2030年までに達成すべき国際的な目標、SDGs。17ある目標の16番目は「平和と公正をすべての人に」です。近年はアジアでのクーデターや人権問題が大きく注目されています。世界や日本の進捗や日本企業の取り組みを解説します。
SDGsとは?

最近よく耳にするSDGs(エスディージーズ)とは、「Sustainable Development Goals」の略。2015年9月の国連サミットで採択された国際的な目標です。日本語では「持続可能な開発目標」と呼ばれており、国連加盟国である193の国が2030年までに達成しなければなりません。
SDGsの目標(Goals)は全部で17。健康や福祉、環境問題、人権問題など、さまざまな分野の目標があります。
それぞれの目標は独立したものではなく、関連し合いながら「誰一人取り残さない」持続可能な世界の実現を目指すものです。SDGsの目標には、それぞれ具体的な取り組みを示す169のターゲットと232の指標もあります。
それぞれの項目に関する各国の達成度は、国連による「Sustainable Development Report」という公式サイトでチェックできます。
SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」とは?

SDGsの目標16では、世界の平和と公正さの達成を目指します。目標16には暴力による死亡率の減少、子どもの虐待や搾取の撲滅、司法への平等なアクセスに関わる12のターゲットがあります。
SDGs目標16と12のターゲット
SDGsの目標16は「平和と公正をすべての人に(Peace, justice and strong institutions)」。「持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」という目標です。
また、SDGsには各目標に対して、目標達成のための指標をターゲットとして定めています。SDGS16のターゲットは以下の12個です。
16.1 | あらゆる場所において、全ての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる。 |
16.2 | 子供に対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する。 |
16.3 | 国家及び国際的なレベルでの法の支配を促進し、全ての人々に司法への平等なアクセスを提供する。 |
16.4 | 2030年までに、違法な資金及び武器の取引を大幅に減少させ、奪われた財産の回復及び返還を強化し、あらゆる形態の組織犯罪を根絶する。 |
16.5 | あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少させる。 |
16.6 | あらゆるレベルにおいて、有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる。 |
16.7 | あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保する。 |
16.8 | グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する。 |
16.9 | 2030年までに、全ての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する。 |
16.10 | 国内法規及び国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する。 |
16.a | 特に開発途上国において、暴力の防止とテロリズム・犯罪の撲滅に関するあらゆるレベルでの能力構築のため、国際協力などを通じて関連国家機関を強化する。 |
16.b | 持続可能な開発のための非差別的な法規及び政策を推進し、実施する。 |
16.1〜16.10はSDGs目標16の達成に向けたより具体的な目標を、10.a〜10.bは具体的な手段を示しています。
言葉として登場してはいませんが、目標16における不正を減らす、法の支配を促進するといった点は「コーポレート・ガバナンス」でも重要です。
「コーポレート・ガバナンス」とは?

コーポレート・ガバナンスは、日本語では「企業統治」とも言われます。これは、企業による不正を防ぐために社外取締役や社会監視役などを置き、自社の経営を監視させる仕組みのことです。
日本では金融庁と東京証券取引所が「コーポレート・ガバナンス・コード」を公表しており、上場企業は従うことが求められます。つまり、コーポレート・ガバナンスは、ESG投資のG(ガバナンス)にもあたる重要な項目なのです。
違法なやり取りがある、社会倫理や企業倫理に反することを行っているといった問題が生じれば、コンプライアンス違反となり、社会での信頼は大きく損なわれるでしょう。
しかし、コーポレート・ガバナンスがきちんと機能すれば、企業の競争力や企業価値の向上につながります。
ターゲット16.7「対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定」

