全世界の共通目標として2015年に国連で制定されたSDGs。
日本でもSDGsの概念はますます浸透してきており、街中や雑誌、webでもよく目にするようになりました。
SDGsは、国や立場を問わず、全員が達成すべきもの。
達成に向けた取り組みは、個人はもちろん、近年ESGの推進にも注力している企業にとっても大きなテーマになっています。
今回は、SDGsの17の目標のうち、4番に位置付けられる「質の高い教育をみんなに」に注目しながら、その概念と企業の取り組み事例をご紹介します。
SDGsとは?

SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の頭文字を取ったもので、日本では「持続可能な開発目標」と訳されています。
2030年までに達成すべき世界共通の目標として、17の目標と169のターゲット、232の指標からを掲げ、2015年9月に国連で採択されました。
SDGsの特徴は、先進国も発展途上国も“誰一人取り残さない”という理念を掲げていることです。
と言うのも、実は2015年にSDGsが制定される前から、持続可能な社会の実現をテーマにした議論は長らくされていました。しかし、その内容は貧困や飢餓など、発展途上国の課題に対してスポットが当てられることが多かったのです。
その点SDGsは、発展途上国だけでなく、先進国も含めた全ての国の社会課題を取り上げ、全世界の共通目標としています。
SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」とは?

では、今回のテーマである目標4「質の高い教育をみんなに」について詳しく見ていきましょう。
目標4「質の高い教育をみんなに」の概念
日本では当たり前のように誰もが受けられる義務教育。
でも、世界的に見れば、それは決して当たり前のことではありません。
世界では、教育を受けたくても受けれない子どもたちや、大人になっても文字の読み書きができず、知的な仕事に就けない大人たちがいます。
こうした背景を受け、SDGsの目標4においては、2030年までに全ての子どもたちが平等に質の高い教育や高等教育を受ける機会を作ること、そして子どもたちだけでなく、人間らしい仕事に就くための必要な知識や技能を備えた若者や成人の割合を増加させることを目指しています。
目標4「質の高い教育をみんなに」のターゲット
SDGsの目標4は10のターゲットから構成されています。
ここで言う「ターゲット」とは、SDGsの目標を達成するために定められている数値なども含めた具体的な指標のことです。
4.1 | 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修了できるようにする。 |
4.2 | 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、質の高い乳幼児の発達支援、ケア及び就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする。 |
4.3 | 2030年までに、すべての人々が男女の区別なく、手頃な価格で質の高い技術教育、職業教育及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする。 |
4.4 | 2030年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。 |
4.5 | 2030年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする。 |
4.6 | 2030年までに、すべての若者及び大多数(男女ともに)の成人が、読み書き能力及び基本的計算能力を身に付けられるようにする。 |
4.7 | 2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。 |
4.a | 子ども、障害及びジェンダーに配慮した教育施設を構築・改良し、すべての人々に安全で非暴力的、包摂的、効果的な学習環境を提供できるようにする。 |
4.b | 2020年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国、ならびにアフリカ諸国を対象とした、職業訓練、情報通信技術(ICT)、技術・工学・科学プログラムなど、先進国及びその他の開発途上国における高等教育の奨学金の件数を全世界で大幅に増加させる。 |
4.c | 2030年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国における教員養成のための国際協力などを通じて、質の高い教員の数を大幅に増加させる。 |
主に教育の機会創出について言及されていますが、SDGs4のターゲットは発展途上国だけではありません。
比較的教育制度が整っている先進国においても、奨学金の件数や教員の数など、より質の高い教育を平等に受けられる環境を構築することを目指す内容になっています。
SDGs4を取り巻く現状
SDGs4に関する課題とそれに対する対策について、日本と海外の現状をそれぞれ見ていきましょう。
両者を比較してみると、日本のような先進国と、発展途上国では課題の特性が異なっていることがお分かりいただけるはずです。
日本の課題

