SDGsの17ある目標の6番目は「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」です。2030年までに達成しなければなりませんが、日本におけるSDG6は2021年春の段階で未達成。世界と日本の進捗、日本企業の取り組みはどのような状況なのか、解説します。
SDGsとは?

目標達成となる2030年まで10年を切った今、SDGs(エスディージーズ)という言葉をテレビや雑誌でも頻繁に目にするようになりました。SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と呼ばれます。
SDGsの目標(Goals)は全部で17あり、それぞれの目標の下にはさらに具体的な目標や手段を規定した169のターゲットや232の指標があります。将来も地球やさまざまな生命、人間社会が存続できるよう、健康や福祉、環境問題、人権問題など、多様な分野で目標が定められました。
SDGsは2015年9月の国連サミットで採択され、国連加盟国である193の国が2030年までに達成することになっています。
それぞれの目標に関する各国の進捗は、国連の公式サイト「Sustainable Development Report」で確認可能です。
SDGsの目標6「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」とは?

SDGsの目標6は、安全な水とトイレを世界中で利用できるようにしようという目標です。目標6には飲料水や下水処理施設、衛生施設、水の利用効率、水に関連する生態系の保護・回復などに関する8つのターゲットが設定されています。
SDGs目標6と8つのターゲット
SDGsの目標6は「安全な水とトイレを世界中に(Clean Water and Sanitation)」。「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する(Ensure availability and sustainable management of water and sanitation for all)」という目標です。目標6に設定されているターゲットは次の8個です。
6.1 | 2030年までに、全ての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ衡平なアクセスを達成する。 |
6.2 | 2030年までに、全ての人々の、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセスを達成し、野外での排泄をなくす。女性及び女児、並びに脆弱な立場にある人々のニーズに特に注意を払う。 |
6.3 | 2030年までに、汚染の減少、投棄の廃絶と有害な化学物・物質の放出の最小化、未処理の排水の割合半減及び再生利用と安全な再利用の世界的規模で大幅に増加させることにより、水質を改善する。 |
6.4 | 2030年までに、全セクターにおいて水利用の効率を大幅に改善し、淡水の持続可能な採取及び供給を確保し水不足に対処するとともに、水不足に悩む人々の数を大幅に減少させる。 |
6.5 | 2030年までに、国境を越えた適切な協力を含む、あらゆるレベルでの統合水資源管理を実施する。 |
6.6 | 2020年までに、山地、森林、湿地、河川、帯水層、湖沼を含む水に関連する生態系の保護・回復を行う。 |
6.a | 2030年までに、集水、海水淡水化、水の効率的利用、排水処理、リサイクル・再利用技術を含む開発途上国における水と衛生分野での活動と計画を対象とした国際協力と能力構築支援を拡大する。 |
6.b | 水と衛生に関わる分野の管理向上における地域コミュニティの参加を支援・強化する。 |
6.1〜6.10はSDGs目標6の達成に必要な具体的な目標を示しており、6.a〜6.bは目標を達成するための具体的な手段を示しています。
SDGs 6を取り巻く現状

SDGs目標6の世界の国々における進捗は、国連のSDGs進捗報告サイト「Sustainable Development Report」で確認できます。特に「Interactive Map」が見やすくくて便利。そこで、マップの画像とともにSDG目標6を取り巻く現状を見ていきましょう。
SDGs 6を取り巻く現状【世界編】
SDGs目標6に関する2020年までの進捗は、下のマップのとおりです。

達成した国・地域は、フィンランド、チェコ、クロアチアの3か国のみ。アフリカ・アジアの大部分の地域が大きな課題を抱えたままで、日本・オーストラリア・米国・カナダ・ヨーロッパの一部などは達成までもう一歩というところです。
2020年末までの進捗概要
2020年はCOVID-19の流行に大きく悩まされました。感染症予防には石鹸での手洗いや衛生管理が重要。しかし、世界では何十億人もの人々が安全な水や衛生環境に問題を抱えています。また、水不足・水質汚染・水に関連する生態系の悪化に対する国際協力も十分に進んでいません。
ターゲット6.1の飲料水のアクセスについては、世界で安全な飲料水を利用している人口が指標。2000年の61%から2017年の71%で約10ポイントの改善が見られました。ただ、それでもまだ22億人が安全な飲料水を利用できていません。
ターゲット6.2の安全なトイレを利用できる人口についても、2000年の28%から2017年の45%に増加してはいますが、まだ世界で42億人の人が安全に管理されたトイレを持っていないと指摘されています。このうち20億人が基本的なトイレすらなく、6億人は野外排泄を行っている状況です。
COVID-19への対策として重要な石鹸と水を使った手洗いが自宅でできる人は、2017年時点で世界の60%(推定30億人)。下のグラフで示されているように、特にアフリカのサハラ以南では人口の75%(7億6700万人)が基本的な手洗いの設備を持たないと言われています。

