譲渡制限付株式とは?株価に与える影響とメリット・デメリットを解説

Governance(ガバナンス)
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いくつも種類がある株式制度のなかで通称RSと呼ばれている「譲渡制限付株式」。役員のモチベーションをアップし、会社経営を安定させるために導入を検討している企業は少なくありません。

今回は、譲渡制限付株式について解説し、株価に与える影響や知っておきたいメリット・デメリットを紹介します。法人税法との兼ね合いについてもお話ししています。

譲渡制限付株式とは?

譲渡制限付株式は通称RS(Restricted Stock)と呼ばれています。一定期間、株式の譲渡が制限されている株式制度です。欧米では株式報酬スキームの一つとして普及しており、日本でも2016年の税制改正後に普及し始めました。

2016年の税制改正により、譲渡制限付株式は法人税法上の損金算入が認められたからです。譲渡制限付株式を役員報酬として採用し、節税を試みる企業が増加しています。

譲渡制限付株式は以下の特徴を持っています。

  • 一定期間、譲渡(売却)できない
  • 株主が議決権を持っている
  • 条件を満たせば損金算入が可能

譲渡制限を設けて中長期にわたって役員に株式を保有させることは、経営への積極性を高め、業務のモチベーションを高めることにもつながります。会社の経営を脅かす不利益な人物に株式を買い占められる心配を減らせる、という点も譲渡制限付株式の大きな特徴です。

譲渡制限付株式はESGのG「Governance/ガバナンス」を意識した経営につながるといえます。

譲渡制限付株式が株価に与える影響

譲渡制限付株式を導入すると企業の株価に影響を与えます。株価向上につながる経営を行うのは株式を保有している役員です。役員報酬に譲渡制限株式を採用すするということは、経営努力により株価が向上すれば役員自身の収入が増すことになります。

ですから、譲渡制限株式には役員のモチベーションをアップさせることにより中長期的に株価を上昇させ、配当利回りを上げるというポジティブな影響が期待できるのです。

1997年5月から2000年5月までの3年間、譲渡制限株式を導入している121社で行われた企業の株価効果に関する分析データによると、超過収益率、累積超過収益率の両方において有意なプラスの株価反応が確認されています。

出典:https://www.jc.u-aizu.ac.jp/department/management/youshi/2019/06.pdf

ですから、株式市場において譲渡制限株式を導入している企業は好意的に見られているということが分かります。現金報酬に加えて株価報酬が与えられることによって役員はさらに株価をアップできる経営を行うようになります。その結果、中長期的に株価を向上させる効果が期待できるといえるのです。

譲渡制限付株式のメリット

譲渡制限付株式を導入すれば企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。譲渡制限があるからこそ避けられるリスクや得られるものについて4つのメリットを紹介します。

メリット1:望まない相手への株式譲渡を阻止できる

一定期間、株価を譲渡できないため外部の人間に株式を譲渡されて乗っ取りが起きるというリスクを防げます。譲渡制限付株式は条件を達成しなければ株式を売却できないため、役員の退任や転職防止や会社にとって不利益な人間が役員になることを阻止する効果があるのです。

身内だけで全経営権を維持したいというケースでは、すべての株式を譲渡制限付株式にしている場合もあります。株式を複数の人に分散させて保有させるのではなく、事業を継がせる後継者に集中させるということも可能です。

加えて、譲渡制限付株式会社には相続人に対して売渡してもらうよう請求できる制度があります。会社にとって望ましくない、不都合な人物に相続された場合、株式を売渡してもらうことにより相続クーデターを防止できるというメリットもあるのです。

メリット2:役員の任期を延長し経営を安定させる

基本的に株式を保有している役員の任期は2~4年です。しかし、譲渡制限付株式を導入している企業では役員の任期を10年まで延長できます。役員が中長期的に株式を保有し、長く経営の第一線で活躍してくれることにより、会社を安定させられます。

ただし、新しい人材の育成や若い人材を経営に加わらせたい時には、10年という任期が弊害になる可能性もあるので注意しましょう。

メリット3:取締役会・監査役が不要になる

譲渡制限がなければ取締役会の設置が義務付けられているため、取締役を3人以上、監査役または会計参与を1人以上選定しなければなりません。譲渡制限付株式を導入している企業では取締役会や監査役が不要です。

取締役が3人未満でも経営を行えます。また、株主のみが役員になる資格を保有するという制限を定款に定めることができます。このように譲渡制限付株式を導入すれば、経営にあたる役員を制限できるため意図していない第三者の手に株式が渡ることを防止できます。