一見、誰もが平等に教育を受けられるように見える日本ですが、課題は多くあります。
主な課題として、以下の3つの観点でご紹介します。
・求められる人材育成像が変化してきている
・質の高い教員の育成
・いじめや不登校等への対応
課題①:求められる人材育成像が変化してきている
従来日本の学校では、基礎的・基本的な知識や技能の習得を中心に教育が行われてきました。
しかし、世の中のグローバル化や情報通信技術の進展に伴い、ただ知識を備えているだけでは変化に対応できない時代になってきています。
そのため、学校教育においても、幅広い知識と柔軟な思考力を通じて、付加価値やイノベーションを生み出す人材や、グローバルな視野を持って多様性を尊重できる人材の育成が求められています。
従来の枠に囚われない教育プログラムの見直しや、表面的な知識習得に留まらない質の高い学びの機会が求められているのです。
課題②:質の高い教員の育成
課題①で触れたように、変化に対応した質の高い授業を展開するには、教員の育成が欠かせません。
教員の実践的な指導力などを高めるための仕組みを構築するほか、教員自身が学び続ける姿勢を持ち続けることも非常に大切です。
課題③:いじめや不登校等への対応
文部科学省の調査によると、平成30年度の国立、公立、私立の小・中・高・特別支援学校におけるいじめの認知件数は、約54万4千件、小・中・高等学校における暴力行為の発生件数が約7万3千件、小・中学校の不登校児童生徒数が約16万5千人という結果が出ています。
いじめや不登校は、適切な教育の機会を奪うことにつながる大きな課題です。
誰もが安心して学校に通い、教育を受けられる環境が求められています。
課題に対する対策
上記の課題に対して、様々な策が講じられています。以下ではその具体的な施策を見ていきましょう。
対策①:ICT環境の構築・必修科目の見直し
世の中の動きに合わせて、教育現場においてもデジタル化を進めています。
2017年3月に公布された「新学習指導要領」では、以下の内容が言及されています。
要するに、パソコンやタブレットを学校で導入し、授業で活用することが求められているのです。
また、こうしたICT環境を生かした必修科目も組まれており、例えば、2020年から小学校ではプログラミングの教育が必修になっています。
プログラミング教育の目的は、パソコンを使うスキルを身につけるだけではありません。
プログラミング的な論理的な思考力を養い、より複雑化・高度化した世の中を生き抜くスキルを身につける点にあります。
対策②:学教育委員会・大学との連携強化
初任者であっても質の高い授業を展開するためには、教員としての基礎的な力(実践的指導力やコミュニケーション力、チームで対応する力)を大学での養成段階において十分な育成を行うことが大切です。
また、教員になってからの研修制度も能力向上には欠かせない要素であるため、学校と大学・教育委員会の連携を深める取り組みを行なっています。
学校支援に関わる関係者を広く巻き込み、常に学び続ける姿勢を持った質の高い教員の育成を目指しています。
対策③:いじめや不登校に対する支援強化
いじめや不登校による教育の機会損失を防ぐため、学校ではさまざまな取り組みが行われています。
例えば、スクールカウンセラーやソーシャルワーカーの配置を拡充したり、SNSでの相談体制の構築を図ったりしています。
また、最近では不登校児に対して、学校外の場で教育の機会を提供する民間団体の取り組みを支援する動きもあります。
世界の課題

