最近、アメリカ経済誌「グローバルファイナンス」から2020年版「世界の住みやすい都市ランキング」が発表され、東京がランキング1位に選ばれました。経済力や環境など8項目を配慮した結果、全体的な生活の質の高さが評価されての受賞です。
東京は世界に認められる経済都市に成長しましたが、50年後、100年後も今の姿を維持するには努力が必要になります。そこでキーワードとなるのが今回取り上げる「SDGs11」です。この記事では「SDGs11」とは何かという基本的な部分から解説していきます。
SDGsとは?
SDGs(Sustainable Development Goals)は「持続可能な開発目標」を指す言葉で、2015年9月の国連サミットで採択された国際的な宣言です。SDGsは2016年から2030年の間に世界が解決すべき課題について、17の目標と169のターゲットを用いて記載されています。
SDGsは「誰ひとり取り残さない(leave no one behind)」をスローガンに掲げ、先進国と発展途上国が一丸となって取り組むことが約束されています。SDGsを通して、貧困やジェンダー・環境に関する問題を解決し、持続可能な社会を構築することが最大の目的なのです。
SDGs誕生の背景
SDGsは今や企業にとって評価基準に関わるなど認知度を上げていますが、SDGs以前にも世界の問題に取り組むための枠組みが存在します。それが「MDGs(ミレニアム開発目標)」です。MDGsは2000年から2015年までの長期的開発を目的として2000年に国連サミットで採択されました。
しかし、MDGsは貧困や飢餓撲滅に対する一定の成果を見せたものの、先進国と発展途上国間での不平等や開発目標の曖昧さが原因となり、思い通りの道筋を描くことが困難であると判断されました。その後MDGsを受け継ぐ形で、2015年にSDGsが策定されたのです。
SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」とは?
SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」は「包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市および人間居住を実現する」というテーマのもと10個のターゲットで構成されています。
SDGs11が策定された背景には「世界の都市人口の増加」によるインフラ整備の遅れや大気汚染が私たちの生活に影響を与えるのではないかという懸念がありました。
都市人口の増加は感染症のリスクや交通混雑を引き起こすだけでなく、地方の人口流出による産業の担い手不足を決定的なものにする可能性を秘めています。実際に図1「地域別都市化率の推移」を見ると2050年には世界の75%の人々が都市で生活すると予測されています。

出典:「ニッセイアセットマネジメント株式会社 マーケットレポート」
世界全体で進む都市人口の増加の対策として、今のうちから「住み続けられるまちづくりを」を意識することが重要です。
SDGs11のターゲット
SDGs11「住み続けられるまちづくりを」を達成するために国連は10個のターゲットを定めました。ターゲットは目標を達成するための具体的な指標で、SDGs11のターゲットには環境保全の強化や女性・子供・高齢者への配慮が記載されています。
SDGs11のターゲットは今後SDGs11への取り組みを考える上でのヒントになるので、確認しておくと役に立ちます。この記事ではSDGs11のターゲットを以下にまとめていますので、ぜひご覧ください。
ナンバー | 内容 |
11.1 | 2030年までに、すべての人々の、適切、安全かつ安価な住宅および基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する。 |
11.2 | 2030年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子ども、障害者、および高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、すべての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する。 |
11.3 | 2030年までに、包摂的かつ持続可能な都市化を促進し、すべての国々の参加型、包摂的かつ持続可能な人間居住計画・管理の能力を強化する。 |
11.4 | 世界の文化遺産および自然遺産の保全・開発制限取り組みを強化する。 |
11.5 | 2030年までに、貧困層および脆弱な立場にある人々の保護に重点を置き、水害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減し、国内総生産比で直接的経済損失を大幅に減らす。 |
11.6 | 2030年までに、大気質、自治体などによる廃棄物管理への特別な配慮などを通じて、都市部の一人当たり環境影響を軽減する。 |
11.7 | 2030年までに、女性・子ども、高齢者および障害者を含め、人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供する。 |
11.a | 各国・地球規模の開発計画の強化を通じて、経済、社会、環境面における都市部、都市周辺部、および農村部間の良好なつながりを支援する。 |
11.b | 2020年までに、包含、資源効率、気候変動の緩和と適応、災害に対するレジリエンスを目指す総合的政策および計画を導入・実施した都市および人間居住地の件数を大幅に増加させ、仙台防災枠組2015-2030に沿って、あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施を行う。 |
11.c | 財政および技術的支援などを通じて、後発開発途上国における現地の資材を用いた、持続可能かつレジリエントな建造物の整備を支援する。 |
SDGs11のキーワード「レジリエント」の意味
SDGs11のターゲットで頻繁に使われる「レジリエント」は日本語で「強靭」と訳されることが多い単語です。ターゲット11.cのレジリエントな建造物は強靭な建造物と訳せるわけですが、そのまま固くて強い建造物と解釈するのは少し誤りがあります。
SDGs11においてレジリエントとは「被害にあってもダメージを最小限にとどめ、早く復旧ができる」という解釈が正しく、自然災害を想定してどのように復旧まで持っていくかに焦点を置いた言葉になります。
SDGs11を取り巻く現状