グローバル・ガバナンス以外にもSDGs目標16で重要な表現があります。
たとえば、ターゲット16.7に登場する「対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定」(responsive, inclusive, participatory and representative decision-making)です。
何を意味しているかを知るために、ターゲット16.7に設定されている2つの指標を見てみましょう。
1つめの指標は、「国全体における分布と比較した、国・地方の公的機関((a) 議会、(b) 公共サービス及び(c)司法を含む。)における性別、年齢別、障害者別、人口グループ別の役職の割合」となっています。
つまり、性別や年齢、障害、その他さまざまなグループの人々が、国や地方の議会・公的サービス・司法機関にどの程度の割合で入っているかをチェックすることです。
2つめの指標は、「国の政策決定過程が包摂的であり、かつ応答性を持つと考える人の割合(性別、年齢別、障害者及び人口グループ別)」です。
この指標は、国の政策決定過程について、性別や年齢、障害、その他さまざまなグループの人々の状況や意見が反映されていると考える人がどのくらいいるかを見ようとしています。
2つの指標から、ターゲット16.7は公正さに関する目標であり、さまざまな人の状況や意見が国や地域の意思決定に反映されるよう求めていることがわかります。
ターゲット16.8「グローバル・ガバナンス機関」
ターゲット16.8には「グローバル・ガバナンス機関」という言葉も登場します。「グローバル・ガバナンス」とは、世界で生じているさまざまな問題を国際的な協力をもって解決していくことです。
グローバル・ガバナンス機関としては、以下のような機関があります。
国連総会(UNGA/GA) | アフリカ開発銀行(AfDB) |
国連安全保障理事会(UNSC) | アジア開発銀行(ADB) |
国連経済社会理事会(ECOSOC) | 米州開発銀行(IDB) |
国際通貨基金(IMF) | 世界貿易機関(WTO) |
国際復興開発銀行(IBRD) | 金融安定理事会(FSB) |
国際金融公社(IFC) |
国連安全保障理事会・国際通貨基金・世界貿易機関は、日本のニュースでも耳にすることが多い国際機関でしょう。
一方、国際復興開発銀行・アフリカ開発銀行・アジア開発銀行・米州開発銀行は、対象地域での貧困を減らし経済的成長を支援する国際開発金融機関。国際金融公社は、開発途上国における民間プロジェクトを支援しています。
これらのグローバル・ガバナンス機関における開発途上国のメンバー数および投票権の割合を増やすことで、ターゲット16.8が達成されます。
SDGs 16を取り巻く現状

では、国連のSDGs進捗報告サイト「Sustainable Development Report」からSDGs目標16の達成状況を見ていきましょう。「Interactive Map」の画像とともに解説します。
SDGs 16を取り巻く現状【世界編】

SDGs目標16を2020年のうちに達成した国・地域は、アイスランド、アイルランド、オーストリア、スロヴェニア、フィンランド、日本。上の画像で緑色になっている部分です。しかし、世界の大部分の状況は赤色。かなり悪い状況といえるでしょう。
たとえば、国際法で守られているにもかかわらず武力衝突によって殺される市民は1日あたり約100人。これには女性や子どもも含まれています。
これに対して、殺人の発生率は緩やかに減少し、2018年には人口10万人あたり5.8人となりました。しかし、依然として毎年約44万人が犠牲となっており、特にサハラ以南のアフリカと南アメリカ、カリブ海諸国で大きな問題となっています。
下の画像は、2030年までの殺人発生率の変化を予測したグラフです。アジア、オーストラリア、北アメリカおよびヨーロッパでは減少を続けるだろうとされていますが、サハラ以南のアフリカやオセアニア、南アメリカ、カリブ海諸国では殺人率は増加するという見込みです。

