2015年にSDGsが提唱され、持続可能な開発が行われるための17の目標が定められました。目標の内容は多岐に渡りますが、その中で経済成長と適切な雇用の両立を目指すものが目標8「働き甲斐も経済成長も」です。
今回はSDGsの17の目標の8つ目「働き甲斐も経済成長も」について、世界の現状や企業の行なっている取り組みを解説していきます。
SDGsとは

SDGsとは主に人権・経済・環境3つの分野について定められた、世界規模の持続可能な開発目標のことです。2015年9月の国連サミットで加盟193ヵ国の全会一致で決まりました。
SDGsは2030年の持続可能社会達成を目指し、そのための17の目標を定めています。具体的な目標の内容は以下の通りです。
1.貧困を失くそう | 10.人や国の不平等をなくそう |
2.飢餓をゼロに | 11.住み続けられるまちづくりを |
3.すべての人に健康と福祉を | 12.つくる責任つかう責任 |
4.質の高い教育をみんなに | 13.気候変動に具体的な対策を |
5.ジェンダー平等を実現しよう | 14.海の豊かさを守ろう |
6.安全な水とトイレを世界中に | 15.陸の豊かさも守ろう |
7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに | 16.平和と公正を全ての人に |
8.働きがいも経済成長も | 17.パートナーシップで目標を達成しよう |
9.産業と技術革新の基盤を作ろう |
現在これらの目標を達成するために、国や企業が様々な取り組みを進めています。
特に企業の取り組みに関しては別名「ESG」とも呼ばれ、企業価値などの観点から各社取り組みを推進しています。ESGに関しては以下の記事をご覧ください。
SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」とは?

SDGsの17の目標には、それぞれテーマが設定されています。
SDGs8のテーマは「すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する」です。
ディーセントワークとは「働きがいのある人間らしい仕事」のことで、上記のテーマはすべての人々が一定水準の給料・環境条件を満たした雇用を獲得すること、と言い換えることができます。
SDGs8のターゲットとは?
SDGsの各目標には、その達成のために実現すべきいくつかの指標をターゲットとして定めています。SDGs8のターゲットは以下の12個です。
なお「8.1」など末尾が数字のものは指標であり、「8.a」のような末尾がアルファベットは達成手法を表しています。
8.1 | 各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。特に後発開発途上国は少なくとも年率7%の成長率を保つ。 |
8.2 | 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。 |
8.3 | 生産活動や適切な雇用創出、起業、創造性及びイノベーションを支援する開発重視型の政策を促進するとともに、金融サービスへのアクセス改善などを通じて中小零細企業の設立や成長を奨励する。 |
8.4 | 2030 年までに、世界の消費と生産における資源効率を漸進的に改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と生産に関する 10 年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る。 |
8-5 | 2030 年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する。 |
8.6 | 2020 年までに、就労、就学及び職業訓練のいずれも行っていない若者の割合を大幅に減らす。 |
8.7 | 強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終わらせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁止及び撲滅を確保する。2025 年までに児童兵士の募集と使用を含むあらゆる形態の児童労働を撲滅する。 |
8.8 | 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、全ての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。 |
8.9 | 2030 年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する。 |
8.10 | 国内の金融機関の能力を強化し、全ての人々の銀行取引、保険及び金融サービスへのアクセスを促進・拡大する。 |
8.a | 後発開発途上国への貿易関連技術支援のための拡大統合フレームワーク(EIF)などを通じた支援を含む、開発途上国、特に後発開発途上国に対する貿易のための援助を拡大する。 |
8.b | 2020 年までに、若年雇用のための世界的戦略及び国際労働機関(ILO)の仕事に関する世界協定の実施を展開・運用化する。 |
SDGs8を取り巻く現状【世界編】

SDGsは2015年に国連サミットにて制定されてから数年が経過しますが、世界ではいまだに様々な原因から失業者が発生しており、SDGs8は大幅に未達成であるといえます。
雇用をめぐる世界の現状は一体どうなっているのでしょうか。以下で詳しく見ていきましょう。
現状1:失業者は世界で1.9億人もいる
世界全体で失業者の数は1.9億人にのぼり、さらに毎年340万人が失業している現状があります。
また2020年の新型コロナウィルスの影響で、都市部のロックダウンによる需要の冷え込み、感染拡大による工業閉鎖が原因で失業者が一気に増加しています。
この失業者は経済大国のアメリカや中国も含め、今後もさらに増えていくと懸念されています。
現状2:低賃金で働いている人が世界で半分もいる
雇用されている人の中でも、半分は低賃金労働者であるのが世界の現状です。
中国やインドなど経済発展が著しい新興国では、経営者が利益を独占して労働者は低賃金で過酷な労働を強いられている現状があります。
経営者に賃金の値上げを訴えようにも解雇されるケースも非常に多く、怖くて声を出せない労働者がほとんどです。
SDGs8の影響でで労働環境の改善する法律が整備されてはいるものの、その法律を守らない経営者も多くさらなる対策が求められています。
現状3:若者の雇用問題
ビジネスは成果主義であり年功序列ではないというイメージが根強い海外の雇用市場でも、待遇の良い役職は年配者が占めているのが現状です。
数は国別の、年代別の失業者割合を示しています。スペイン、イタリアを中心として欧米諸国の失業率の高さが目立ちます。

現状4:強制労働や児童労働問題
発展途上国を中心に、劣悪な環境での強制労働や児童労働が根強く残っています。
以下の図は4年毎の児童労働者数の推移を示しています。国際ボランティアや各国の改善策が功を奏し年々減少傾向にはあるものの、いまだ世界では1億人以上が児童労働を強いられています。

