SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」とは?企業の取り組み事例まで徹底解説

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世界の経済が発展するにつれて次々と失ったものの1つが「陸の豊かさ」です。自然を大切にしよう、動植物を保護しようとするボランティア団体の健闘も虚しく、毎年一定の動植物が地球上から姿を消しています。

そんな陸の生物の現状を打開するために採択されたのがSDGs15で、今や企業としてSDGs15に取り組むことが義務となりつつあります。

今回はSDGs15の概要や現状を解説しますので、企業としてSDGs15に取り組む際のヒントにして頂けると幸いです。

SDGsとは?

出典:「外務省 JAPAN SDGs Action Platform」

SDGsは「Sustainable Development Goals」の略で、「持続可能な開発目標」のことです。読み方は「エスディージーズ」が正しい発音になります。

SDGsは2015年9月の国連総会で採択された世界共通の目標で、2016年から2030年の間に世界が達成すべき指標が記されています。SDGsは17個の大きな目標と169個のターゲット(目標を達成するために細分化された課題)から構成され、その1つ1つが持続可能な社会を実現させるための鍵です。

SDGsは前身のMDGsと異なり、先進国・発展途上国すべての国が平等に取り組むべき目標として位置づけされ、「誰ひとり取り残さない(leave no one behind)」をスローガンに掲げています。

日本におけるSDGsの動き

先進国である日本はSDGsの採択を受けて、2016年5月にSDGs推進本部を設置し、自国が優先して達成すべき目標について議論を始めました。その後、2016年12月に策定された「SDGs実施指針」の中で、日本が優先すべき8つの課題が発表され、現在もSDGsへの取り組みのベースとなっています。

2019年12月にSDGs実施指針を改定した「SDGs実施指針改定版」の中で、日本は8つの優先課題を次のように記しています。

  1. あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
  2. 健康・長寿の達成
  3. 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
  4. 持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの設備
  5. 省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
  6. 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
  7. 平和と安全・安心社会の実現
  8. SDGs実施推進の体制と手段

SDGsとCSRの違い

SDGsの概念を理解した方はCSR(Corporate Social Responsibility)と何が違うのか疑問に思うかもしれません。CSRは「企業の社会的責任」と位置づけられ、1990年代から多くの企業が環境保全に取り組んできましたが、環境のために何かをするという点においてはSDGsと共通しています。

ずばりSDGsとCSRの違いを言うと、前者は自社のビジネスモデルを活用して社会問題を解決することで、後者は企業が消費者から信頼を得るために慈善活動を行うことと区別できます。

つまり、SDGsは自社の強みを活かした環境保全で企業に利益をもたらすのに対し、CSRは自社にとって利益にならない環境保全を慈善として行うという違いがあるのです。

SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」とは?

SDGs15「陸の豊かさも守ろう」は12個のターゲット(9個の課題と3個の具体的対策)から構成され、SDGs14「海の豊かさを守ろう」と対を成す形で存在する目標です。SDGs15の原文には以下のようにメインテーマが記載されています。

「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」

外務省「JAPAN SDGs Action Platform」

地球が抱える環境や生態の問題を解決して、陸の生物が心地よく過ごせる環境作りをすることがSDGs15の大きな目標です。

SDGs15のターゲット

SDGs15の目標「陸の豊かさも守ろう」には、12個のターゲットが定められています。ターゲットは目標を細分化し、達成すべき課題をわかりやすく伝えた文言です。SDGs15への取り組みを考えるときに参考にすることが可能なので、以下のターゲット一覧で確認しておきましょう。