メリット4:株主総会の招集手続きが簡単

譲渡制限付株式は株主総会の1週間前に招集をかけることが可能です。条件を満たせばさらに短期間での招集もできます。

通常、株主総会を開催するためには2週間前に文書やメールを作成して書面通知をしなければなりません。譲渡制限がない株式会社と比較すると、1週間前の口頭通知が認められている譲渡制限付株式会社の株主総会は開催する手続きが非常に楽であるといえます。

譲渡制限付株式のデメリット

譲渡制限付株式には会社にとって多くのメリットがあります。しかし、注意しなければならない点もチェックしておきましょう。経営を脅かすリスクをできるだけ減らすためにも、譲渡制限付株式のデメリットを2つ紹介します。

デメリット1:相続時や株式買取請求権による乗っ取り

メリットの一つとしても触れましたが、譲渡制限付株式会社では相続人に対して他の株主が株式の売渡を請求できます。株主総会で議決された場合、相続人の株式をどれだけ所有しているかにかかわらず受渡すしかありません。

受渡請求が議決されると、意図していない相続人が会社を継ぐことになってしまう可能性があります。もちろん、相続人が会社にとって不都合である場合には譲渡請求権はメリットとなりますが、逆に役員により乗っ取りが起きるリスクも考えなくてはなりません。

また、株式買取請求権を利用して第三者に株式が譲渡される可能性があります。譲渡制限を設けていても、譲渡行為が違法になるわけではないので注意しましょう。

デメリット2:譲渡制限を導入するための定款変更は煩雑

既に設立されている会社の定款を変更するには非常に手間がかかります。譲渡制限を定める旨を定款に記載するために、まず株主の賛意を求めなければなりません。株主は株式買取請求権を持っているため、譲渡制限が設けられることに反対する役員もいることでしょう。

煩雑な手続きを踏んで株式の譲渡制限を設定しなくて済む方法は一つ。会社の設立時、原始定款に「株式の譲渡を行うには株主総会の承認が必要である」という内容の一文を記載しておくことです。

譲渡制限付株式とストックオプションの違い

譲渡制限付株式とストックオプションはよく似ているインセンティブ報酬です。両者を比較して違いを解説しましょう。

まず、対象者が違います。ストックオプションは役員だけではなく従業員や社外の協力者も付与対象者となりますが、譲渡制限付株式は役員のみが対象者です。法人税法により、従業員には通貨払いで給与を支払うことが義務付けられているため株式報酬の対象に加えられません。

また、払込金額も違います。ストックオプションは株式購入金額を払込しなければなりませんが、譲渡制限付株式の場合は払込する必要はありません。株価が低迷すると損になってしまうストックオプションとは違い、譲渡制限付株式は株価が低迷しても報酬を受け取れるというメリットがあります。

ストックオプションは制限期間を過ぎると即座に株式を譲渡するという短期的なアクションを助長しがちです。それに比べて譲渡制限付株式は業績の達成度合いなどが権利行使の条件になるため、長期的な業績向上、株価向上につながりっます。

その他にも配当や議決権の有無、所得税額や会計処理などに違いが見られます。グローバル化の波に乗り、株主にとっても納得がいく報酬制度で、企業にとってもメリットの大きいインセンティブ手法は譲渡制限付株式であると言えるでしょう。

法人税法と譲渡制限付株式の関係

2016年の税制改正により、要件を満たしている譲渡制限付株式は損金算入が可能になっています。では譲渡制限付株式を導入すると税金にどのような影響を与えるのでしょうか。

まず「所得税」。譲渡制限付株式を保有している役員に対して、譲渡制限が解除された日に株式の価額に応じて給与等として所得税が課せられます。続いて「法人税」です。譲渡制限が解除された日の事業年度に、株式の交付と引き換えに現物出資された報酬債権等の金額を損金算入できます。

では、損金算入が可能な譲渡制限付株式の要件とは何でしょうか。

  • 譲渡制限が一定期間設定されている株式
  • 法人に没収される事由として勤務条件の非達成が定められている株式
  • 債権の給付と引き換えに役員が保有できる株式
  • 役員である法人の株式

加えて、支給額や交付日等に関する要件を満たす必要もあります。

役員として働く対価として譲渡制限付株式を交付する場合には、事前確定届出給与の要件を満たした場合にのみ株式による給与を損金算入できます。株式の数が役員の任期以外の事由で変動する場合は、損金不算入となるため注意してください。

譲渡制限付株式を導入して長期的な株価上昇を目指す

譲渡制限付株式は、欧米で報酬スキームとして広く普及している株式制度ですが、グローバル化の途上にある日本では2016年の税制改正後に普及が始まりました。

譲渡制限付株式はその特性上、役員のモチベーションが高く経営に積極的であるため、中長期的に株価の向上を期待できます。そのため、株式市場でも好意的に見られることが分かっています。

会社の経営を安定させ、企業価値を高めていくために譲渡制限付株式を株式制度として採用することをぜひ検討なさってください。

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