SDGs目標7は、エネルギー関係。安全・快適なエネルギー利用と環境との調和の両立を目指して、再生可能エネルギーの普及などを掲げています。SDGsがゴールとする2030年に向けた進捗状況はどうなっているのか? 世界の現状や企業の取り組みを解説します。
SDGsとは?
SDGs(エスディージーズ:Sustainable Development Goals)とは、2030年までに達成すべき世界共通の目標。日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。SDGsは2015年9月の国連サミットにおいて、参加193ヵ国の満場一致で採択されました。
SDGsは17の目標(ゴール)と、その内容を具体的に記した169のターゲットからなっています。そしてSDGsすべての目標・ターゲットを貫く理念として「誰一人取り残さない:No one will be left behind」が掲げられています。
SDGsにはさまざまな特徴がありますが、その中からとくに大きなポイントとなる2つを紹介しましょう。
SDGsの特徴1:「経済、社会、環境」の調和
SDGsは、人類と地球が抱えるあらゆる問題の解決を目指しています。そのため貧困や飢餓、医療・福祉、ジェンダーといった社会問題から、地球温暖化や生物多様性といった環境問題、さらにはビジネスやガバナンスまで、多岐にわたる分野をカバーしています。
これまでも人口や環境など、個別の分野に関する国際的な取り組みや条約は数多くありました。SDGsはこれらすべてを網羅し、どれひとつもトレード・オフ(両立しない関係)にすることなく、「経済、社会、環境」の3つが調和した持続可能な未来を目指しています。
SDGsの特徴2:多様なステークホルダーによるパートナーシップ
SDGsのもうひとつの特徴が、パートナーシップの重視。政府によるトップダウンでなく、自治体、企業、NPO、協同組合など、多様なステークホルダーが対等な立場で協力する必要性を強調しています。皆が知恵を出し合って力を結集させなければ、SDGsが目指す持続可能な未来はやって来ないからです。
SDGs目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」とは?
SDGs目標7は「エネルギーをみんなにそしてクリーンに:すべての人々が、手頃な価格で信頼性の高い持続可能で現代的なエネルギーを利用できるようにする」。
目標7を構成する5つのターゲット
SDGs目標7は、5つのターゲットで構成されています。ターゲットとは、目標達成のためにより具体的に定められた指標のことです。
7.1 | 2030年までに、手頃な価格で信頼性の高い現代的なエネルギーサービスをすべての人々が利用できるようにする。 |
7.2 | 2030年までに、世界のエネルギーミックス(電源構成)における再生可能エネルギーの割合を大幅に増やす。 |
7.3 | 2030年までに、世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増させる。 |
7.a | 2030年までに、再生可能エネルギー、エネルギー効率、先進的でより環境負荷の低い化石燃料技術など、クリーンなエネルギーの研究や技術の利用を進めるための国際協力を強化し、エネルギー関連インフラとクリーンエネルギー技術への投資を促進する。 |
7.b | 2030年までに、各支援プログラムに沿って、開発途上国、とくに後発開発途上国や小島嶼開発途上国、内陸開発途上国において、すべての人々に現代的で持続可能なエネルギーサービスを提供するためのインフラを拡大し、技術を向上させる。 |
上記のうち数字で表記された7.1~7.3は目標の内容を、アルファベット表記の7.a、7.bは達成するための手段を意味しています。これは目標7に限らず、SDGs共通の表記ルールになっています。
目標7のターゲットの関係性
SDGs目標7を構成する5つのターゲットは、それぞれが補完し合う関係になっています。
まず7.1の「現代的なエネルギーサービス」とは、スイッチひとつで電気やガスを安全・快適に、適切な価格で利用できることです。
