェックや監督の機能を担うのが主な役割とされています。
社外取締役の中でも、さらに厳しい独立性に関する規定を満たしている場合は、一般株主と利益相反が生じる恐れがない「独立社外取締役」とされ、経営者や利害関係者から完全に独立した立場で企業価値向上を目指した経営の監督を行います。
社外取締役は兼務することが可能なため、複数の会社の社外取締役に就任している人もいますが、一部の有識者にオファーが集中してしまう点が問題視されることもあります。なぜなら、複数の企業を兼務していると、一企業に割くことができる時間や労力が限定されてしまったり、秘密情報の管理が疎かになったりしてしまう懸念があるからです。
そこで、社外取締役に対しては、一企業における十分な監督機能を果たせるよう、「競業避止義務」が強く求められています。
社外取締役の要件

社外取締役を選任するには、どんな要件があるのでしょうか。
会社法第2条15項では、現在要件と過去要件が具体的に定められています。
《現在要件》
出典:法務省
①当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等ではないこと
②当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと
③当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。いわゆる兄弟会社)の業務執行取締役等でないこと
④当該株式会社の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は2親等の親族でないこと
《過去要件》
①その就任の前10年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと
②その就任の前10年内のいずれかの時において、当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与又は監査役への就任の前10年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと
難しい言い回しが用いられていますが、重要なポイントとしては以下の3点に集約できるでしょう。
- 企業や他の取締役との利害関係がないこと
- その企業の業務執行に10年間携わっていないこと
- その企業の重役に配偶者や親族がいないこと
なお、上記の要件を満たしていれば誰でも社外取締役になることができますが、実際は経営に携わる重役でもあることから、経営経験者や、法律や財務の知識を有する弁護士や会計士、税理士などの専門家が選任されるケースが多いです。
社外取締役に期待される役割
CGコード4-7では、上場会社の社外取締役の役割や責務を明確に定められています。
①経営の方針や経営改善について、自らの知見に基づき、会社の持続的な成長を促し中長期的な企業価値の向上を図る、との観点からの助言を行うこと
コーポレート・ガバナンスコード
②経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと
③会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督すること
④経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること
上記の要件を踏まえ、具体的に求められる行動として以下の3つが挙げられます。
- 取締役会の決議に参加し、社内の人間がしづらい鋭い質問や厳しい意見も辞さない。株主の利益や企業価値向上の観点を意識した発言を行う
- 大規模な不祥事など、企業の危機的状況下において第三者委員会の設置の要否や委員の選任にプロセスに携わる
- 会社方針をしっかり理解した上で、機関投資家との対話を積極的に図る
その他にも、社外取締役は社内の慣習などに染まっていない第三者だからこそ、新しい発想や理念を企業に吹き込む役割も担っています。
また、不祥事や企業合併・買収などの大きな出来事が起きた際に、企業の立場を客観的に捉え、利害関係に囚われない判断を下すことも社外取締役の大きな役割と言えます。
社外取締役の存在意義をきちんと発揮できるよう、選任された社外取締役には上記のポイントを把握してもらう必要があるでしょう。
ESG視点での社外取締役

社外取締役を適切に設置することはESGの観点でも非常に重要となります。
ここでは、ガバナンスの観点(G)と、ダイバーシティ推進の観点(S)でESGへの関連性をご紹介します。
ESGについてはこちらの記事をご参考ください。
ガバナンスの向上
2021年4月にコーポレートガバナンス・コード(CGコード)の改訂案が公表されました。
2018年・2021年の改訂に際しては、さらに企業の透明性や客観性を高めるために、社外取締役に関する項目が追加されています。
また、2022年4月には東京証券取引所の市場再編が予定されています。
新たな市場区分によってCGコードの適用範囲は異なりますが、最上位の「プライム市場」においては、より高いガバナンスの水準が求められることから、「取締役会全体の3分の1以上の独立社外取締役の選任を求める」内容の案が示されています。
東証の市場再編についてはこちらの記事をご参考ください。
以上の背景から、ガバナンス向上の観点において、社外取締役の存在がますます重要になってきていることが客観性的に示されていることが分かります。
ダイバーシティ推進
ESGの浸透に伴い、従業員のダイバーシティ推進に注力する企業が増えてきていますが、経営陣のダイバーシティも推進されています。
女性の社外取締役を選任する企業は、近年右肩上がりに増加しており、2020年時点で全体の約4割を占めています。

出典:日経ESG
ただし、女性の社外取締役については、まだまだ課題もあります。
例えば、女性の社外取締役の主な経歴は弁護士や大学教授が大半を占め、企業の役員経験者は多くありません。経営の監督を担う社外取締役として、いわゆる“生え抜き”の女性役員が育っていないのです。
そもそも、外部人材に依存してしまうのは社内の女性役員が少ないという背景があるので、社内での女性リーダーの育成を強化することも今後企業に対して求められていくでしょう。
社外取締役は企業価値向上のキーパーソン

社外取締役は第三者的な立場で経営を監督し、企業のガバナンス向上に大きく貢献します。
しかしESGに注目が集まる昨今、単純にガバナンス体制を整備し、違反や不祥事を起こさないことを目的とした「守り」の姿勢では不十分であり、企業価値向上を目指す「攻め」のガバナンスが求められています。
企業の競争力向上に貢献できる高い専門性を有した社外取締役や、企業に新しい風を吹き込むことのできる社外取締役の存在は、企業の成長において必要不可欠です。
CGコードの改正や東証の市場再編などに伴い、自社のガバナンス体制を見直す必要に迫られている企業も多いことでしょう。
ぜひこの機会に、改めて社外取締役の存在意義とそれを活かすための体制づくりを検討してみてはいかがでしょうか。