子どもに対する暴力、虐待、強制労働については、なかなか確実なデータを得るのが難しい状況です。しかし、2012年から2019年までの低・中所得の国を中心とした69か国では、14歳までの子どもの8割が家庭内で心理的攻撃や体罰を受けているというデータがあります。
また、COVID-19の流行により、一部の国では家庭内での子どもに対して暴力が振るわれたという報告が急増しているようです。
子どもの違法売買は主に性的搾取や強制労働を目的に行われています。2016年のデータでは分かっている限りでも人身売買の被害者のうち3人に1人が子どもでした。現在も子どもの違法売買が行われており、適切な処罰を行わない国や地域が存在しています。
ただ、少しずつ摘発や有罪判決が増えているとのこと。より一層の取り組みが期待されています。
公正な裁判という点については、裁判で未決のまま投獄されいる人の割合を見る限り、2005年から状況が改善されていません。国際的には、「合理的な短期間での裁判」が保証されているはずですが、世界の囚人31%が未決のまま拘留されているからです。
裁判で有罪判決のないまま投獄される人の割合は、特にアジアとオセアニアで大幅に増加しました。
以下ののグラフは刑務所の収容人数に関するものです。データが入手可能な190か国のうち、6割以上が収容人数以上の囚人を抱えており、28%は収容人数の150%という過密状態であることが分かりました。

2020年は、狭い場所に多くの人がいること、適切な医療を受けにくいことなどから、世界中で刑務所でのCOVID-19感染拡大も見られました。
SDGs 16を取り巻く現状【日本編】

日本政府ではSDGs達成に向けて「SDGs推進本部」および「SDGs推進円卓会議」を設置しています。SDGs推進本部は全ての閣僚が構成員となっており、SDGs推進円卓会議は本部の下にある有識者による組織です。
SDGs推進本部ではSDGs実施指針の策定や改定、「SDGsアクションプラン」などを作成。「ジャパンSDGsアワード表彰」では、SDGsに取り組んだ好事例を表彰しています。
日本におけるSDGs達成に向けた主な取り組みは、公式ポータルサイト「JAPAN SDGs Action Platform」にまとめられています。
日本のSDGs全体の達成度は17位
国連の「Sustainable Development Report」によれば、日本のSDGs進捗ランキングは国連加盟国193か国の中で第17位。スコアは100点満点中79.17点です。日本はSDGsの目標4、9、16の3つを達成しました。
目標16達成にあたって、6つの項目(殺人発生率、未決の拘留者の割合、社会の安全性を感じている人の割合、汚職、自由度、囚人の人数)で進捗が見られます。このうち、過去の状況と比較できるグラフが公表されているのは、殺人発生率、未決の拘留者の割合、汚職、自由度、囚人の人数です。

ただし、レポートのinteractive mapで各項目のグラフ(上図)を確認すると、いくつかの項目であまり楽観視できない状況が見えてきます。
たとえば、未決の拘留者の割合については2006年から2009年で13.57%から10.83%に減少。2018年時点で11.27%まで増加したものの、まだ2006年の水準に達していません。汚職では、100点満点中70点以上を維持していますが、2012年以降では2014年の76点が最高。2019年は73点となっています。
目標16の各項目について、引き続き状況改善や悪化に転じないための取り組みが必要。同時に、世界全体で大きな問題となっている殺人発生率、児童の労働、汚職、自由度の改善のため、国際的協力が求められるでしょう。
なお、SDGs目標4では質の高い教育の実現を目指しています。これは目標16とも密接に関係している目標。目標4に関する状況については、以下の記事をご覧ください。
SDGsの目標16に関する日本での取り組み
日本におけるSDGs目標16への今後の取り組みについては、SDGs推進本部が作成した「SDGsアクションプラン2021」で確認できます。その一部をまとめたのが以下の表です。
法務省 | いじめや虐待などの子どもの人権侵害について、SOSミニレター事業を充実させ、SNSを活用した人権相談体制の整備等を行う 満期釈放者対策をより充実させ、就労・住居の確保、保健医療・福祉サービス利用の促進、修学支援等を行い、再犯防止対策を推進する 無戸籍者の実態把握を行うとともに、各地に相談窓口を設置する 日本法令の外国語訳を整備し、質の高い法令翻訳を計画的に発信・公開する 開発途上国に対する法整備支援を行う 外国人・障害のある人の人権尊重をテーマとする啓発活動を行う |
厚生労働省 | 児童虐待を防止するため、児童福祉司等の確実な増員や医師・弁護士の配置支援を拡充する スクールソーシャルワーカー等による学校・教育委員会の体制強化を行う 一時保護の里親を含む受け皿確保並びに一時保護所の環境整備及び職員体制の強化を行う 児童虐待防止のため、司法関与の仕組みの適切な運用を促進する 児童虐待防止のため、AIを活用したツールを開発する |
外務省 | 国連ボランティアを通じて平和構築などの分野で支援活動を行う 国際機関等と連携し、ベネズエラからの多数の難民・移民、ベネズエラ国内の帰還民・国内避難民の安全保障を支援する 「子どもに対する暴力撲滅グローバル・パートナーシップ」(GPeVAC)に積極的に関与する 難民受入国における難民の受入能力強化支援を行う 国連難民高等弁務官事務所を通じて、難民に対する国際的保護、物的支援・自立援助、難民問題解決のための活動促進と調整、難民及び無国籍者保護のための条約の締結促進等を行う |
目標16に対する日本の取り組みとしては、児童虐待・学校でのいじめや暴力への対策とともに、紛争などを抱える国およびそこからの避難民に対する支援等が多く見られます。
SDGs 16達成のための企業の取り組み事例