こうした水に関する問題を解決するには、各国で淡水資源をきちんと利用できなければなりません。しかし、自国内に淡水資源があることは多くなく、世界で使われる水の60%以上が国境を越えた流域からきていると言われます。そのため、ターゲット6.5にある国際的な協力が重要になるのです。
下のグラフは、そうした国際協力を可能とする統合水資源管理レベルを地域別に表したもの。色が濃くなるほど、管理レベルが高いことを意味します。グラフによれば、特にラテンアメリカ・カリブ地域、中央・南アジアなどに課題があることが分かります。

国境を越えた水域を他の国と共有している67か国のデータを見ると、2017年から2018年の間で運用が取り決められているケースは平均59%。他の国と共有している淡水資源の全てについて取り決めがあると答えたのは17か国にとどまりました。
このままでは、政治的対立や紛争などが起きた際に人々が安全な水にアクセスできなくなるかもしれません。水不足になれば環境だけでなく経済への打撃も大きくなるでしょう。
国連による2020年のレポートは、現在の状況では2030年までにSDGs目標6を達成できないと訴えています。
水不足の原因と「水ストレス」

ここで、水不足がもたらす深刻な影響について、もう少し詳しく見ていきましょう。
水不足の原因の1つは、世界中どこでも均一に川や湖があるわけではないという点です。雨が多い地域も干ばつに苦しんでいる地域もあります。
もう1つの原因は、人口増加、農業の集約化、都市化、工業生産などです。これらが増えすぎると、淡水資源が汚染される、水が過剰に利用される、水に関する生態系が悪化するなどの影響が生じるためです。
利用可能な淡水よりも多くの淡水を採取することは「水ストレス」と呼ばれ、水問題に関する1つの指標となっています。
利用できる淡水が少ない地域は社会の発展が難しく、気候変動や水不足に対する十分な対応も困難である傾向が見られます。実際、先進国は土地の3.5%に川や湖などの淡水があるのに対して、開発途上国では1.4%、後発開発途上国や小島嶼開発途上国では1.2〜1%しかありません。
利用できる淡水がもともと少ない地域では、当然ながら水ストレスが高くなってしまいます。北アフリカでは約103%、中央アジアでは約88%、南アジアでは約71%。いずれも深刻な状況で、持続可能な開発が困難なレベルです。
水ストレスが高まりすぎると、水に関する生態系や環境の破壊につながり、SDGsが目指す未来とは逆の結果を招く可能性すらあるでしょう。
水不足への対策

水ストレスを緩和するには、水の利用効率を高めることが重要です。特に水を多く使用する農業では、より少ない水でより多く生産する技術の開発が必要です。
具体的には、持続可能な灌漑システムを修復し新しいテクノロジーを導入する、干ばつに強い作物をつくる、適切な水管理を行うといった方法があります。
農村部のうち貧しい地域については、慎重に灌漑を拡大させていくことが1つの解決策になります。灌漑システムは必ずしも大規模なものである必要はありません。
FAO(国際連合食糧農業機関)によれば、サハラ以南のアフリカのように、水資源の開発があまりされていないケースでは、農家主導による小規模な灌漑システムで何百万という農村の人々が利益や恩恵を受けられる可能性があるとのことです。
ただ、ここで大きな問題となるのが資金や管理の問題です。水の価値と価格を適正に評価するシステムや水の保有権・利権が確立されること、受益者と管理機関がそうした水市場に積極的に参画することが求められています。
SDGs 6を取り巻く現状【日本編】

日本ではSDGs達成に向けて政府の全閣僚が参加する「SDGs推進本部」と有識者による「SDGs推進円卓会議」を設置しています。これらの組織はSDGs実施指針の策定や改定、「SDGsアクションプラン」などを作成して日本における取り組みを推進するのが役割。「ジャパンSDGsアワード表彰」も実施し、SDGsに取り組んだ好事例を広く紹介しています。
SDGs達成に向けた具体的な取り組みは、外務省による公式ポータルサイト「JAPAN SDGs Action Platform」で確認可能です。
日本のSDGs全体の達成度は17位で目標6は達成間近
まずは国連の「Sustainable Development Report」から、日本のSDGsに対する取り組みの進捗を見ていきましょう。次の表は、日本のSDGs達成度の世界ランクと項目別の達成度を色で示したものです。緑に近い色ほど達成度が高い項目となっています。