ナンバーターゲット内容
15.12020年までに、国際協定の下での義務に則って、森林、湿地、山地及び乾燥地をはじめとする陸域生態系と内陸淡水生態系及びそれらのサービスの保全、回復及び持続可能な利用を確保する。
15.22020年までに、あらゆる種類の森林の持続可能な経営の実施を促進し、森林減少を阻止し、劣化した森林を回復し、世界全体で新規植林及び再植林を大幅に増加させる。
15.32030年までに、砂漠化に対処し、砂漠化、干ばつ及び洪水の影響を受けた土地などの劣化した土地と土壌を回復し、土地劣化に荷担しない世界の達成に尽力する。
15.42030年までに持続可能な開発に不可欠な便益をもたらす山地生態系の能力を強化するため、生物多様性を含む山地生態系の保全を確実に行う。
15.5自然生息地の劣化を抑制し、生物多様性の損失を阻止し、2020年までに絶滅危惧種を保護し、また絶滅防止するための緊急かつ意味のある対策を講じる。
15.6国際合意に基づき、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を推進するとともに、遺伝資源への適切なアクセスを推進する。
15.7保護の対象となっている動植物種の密猟及び違法取引を撲滅するための緊急対策を講じるとともに、違法な野生生物製品の需要と供給の両面に対処する。
15.82020年までに、外来種の侵入を防止するとともに、これらの種による陸域・海洋生態系への影響を大幅に減少させるための対策を導入し、さらに優先種の駆除または根絶を行う。
15.92020年までに、生態系と生物多様性の価値を、国や地方の計画策定、開発プロセス及び貧困削減のための戦略及び会計に組み込む。
15.a生物多様性と生態系の保全と持続的な利用のために、あらゆる資金源からの資金の動員及び大幅な増額を行う。
15.b保全や再植林を含む持続可能な森林経営を推進するため、あらゆるレベルのあらゆる供給源から、持続可能な森林経営のための資金の調達と開発途上国への十分なインセンティブ付与のための相当量の資源を動員する。
15.c持続的な生計機会を追求するために地域コミュニティの能力向上を図る等、保護種の密猟及び違法な取引に対処するための努力に対する世界的な支援を強化する。
出典:「外務省 JAPAN SDGs Action Platform」

SDGs15の重要キーワード「生物多様性」とは?

SDGs15を理解する上で、重要なキーワードとなるのが「生物多様性(Biological Diversity)」です。生物多様性は人間・動物・植物・細菌・微生物に至るまで、陸に存在する生物のつながりを表した言葉で、どれか1つが欠けても生存できなくなる大切なサイクルを示します。

ターゲット15.aで生物多様性の持続が課題に挙がっている通り、地球では生物多様性が破壊されつつあります。生物多様性を保全するためには地球の置かれた現状を把握して、再生可能なエネルギー源を利用することが重要です。

SDGs15を取り巻く現状

SDGs15が策定されてから丸5年が経過しましたが、目標達成にはまだまだ努力が必要な状況であり、それは日本も例外ではありません。地球の3割を占める陸の生態系は人間が生存するための糧となるため、生物多様性が崩壊する前に立て直す必要があります。

この章では、SDGs15を取り巻く現状を世界と日本に分けてご紹介します。地球の現状を理解することで自らに何ができるかを考えることがSDGs15への取り組みの第一歩です。

SDGs15を取り巻く現状【世界】

世界には森林資源に恵まれた国や動植物が多種多様に存在する国があります。しかし、経済の発展とともに人類によって自然が破壊されていったことは紛れもない真実です。ここでは今もなお改善が進まない環境問題の現状を3つ見ていきます。

世界の現状①:砂漠化

砂漠化はもともと作物の育つ良質な土地が、気候変動や人為的要因によって全く作物の育たない不毛の地になることを指します。地球の陸地の約40%が乾燥地域とされ、その内の10~20%はすでに砂漠化によって生産性の無い土地になっています。

特にアフリカとアジアの砂漠化は深刻で、アフリカは人口増加による過放牧(自然の草木でカバーできない量の家畜を放牧すること)、アジアは森林減少が原因とされています。この2つの地域だけで毎年264万ヘクタールの土地が砂漠化している状況です。

世界全体に目を移すと砂漠化や干ばつによって失われる土地は年間に1200万ヘクタールと言われ、砂漠化を改善するために必要なお金は700億ドル~1600億ドルと計算されています。

世界の現状②:森林伐採

地球の陸地の約30%は森林で、その半数以上がロシア・ブラジル・カナダ・アメリカ・中国に集中しています。しかし、2010年から2015年にかけて世界で330万ヘクタールの森林が姿を消しました。

図1の「世界の森林面積の国別純変化」からもわかる通り、アフリカとブラジルでの森林減少は年間50万ヘクタールを超え、失った森林のほとんどが多種多様な生物が暮らす熱帯雨林です。

世界の森林面積の国別純変化(2010〜2015年、年平均)
図1 世界の森林面積の国別純変化 2010~2015(年平均)
出典:「SDGs CLUB」
https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/15-land/

森林減少が続く大きな原因は「違法伐採」と「貧困による伐採」の2つです。違法伐採は商業利益を得るために国の許可なく森林を伐採することですが、世界に流通する木材の15~30%が違法伐採によるものとされています。

貧困による伐採は、貧困に苦しむ人が農地を開拓するために無断で森林を伐採することを指し、タイのようなアジア地域で見られる光景です。開拓された土地は利用価値がなくなると放置されるため、二度と作物の育たない砂漠になることが懸念されています。