SDGs11に取り組む企業数は年々増加していますが、SDGs11を達成するまでにはまだまだ時間がかかると予測されています。特に都市人口の増加は日本を含めた世界中で問題視され、「住み続けられるまちづくり」の弊害になっている状況です。
ここからは世界と日本のSDGs11を取り巻く現状について詳しいデータを用いて解説していきます。
SDGs11を取り巻く現状(世界)

SDGs11の目標である「住み続けられるまち」は人によって捉え方が異なるかもしれません。そこでSDGs11が示す住み続けられるまちの特徴を2点で表してみます。
- 自然災害にあったとき、被害を小さくして早く復旧できる街
- 子供・女性・高齢者・障碍者に優しい街
以上がSDGs11で求められている街なのですが、実際には問題が山積みの状態です。まずはSDGs11を取り巻く世界の現状を見ていきます。
スラム街の増加
都市人口の増加はアジアやアフリカを中心に進んでいますが、そこで問題になっているのが「スラム街」の存在です。所得の増加や交通手段の恩恵を理由に都市に移り住む人々が増える一方、都市で仕事の見つからない人はスラムを形成し、そこで生活をするようになります。
国連広報センターの発表によると、2014年時点でスラム人口は8億8000万人以上とされ、都市に暮らす4人に1人がスラムに暮らしている計算になります。スラム街の建築物は自然災害に耐える構造にはなっておらず、SDGs11の観点から見ても解決しなければならない事案です。
貧困や所得格差の問題を扱ったESGの記事がありますので、合わせてご覧ください
大気汚染の拡大
世界の都市の中には大気汚染によって人々の生活が危ぶまれる土地が存在します。大気汚染の中で特に問題なのが自動車の排気ガスに含まれるNOx(窒素酸化物)で、人体に多大な影響を及ぼす可能性があります。
2019年に大気汚染の実態を監視する民間機関「IQAir AirVisual」は、大気汚染が著しい世界の都市ランキングでインドの都市が上位30都市中21都市を占めたと発表しました。インドの首都ニューデリーではPM2.5の濃度が基準の9倍に達する数値で深刻な状態と判断されたほどです。
一方、中国や南アジアの国々では大気汚染の改善が見られるため、SDGs11への取り組みの中にも格差があることが推測できます。ちなみに2021年4月の時点では大阪(43位)が唯一日本でランクインしています。
自然災害の多発
SDGs11は自然災害に強い街づくりを念頭に置いていますが、世界では相変わらず自然災害が多発しています。日本でも2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震のようにいつ災害が起きてもおかしくない状況です。
イギリスのエコノミスト誌が世界144ヵ国を対象に毎年行っている図2「世界平和度指数(Global Peace Index)」によると、気候災害で最も危険な国はフィリピンで次に日本が続いています(2019年時点)

出典:「Global Peace Index 2019」
SDGs11を取り巻く現状(日本)

ここでSDGs11に関する日本の取り組みに目を向けてみましょう。2020年6月にSDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)が発表した「持続可能な開発報告書2020」によると、日本のSDGs達成度は世界17位につけています(図3)

出典:「英語4技能・探求学習推進協会」
さらに図4「日本の項目別達成度グラフ」を見ると、SDGs11への取り組み評価は5段階中の上から2番目「Challenges remain(課題が残る)」となっています。