日本の取り組み全体のランキングは、国連加盟国193か国の中で第17位、100点満点中79.2点というスコアになっています。日本はSDGsの目標のうち、目標4、9、16の3つを達成済みです。
SDGsの目標6に関しては、達成まであと一歩。7つの指標の中で、輸入における水の割合、安全に管理された給水サービスの利用人口、安全に管理された手洗い場の利用人口に改善が見られました。
下のグラフは、改善が見られた3項目の2001年以降の状況です。特に給水サービスや手洗い場・トイレについてはほぼ満点。一方、グラフにはありませんが唯一進捗が見られず課題が残っている項目は、淡水の採取量となっています。

日本におけるSDGsの目標6は達成間近ですので、今後は淡水採取量の改善に取り組むとともに、他国との国際的な協力が重視されるでしょう。
なお、SDGs目標6は淡水に関する目標ですが、海水については目標14で定められています。目標14の詳細は以下の記事で解説しています。
SDGsの目標6に関する日本での取り組み
日本政府はSDGsへの取り組みとして毎年「SDGsアクションプラン」を作成・公表しています。2021年以降の具体的な取り組み内容は「SDGsアクションプラン2021」で確認可能です。
SDGsアクションプラン2021からSDGs目標6に関する項目では、たとえば以下のような取り組みが見られます。
外務省 | ユニセフを通じて人道・開発支援を行う。 国連プロジェクト・サービス機関を通じて、インフラ整備等の緊急人道・復興支援を実施する。 赤十字国際委員会を通じて医療・水・食料等の救援活動、収容所の訪問、国際人道法の普及活動等を行う。 国連世界食糧計画を通じて、緊急食糧支援、中期救済・復興支援、開発事業、人道支援物資輸送を目的とした事業等を行う。 |
国土交通省 | 「水循環基本計画」に基づき、流域において関係する行政、事業者、団体等が連携して活動する「流域マネジメント」の取り組みを全国各地で推進する。 2022年4月の第4回アジア・太平洋サミットにおける取り組み発信に向け、検討を進める。 「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」を通じて、グリーンインフラの社会的な普及、技術に関する調査・研究、資金調達手法の検討等を進める。 地方公共団体や民間事業者への支援を充実させ、グリーンインフラの社会実装を加速する。 既存施設の徹底活用やハード・ソフト施策の連携により、災害や渇水に対応したリスク管理型の水の安定供給を図る。 「インフラシステム海外展開戦略 2025」等を踏まえて下水道分野の国際展開を促進する。 |
農林水産省 | 農林水産分野における気候変動影響評価及び適応技術を開発する。 農業分野における温室効果ガス削減等の気候変動緩和技術の開発等を行う。 都道府県の協力を得て「地球温暖化影響調査レポート」を取りまとめ、公表し、ブロック別気候変動適応策推進協議会の開催等を通じて情報共有を行う。 農業・食品産業技術総合研究機構において、スマート農業やスマート育種などのイノベーション創出に向けた研究開発を推進する。 |
環境省 | 湖辺の環境修復のために、河川からの良好な土砂の供給による湖辺環境への影響を把握する。 水環境の悪化が顕著なアジア地域において、二国間協力により規制・制度などのソフトインフラ構築を支援するとともに、日本発の水処理技術が現地で使えるかを調査し、現地実証試験を行う。 汚水処理未普及人口の早期解消、単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換を推進し、低炭素化に貢献する。 |
日本国内では流域マネジメント、環境負荷が少なく生産効率の高い農業に向けた技術開発が中心。国際協力では、水環境が悪い地域に対する救援活動、資金提供、技術支援などが行われる予定です。
国交省が推進する「グリーンインフラ」とは?
ところで、国土交通省が推進する「グリーンインフラ」とは何でしょうか。
グリーンインフラとは、米国初の社会資本整備手法の1つで、自然環境がもつさまざまな機能をインフラ整備に活用しようという考え方です。目的や方法は多様ですが、水質浄化や生態系サービスの維持・形成、自然環境や半自然環境によるネットワーク形成といったことを目的に行われる例があります。
具体的な方法は、高層ビルの屋上緑化で雨水管理すること、道路沿いの緑地の縁石を一部開けて雨水が緑地内に流れるようにすること、空き地を活用して生態系を保全することなどです。
国外での取り組みは欧米が中心。人工物と自然は対立するもののように語られる場面が多くありますが、グリーンインフラの取り組みでは必ずしもそのような二項対立では考えません。下図のように人工構造物とグリーンインフラは連続しており、場所や目的に応じて使い分けることが大切です。