世界ではいまだに8億人以上が電気を利用できず、約30億人が薪、石炭、木炭、動物の排泄物で暖房や調理を行なっています。その屋内空気汚染によって、年間400万人以上が亡くなったという報告もあります。
現代的なエネルギーへのアクセスは、SDGsが尊重する人権や健康の基本です。しかし化石燃料(石油、石炭、天然ガス)ですべての人の需要を賄うことは、とてもできません。地球上の温室効果ガス排出量の約60%は、エネルギー消費によるもの。もしこのまま化石燃料に頼り続けたら地球温暖化が加速し、私たちが住めない環境になってしまうでしょう。
そこで解決策として示されているのが、7.2の再生可能エネルギーの活用と、7.3のエネルギー効率の改善(省エネの推進)。これらによって増える需要を満たしながら環境負荷を低減し、持続可能な未来につなげるシナリオになっています。
さらに7.aでは国際的なパートナーシップによる技術開発や投資が、7.bでは開発途上国の支援が掲げられています。
SDGs目標7を取り巻く世界の現状
SDGs目標7のターゲットで、もっとも進んでいるのが再生可能エネルギーの普及拡大(以下:再エネシフト)。発電設備容量は2010年から2016年の間に2倍以上に伸び、世界全体のエネルギーミックスに占める割合は26.4%となっています(REN21「自然エネルギー世界白書2020」による)。
発電設備容量で見ると、各国における再エネの導入状況は以下の通りです。
ここからはもっとも導入量が多い中国とそれ以外の国・地域に分けて、再エネシフトの現状を見ていきましょう。
中国の再エネシフト
導入量がもっとも多い中国ですが、国内のエネルギーミックスにおける割合で見ると25%程度。現状は60%以上を石炭火力が占めています。しかし中国政府は再エネシフトを強力に進めており、下のグラフの通り2020年代なかばに石炭火力を上回り、2050年には完全な主力になると予想されています。
世界最大のエネルギー消費国であり、最大の温室効果ガス排出国でもある中国の再エネシフトは、SDGs目標7達成への追い風となるでしょう。
その他の国・地域はどうなっているでしょうか?
各国の再エネシフト
すでにアイスランドは、エネルギーミックスの100%再エネシフトを達成。その内訳は約70%が雨水や氷河の溶解水を活用した水力発電、約30%が火山を活用した地熱発電です。
ニュージーランドは80%以上を水力、地熱、風力発電などが占めており、アーダーン首相は2035年までの100%再エネシフトを宣言しています。
EU(ヨーロッパ連合)では2020年に再エネの発電量が火力を上回り、アメリカのバイデン大統領も2035年までに発電部門の温室効果ガス排出ゼロを表明しました。SDGs目標7の達成にむけて、再エネシフトは着実に進んでいます。
なおエネルギーミックスの詳細については、こちらの記事で解説しています。
SDGs目標7に関する日本の大企業の取り組み事例
日本においても再エネシフトが進んでおり、「RE100」に加盟する日本企業は50社となりました(2021年2月現在)。
「RE100」はSDGs採択に先立つ2014年にイギリスで発足した国際的イニシアチブで、事業に使用する電気の100%再エネシフトを目標とする企業が加盟。アップル、イケア、ネスレなどのグローバル企業も名を連ねています。
ここからは「RE100」に加盟している日本企業の取り組み事例を紹介しましょう。
製造業の事例:リコー
- 2017年4月、日本企業ではじめて「RE100」に加盟。
- 2021年3月、2030年度の再エネ比率目標を、当初の30%から50%に引き上げ。
- 海外の主要拠点は2030年度までに100%再エネシフトを目指す。
- 国内では独自の「再エネ電力総合評価制度」を導入し、再エネシフトを促進。
建設業の事例:積水ハウス
- 2019年11月、新サービス「積水ハウスオーナーでんき」を開始。
- 住宅オーナーから太陽光発電の余剰分を買い取り、自社グループの事業に活用。
- サービスの申し込み多数により、100%再エネシフトを当初の2040年から2030年に前倒しで達成する見込み。
小売業の事例:アスクル
- 本社と物流センターは2025年までに、グループ全体は2030年までに100%再エネシフトを目指す。
- サプライチェーン全体の温室効果ガス削減のため、2030年までに配送用車輌の100%EV(電気自動車)化にも取り組む。