世界の現状③:野生生物犯罪

野生生物犯罪とは「密猟」のことで、世界の120カ国に及ぶ国々が7000種の動植物の密売に関わっていると国連広報センターが報告しました。2018年時点で、確認されている動植物8300種の内、8%が絶滅、22%が絶滅の危機にあるとされています。

SDGs15を取り巻く現状【日本】

日本の森林面積は2500万ヘクタールで、国土の約67%を占めています。さらに過去50年間の森林面積の推移を見ると、2500万ヘクタールを基準にほとんど増減がありません。しかし、そんな日本でもSDGs15への取り組みを通じて改善すべき課題がたくさんあるのです。

日本の現状①:里山の荒廃

一般的に里山は「溜池や人工林で構成された生物を守る地域」とされ、環境保全のプログラムに組み込まれてきました。しかし今、里山の荒廃がSDGs15を取り巻く課題として挙げられています。

里山は生物多様性の確保や炭素固定のために必要な取り組みですが、高額なメンテナンス費に加え、担い手不足が原因で存続の危機にある状況です。適正に管理されずに成長した人工林は完全に根を張ることがないため、集中豪雨での土砂災害のリスクが高くなると予想されます。

さらに人工林を放置すると地表に日光が届かず、下草の成長を妨げ、生物多様性の損失につながると懸念されています。

日本の現状②:外来種の侵入

日本の生物多様性を脅かす存在が「外来種」です。外来種が日本に侵入する原因は「意図的導入」と「非意図的導入」の2つがあり、前者はペットや食用として、後者は木材や貨物船に付着する形で侵入してきます。

外来種の厄介な所は天敵が少なく、日本由来の生物(在来種)を襲いながら指数関数的に増殖をする可能性が高いことです。現在、国内には2000種を超える外来種が存在するとされ、日に日に在来種が絶滅への一途を辿っています。

日本の現状③:林業従事者の減少

陸の生物多様性を保護するために植林や植栽・間伐が必要になりますが、その担い手となるのが「林業従事者」です。しかし、日本における林業従事者の数は年々減少し、高齢化も進んでいます。

1985年当時、12万人を超える林業従事者が日本にはいましたが、2015年の時点では4万人をわずかに超える数にまで減少しました。従事者数の減少を割合にすると実に64%で、高齢化率も20~30%を推移する状況です。

日本の生物多様性を維持・回復させるためには今後若い世代の参入が不可欠になると考えられます。

SDGs15達成のための企業の取り組み事例

SDGs15達成のために企業はさまざまな取り組みを実施中です。現代社会においてSDGsに取り組むことは企業の義務として扱われ、投資家や消費者の評価対象となっています。ここではSDGs15に関する企業の取り組みをご紹介します。

企業事例①:アートコーポレーション株式会社

  • タブレットを利用した見積書のデジタル化で「ペーパーレス」を促進
  • グリーンディーゼル車の導入でCO2、NOx、PMの排出量を減少
  • 梱包の際に紙を使用しない「エコ楽ボックス」を開発

企業事例②:UCC上島珈琲

  • エチオピアの経済的豊かさと自然環境の保護をコーヒー栽培を通じて実現
  • レユニオン島で幻のコーヒー「ブルボンポワントゥ」の再生プロジェクト
  • 2019年に廃棄物の再資源化率98.7%を達成

企業事例③:建設環境研究所

  • レーダーを用いた鳥の飛翔地点の観測(目的:バードストライクの防止)
  • GPSを用いたタヌキの行動範囲の把握(目的:動物専用のオーバーブリッジ建設)
  • インターネットを利用した希少生物のモニタリング

企業事例④:フロムファーイースト株式会社

  • カンボジアの荒れ地に植林する「森の叡智プロジェクト」を実施
  • カンボジアの4haの土地を利用してオーガニックコットンを中心とする森づくりを実施
  • FSC認証(持続可能な森林管理のもと育てられた木材に与えられる認証)の導入

SDGs15への取り組みは意識改革から

今回はSDGs15の概要から現状、取り組み事例まで詳しく解説しました。SDGs15の目標「陸の豊かさも守ろう」が2030年までに達成されるかどうかは不透明ですが、企業としてSDGs15に取り組む必要性を感じることができたのではないでしょうか。

SDGs15の取り組みは何も壮大なスケールである必要はありません。もちろん発展途上国の土壌再生は立派な事業ですが、身近な資源を無駄にしないだけでもSDGs15に取り組んだことになります。最初は我が社には何ができるかを1人1人が考えるそんな意識改革が必要かもしれません。

SDGs15以外のSDGs目標に興味を持たれた方は、こちらを合わせてご覧ください。

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