主な課題として、以下の2つの観点でご紹介します。
・学校に通えない子どもたちがいる
・読み書きができない大人たちがいる
課題①:学校に通えない子どもたちがいる
少しずつ改善されてきている傾向はあるものの、現代においても世界では学校に通えていない子どもたちがたくさん存在しています。
ユニセフの調査によると、その数は2億6,400万人。初等教育である小学校にさえ通えていない子どもたちは6,100万人に上ります。
学校に通えない理由は、主に教員の不足や貧困・紛争などであり、罪の無い多くの子どもたちが犠牲になっています。
課題②:読み書きができない大人たちがいる
日本人の識字率は100%と言われていますが、これも世界では決して当たり前のことではありません。
世界では、7億5,000万人ほどの成人が読み書きができず、さらにその3分の2は女性が占めているという、男女格差の問題もはらんでいます。
社会や文化の習慣で、教育の機会が奪われ、成人してからも読み書きができないために、就職することができなかったり、できたとしても肉体労働などの過酷な仕事に就かざるを得なかったりと、負の連鎖が起こっています。
課題に対する対策
上記課題に対して講じられている対策について、それぞれ見ていきましょう。
対策①:教育を受けられる環境の構築
世界の多くのNGOやNPOが、発展途上国における学校の設立や教員育成の支援を行なっています。
例えば、国際協力NGOのワールド・ビジョンでは、チャイルド・スポンサーシップを通じて、学校に井戸や給水タンクを設置する支援を行い、学校に通える子どもたちを増やす取り組みを行なっています。
また、教員住宅を充実させることで多くの教員を集める仕組みを作るなど、質の高い授業を行うための教員への支援にも力を入れています。
対策②:男女の教育格差を無くす取り組み
発展途上国では、過酷な家事労働を強いられ、教育を受けられない女性がたくさんいます。
実際にアフリカでは、炊事や洗濯、水や食料の運搬などで、女性は男性の2倍の時間を家事に費やしているという調査結果もあります。
そうした現実を少しでも改善していくために、国際協力NGOのプラン・インターナショナル・ホームでは、女性の教育や職業訓練に役立てる寄付活動を行なっています。
また、学校に女性トイレを設けるなど、女性が学校に通いやすくなるような環境を整える活動も行われています。
SDGs4達成のための企業の取り組み事例

SDGsの達成を目指して、実際に企業ではどんな取り組みが行われているのでしょうか。
近年、ESGへの注目度も高まる中で、企業はさまざまな手法で事業を通じたSDGsの達成を目指しています。
教育問題への取り組みというと、教育に関わる業界だけが対象と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
教育とは全く関連のない事業を行なっている企業であっても、SDGs4に貢献する活動を行うことは可能です。
具体的に3社の事例をご紹介しましょう。
企業事例①:株式会社栄光
栄光ゼミナールなどの学習塾を展開する株式会社栄光では、「栄光サイエンスラボ」という科学実験専門教室を運営しています。
栄光サイエンスラボでは、科学実験を通して、子どもたちの未来を切り開く力(問題発見力・問題解決力・論理的思考力・表現力・想像力)を養うことを目的としています。
通常の授業のみならず、さまざまなオリジナルイベントも展開し、子どもたちに質の高い教育を提供しています。
企業事例②:日清医療食品株式会社
給食の受託業務や医療用食品の販売を行う日清医療食品株式会社では、キャリア教育教材の「おしごと年鑑」に協賛を行なったり、子どもを対象にした食育イベントを開催するなどの取り組みを行なっています。
食育の他にも、手洗いや食中毒予防を啓蒙する活動なども展開し、子どもたちの知識の向上に貢献しています。
企業事例③:株式会社電通
広告事業を行う株式会社電通では、「広告小学校」と銘打った教育事業を行なっています。
「広告小学校」は、一般的に企業担当者が学校に赴いて行う出前授業ではなく、学校の先生が主体となって行うプログラムになっています。
具体的な内容としては、CMの知識習得のほか、実際にCMを作ってみる実践プログラムなど、子どもたちのコミュニケーション能力を養うことを目的として設計されています。
教育は子どもたちの未来を創る礎

今回は、SDGs4「質の高い教育をみんなへ」について詳しく解説しました。
日本では義務教育が導入されており、識字率も100%を達成していることから、他のSDGsの項目に比べると、教育に関する課題意識は薄いかもしれません。
しかし、SDGsでは単なる教育の機会の創出だけを目的としているわけではなく、平等な教育を受けられるための格差の是正や、質の高い教育を受けるための教員への支援などについても言及されています。
教育は子どもたちが将来自立して生きていくために欠かせない要素であり、誰もが平等に機会を与えられるべきものです。
いかなる環境であっても教育を満足に受けられる世界を創るために、私たちは今何ができるのか、改めて考える機会を作ってみませんか?