日本国内の場合は治水対策、地域振興、環境再生・保全を目的とする事例が多く、地方公共団体による森の再生プロジェクトや無農薬・減農薬農法の確立、官民が連携したグリーンカーテン事業といった取り組みが見られます。
国土交通省ではグリーンインフラの取り組みを進めるため公式プラットフォームを開設するとともに、2020年から「グリーンインフラ大賞」も設けました。
現在は地方自治体や非営利団体による事例が多く見られますが、企業によるグリーンインフラの取り組みも重要。ESG投資の観点でも、大きな評価ポイントとなるでしょう。ESG投資に関しては以下の記事で詳しく解説しています。
SDGs 6達成のための企業の取り組み事例

SDGs目標6の達成に向け、日本企業もさまざまな取り組みを行っています。
ここからは、外務省「JAPAN SDGs Action Platform」の「取組事例」に紹介されているもののうち、目標6に関する企業の取り組み事例を2つご紹介しましょう。
企業事例1:伊藤園グループ
日本茶を主力商品とする伊藤園グループは、地球環境を守り次世代に継承できる持続可能性の確保にも力を入れています。
SDGs目標6に関する取り組みでは環境マネジメント、生物多様性の保全、水の管理といった取り組みが見られます。特に、水は伊藤園グループにとって非常に重要な資源。そのため、水資源の保全・水の効率的な使用・水質汚濁の防止に取り組んできました。
環境マネジメントでは代表取締役社長を委員長とするCSR/ESG推進委員会を設置。環境に関する課題の実態を把握するとともに目標と対策を審議しています。CSR/ESG推進委員会は以下のような体制です。

同グループでは社内での水使用量の削減を進め、製造委託先の水使用量や排水状況を把握。薬剤を使わず温水だけで容器内を殺菌できる仕組みを導入することで、薬剤を洗い流すための余分な水の使用を削減することに成功しました。
また、名護工場では冷却や洗浄に使用した水を適切な用途で再利用し、節水に取り組んでいます。
水資源の確保では、全国の飲料製造委託先に製造を委託する「ファブレス方式」を採用(沖縄県以外)。もし災害や渇水・断水の影響で一部地域での製造が困難になっても、柔軟に対応できる仕組みを整えました。
企業事例2:テラオグループ
設備工事・電気工事を中心に、地域に根ざした住みよい環境の提供やアパレル、福祉分野でも事業を展開するテラオグループは、SDGs目標6への取り組みとして積極的な海外協力を行っています。その事業として新聞で大きく取り上げられたのが「National Pride Project」です。
National Pride Projectは、世界中の人々が安全な飲み水とトイレを利用できるようにするため、日本の技術と自立支援の仕組みで現地の人々を主役にビジネスの手法で解決を図る取り組み。2021年4月現在進められているのは、カンボジアとブータンでのプロジェクトです。
ブータンでは排水の適正処理が大きな課題。日本の浄化槽技術を行政の大型排水処理場や一般住宅に広く普及させることを目指しています。設置位置の把握、施工技術の担保、設置後のメンテナンスを一貫して管理する浄化槽管理組合も立ち上げ、ノウハウの提供および技術支援などを行っています。
一方、カンボジアでは水不足に苦しむという「水問題」は現実的にないものの、先進国への依存度が高いことが問題であると分かりました。そこで、まずは自立支援として現地に食用魚の養殖事業を立ち上げ、その収益を使って下の画像のような上下水のインフラ整備を進めています。

この方式は現地で「テラオ式」と呼ばれ、カンボジア政府からも協力の申し出を受けているとのこと。現地の子どもたちには水と衛生に関わる授業も実施しています。
社内の水利用のモニタリングや海外協力で目標6に貢献

SDGs目標6「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」は、私たちの身近なところでは達成されているように感じます。しかし、水の利用については日本国内でも課題が残っており、より効率的な利用・再利用が求められています。
水を多く使う事業を手がける企業であれば、自社の水利用をモニタリングする機器の導入や、適切な使い方での水を再利用、排水の適切な処理といった方法で貢献可能です。
自社の事業であまり多くの水を使っていない企業なら、安全な上下水道やトイレを維持しつつ、他の地域や国における水問題解決を支援することが考えられるでしょう。これには、森林や水資源の再生・保全プロジェクト、治水プロジェクトに参加するなどの方法があります。
日本でこれからも安心して水やトイレを使えるよう、また、世界の人々が日本人と同じように安全な水やトイレにアクセスできるよう、水の利用や衛生環境についてあらためて考えてみましょう。