金融業の事例:城南信用金庫
- 2011年3月の東日本大震災を受けて「原発に頼らない安心できる社会へ」を経営方針に。
- 2019年7月、本支店で使用する電気の100%再エネシフトを達成。
- 内訳は98%がバイオマス発電、2%が「Jクレジット」によるCO2オフセット。
運輸業の事例:東急
- 2019年3月、世田谷線(営業距離5.0km)の運行に使用する電気を100%再エネシフト。
- 東北電力が水力と地熱発電で作った電気を、グループ会社の東急パワーサプライを通じて購入。
- 鉄道事業、不動産その他の事業も含め、2050年までにグループ全体の100%再エネシフトを目指す。
- 世田谷線を含む数路線で「SDGsトレイン」を運行し、SDGsの理念やグループの取り組みをPR。
SDGs目標7に関する日本の中小企業の取り組み事例
SDGsに取り組んでいるのは大企業だけではありません。中小企業においても関心は高まっており、再エネシフトを積極的に進める事例も見られます。
事例1:大川印刷
大川印刷(神奈川県横浜市)は、従業員数約40名。1881年創業で、医薬品の添付文書や地元・横浜の名物「崎陽軒のシウマイ」のパッケージなど、さまざまな印刷物を手がけています。
大川印刷は2019年、自社工場の電気を100%再エネシフト。約20%を屋上に設置した太陽光発電で賄い、80%を青森県横浜町の風力発電で作った電気を購入しています。
また「Social Printing Company(社会的印刷会社)」という理念を掲げ、SDGsとリンクした企業活動に取り組んでいます。
印刷には従来比約80%消費電力を削減できるLED-UV印刷機を導入。インキは石油系溶剤ゼロの植物性インキを、紙は違法伐採した木を使っていないFSC森林認証紙を採用するなど、独自のエコライン印刷を確立しました。
こうした企業姿勢が評価され、売上も伸びているといいます。SDGsが掲げる「経済、社会、環境」の調和を実現させた好事例といえるでしょう。
事例2:みんな電力
みんな電力(東京都世田谷区)は、2011年設立の電力小売事業者。全国100ヵ所以上の再エネ発電所と契約し、そこで作られた電気を消費者に届けています。先に紹介した大川印刷の青森県の風力発電も、販売はみんな電力です。
みんな電力は2018年、東京放送ホールディングス(TBS)や、丸井グループと資本提携しました。
これを機に、TBSラジオは基幹送信所である戸田送信所(埼玉県)の電気を100%再エネシフト。各番組やイベントを通して、地球環境やエネルギー問題についての情報発信に力を入れています。
丸井グループは会員向けクレジットカード「みんな電力エポスカード」を発行。入会時に1000円が再エネ発電所に寄付され、みんな電力への申し込みや電気代支払いも行えます。
このような電力×放送、電力×小売といった異業種間のパートナーシップも、SDGs目標7の達成に欠かせない取り組みです。SDGsという共通の目標に向けて、これからも多彩な企業間パートナーシップが生まれるでしょう。
丸井グループの取り組みについては、こちらの記事でさらに詳しく解説しています。
SDGs目標7の達成に向けて
私たちの生活や経済活動は、エネルギーなしには成り立ちません。したがってSDGs目標7は、他のSDGsの目標を支える土台ともいえます。
たとえば「目標13.気候変動に具体的な対策を」のカギは再エネシフトが握っており、現代的なエネルギーへのアクセスは「1.貧困をなくそう」や「10.人や国の不平等をなくそう」につながります。
また、SDGs目標7は新しい技術の研究や開発も重視しています。ひとつの例が、究極のクリーンエネルギーと呼ばれる水素。日本政府は2030年に最大300万トン、2050年に2000万トン(現在の約10倍)の導入目標を掲げていますが、本格的な実用化にはもうしばらく時間がかかりそうです。
日本企業はエネルギー・環境分野のトップランナーとして、さまざまな技術やノウハウをはぐくんできました。これを引き続き発展させ、投資を加速させ、SDGs目標7の達成に貢献することが世界から期待されています。
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