現状5:ジェンダー格差
世界では女性雇用が促進されていない現状が根強くあります。
下図は各国のジェンダー格差を色で示したもので、赤い色の国の多い地域ほどジェンダーギャップが大きく、青に近い色の国ほど男女平等であることを示しています。

この図よりアフリカや中東を中心に根強い男女格差が残っていることがわかります。
雇用という側面では、社会的慣習として女性の地位が低いことを原因として女性の雇用口が十分に供給されていない国も未だに多いです。
SDGs8を取り巻く現状【日本編】

ここまで世界の雇用の現状について見てきましたが、日本はどうでしょうか。
先進国である日本に低賃金や労働は馴染みがありませんが、実際は日本の雇用の中にも課題は多く存在します。日本を取り巻くSDGs8の現状について見ていきましょう。
現状1:新型コロナウィルスの影響で新卒内定率は悪化
下図は新卒内定率の推移です。

2008年にアメリカでリーマンショックが起こり、日本もその影響で新卒内定率は急激に悪化しました。アベノミクスのおかげで有効求人倍率は少し持ち直したものの、2020年新型コロナウィルスが猛威を振るいだし再び内定率は悪化傾向にあります。
現状2:ニート問題
以前から働かず家に引きこもり、親に面倒を見てもらう成人、いわゆるニートが増加傾向にあります。
下図は15~39歳の人口に占める若年ニートの割合を示しており、近年は2%強の前後の高水準を推移しています。

就職しない原因は職場環境や心身の調子など様々ありますが、社会保障や生活保護制度が普及している日本では雇用されなくても生活が可能であることも、無業者比率を上げる原因の一つとなっています。
現状3:男性優先という考えが未だにある
男女の雇用格差は日本の根強い問題となっています。
男女雇用機会均等法が成立したことで、性差による雇用条件の差は解消されつつありますが、いまだに職場での男女差は残っており、パワハラやセクハラ行為も以前から問題になっています。
現状4:障害者の雇用環境
障害者の雇用環境の確保も近年の日本の課題となっています。
近年各企業は障害者も社会で働けるよう、雇用の確保に取り組んでおり、障害者雇用に特化した特例子会社の設置も増えています。
一方でしかし就職できても差別されるケースも多く、働きづらいというのが現状です。

現状5:ブラック企業問題
日本でも近年安い賃金で長時間働かせるブラック企業が増えています。
以下は日本人の突き当たり残業時間についての調査結果です。1日平均で3時間以上残業している従業員が6割近くにものぼることがわかります。

また労働条件のみならず、上司からの圧力や職場環境という意味で苦難を強いられている従業員も多くいます。
SDGs8達成のために企業ができること

SDGs8の目標を達成すること、すなわち従業員にとって満足な職場の提供は、企業の採用力の向上にもつながる上、ESG企業として企業価値が向上することも期待できます。
ここでは、SDGs8達成のために企業として行える取り組みをご紹介します。
1:雇用環境の改善
どうすれば自社の従業員の平均勤続年数が上がるかを考え、雇用環境の改善を行うのは1つの方法です。
そのためには従業員が感じている雇用環境の改善点を調査し反映させるなど、ニーズを吸い上げて都度雇用環境を改善することが求められます。
また、従来雇用が不十分であった女性雇用や障害者雇用の環境整備を行うことも1つの取り組み方法になります。
2:雇用環境の透明性をあげる
SDGs8の目標達成のためには、雇用の透明性をあげるのも1つの方法となってきます。
悪質な労働環境の隠蔽は、企業の信用リスクにつながります。雇用希望者が自社の雇用環境について常にアクセスできる状態にし、入社後のミスマッチが起こらないようにすることが重要です。
また、雇用環境を透明にすることで企業の雇用への取り組みが常に市場の目に晒されることになるので、良い場合はそれが企業イメージの向上につながり、悪い場合には改善を促され、より健全な雇用へとつながるメリットもあります。
SDGs8達成のための企業の取り組み事例

SDGs8の目標を達成するには、実際に各企業はどのような取り組みを行っているのでしょうか?
ここからは、SDGs8を実行している企業の具体的な取り組みを紹介していきます。
日本郵政株式会社
「従業員1人1人が、能力を十分に発揮し活躍する」を目標に掲げて、人材の育成と働き方改革を実行しています。
具体的には女性管理者比率と障害者雇用率の増加のための社内整備を行い、実際に数を増加させています。
株式会社ヤクルト本社
乳酸菌飲料を販売するヤクルトは、調達・生産・販売と各サプライチェーンにおける雇用で、雇用環境改善の取り組みを行っています。具体的には以下のような取り組みです。
- 生産工場の適正な雇用の確保
- ヤクルトレディの就労環境の設備・能力向上のための研修
また、ヤクルトレディを雇うという文脈では女性の雇用に積極的な会社として、女性雇用貢献企業としてアピールしています。
富士ゼロックス株式会社
富士ゼロックス株式会社では、SDGs8の達成に向けて会社独自で「Sustainable Value Plan(サステナブル・バリュー・プラン)2030(SVP2030)」を目標に掲げ、さまざまな取り組みを行っています。
例えば生産工場と創造性を発揮できるように人材の育成や維持を推進や、地域の人手不足を解決するための対策を検討するなどSDGs8の目標達成に向けて活動しています。
SDGs8を達成するために世界に求められていることとは?

SDGs8の目標を達成するには経済の発展と労働環境を守ることを両立することが大切になってきます。そのためには労働者の収入・健康・教育・就業環境を整える規定が必要です。
一部の人間だけ儲かるような不平等は、長期的な経済成長を阻害し、今は利益が出ても将来企業にとって、大きなダメージを受けてしまうことを経営者は理解しなければ、SDGs8の目標達成は難しいでしょう。