出典:「サステナブル・ブランドジャパン」
ここからは日本が抱えるSDGs11を取り巻く現状について説明していきます。
地方創生の遅れ
日本がSDGs11のテーマ「包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市および人間居住を実現する」を達成するためには「地方創生の遅れ」を是正する必要があります。
地方創生とは、少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくことを目指すものです。
北陸財務局HP
東京を始めとする大都市への人口集中は地方の衰退を招き、住み続けられるまちづくりを掲げるSDGs11の動きと逆行しているため、地方創生による地方の活力回復が必要不可欠なのです。
SDGs11への貢献が叫ばれる中、2018年地方創生の一環として制定されたのが「SDGs未来都市」と呼ばれる構想です。「SDGs未来都市」は内閣府により以下のように定義されています。
SDGsの理念に沿った基本的・総合的取組を推進しようとする都市・地域の中から、特に、経済・社会・環境の三側面における新しい価値創出を通して持続可能な開発を実現するポテンシャルが高い都市・地域として選定されているものです。
内閣府HP
政府からSDGs未来都市に指定された93都市は、民間企業と連携を取ってSDGs11達成に向けた取り組みを日々行っています。SDGs未来都市に指定された93都市を確認したい方はこちら
SDGs未来都市について詳しく知りたい方はこちらのESG記事を合わせてご覧ください。
インフラ設備の老朽化
都市人口の増加で心配になるのが「インフラ設備の老朽化」です。記憶に新しい2019年の台風15号では千葉にある6000本以上の電柱が倒壊し、地域全体が停電になる被害が発生しました。
日本のインフラは高度経済成長期以降の1970年代に整備されたものが多く、2030年代に入ると図5「建設から50年以上たつインフラの割合」の通り、橋や水門・トンネルの50%以上が倒壊の危険があるレベルに達すると言われています

出典:「週刊現代 2019.10」
これから増加し続ける人口に対して、インフラの整備が追いつくかどうかは未だ不透明な部分です。
SDGs11達成のための企業の取り組み事例

SDGs11への取り組み方はそれぞれですが、最近は自治体と企業が協力してまちづくりをする事例が良く見られます。この章では企業がどのようにSDGs11へ取り組んでいくべきかを事例を通じて見ていきましょう。
積水化学グループ
積水化学グループは埼玉県朝霞市にサッカーコート10面分のまちを作り、「持続可能なまちづくり」とは何かを追求し続けています。積水化学グループがまちづくりで注目しているのが以下の3点です。
- 太陽光パネルを設置し、エネルギーの自給自足を実施
- 子供から高齢者までが触れ合える施設の設置
- 地下電線やポリエチレン水道管を採用し、インフラ整備を強化
参考:「EduTownSDGs いつまでも安心して住み続けられるまちをつくる」
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車は新しいモビリティ(移動手段)として「e-Palette」の開発を手掛けています。e-Paletteの開発目的は排出ガスを原因とした大気汚染の軽減や交通事故の防止で、人間が住みやすい街づくりの実現を目指しています。
e-Paletteで期待される未来
- 車いすやお年寄りのようにクルマを必要としている人のもとに自動で駆けつける
- クルマの電動化によって二酸化炭素の排出量を軽減できる
- 路線バスやタクシーに変わる交通手段になる
参考:「EduTownSDGs だれもが安心して移動できるまちを」
ベネッセコーポレーション
- 中高生を対象としたSDGs留学を推進。海外の持続可能な街でまちづくりを学ぶ
- 小学生を対象としたSDGs11に取り組む力を身に付けるコンクールを開催
- 地方の小さな街に英語教室を開講。地域活性とともに子供の可能性を引き出す
自然と共存する形のまちづくりへ

今回はSDGs11「住み続けられるまちづくりを」について概要や現状を解説しました。SDGs11を達成するためには「人的要因」と「自然要因」の両方に対処して「自然と共存する形のまちづくり」を目指さなければなりません。
2021年現在から2030年にかけてはインフラの老朽化も重なる時期なので、街全体を大きく変革するチャンスと言えます。SDGs11への取り組みは他のSDGs目標と間接的につながっているので、SDGs達成の大きな足掛かりとなるでしょう。