日本国内の企業も、SDGsの目標16達成に向けてさまざまな取り組みを行っています。
外務省「JAPAN SDGs Action Platform」の「取組事例」より、目標16に関する企業の取り組み事例を2つご紹介しましょう。
企業事例1:スタイル・エッジグループ
士業・師業を中心とする専門機関や専門家に特化したコンサルティング・マーケティング支援を行うスタイル・エッジグループは、「人と人が互いに認め合える、社会的弱者のいない社会」の実現に向けて事業を展開しています。
同グループの事業でSDGs目標16に関係するのは、「士業・師業に特化したコンサルティング」「不動産コンサルティング」「システム開発」「メディア開発」などです。
コンサルティングでは、問題を抱えるかたと専門家をつないで社会問題や不動産関係の問題の解決に寄与。システム開発では、一般の人々が司法にアクセスしやすくなることを目指しています。メディア開発では、専門家や専門機関と協力することで交通事故被害に関する正しい情報を発信中です。

また、社内託児所(わ〜ママStyle Kids)を設置し、安心して子育てできる仕組みも整えました。
企業事例2:株式会社オリエンタルゴールド
株式会社オリエンタルゴールドは、ブランド品・革製品・毛皮・骨董品などの総合リユースや貴金属地金のリサイクルを手がける企業。青山に本店を構え、3R(リサイクル・リユース・リデュース)の一環として日本で生まれた中古品を世界の国々に輸出しています。
中古品として引き取った品物には、そのまま日本でまた販売できるものもありますが、「日本では売れない物」が出てくるのも現実です。オリエンタルゴールドは、そうした物品を必要としている国に向けて輸出し、開発途上国で安価で供給してきました。
同時に、中古品を海外で販売した利益で300人分の通学バッグや学習教材を寄贈。カンボジアでは、遊び道具のプレゼントや現地での花火の打ち上げなども実施しました。
社内の平和と公正は実現できていますか?

「平和と公平をすべての人に」というSDGsの目標16では、子どもたちが暴力を受けたり搾取されたりしないための環境整備やサポート、司法への平等なアクセス、犯罪組織の撲滅、情報への公共アクセスの確保などが重視されています。
企業経営でまず取り組めるのはコーポレート・ガバナンス。同時に、法律に関する相談窓口や、ハラスメント相談窓口などを設置することも目標16への取り組みになります。
以前は「上司の言うことは黙って聞きなさい」「それくらい我慢しなさい」と言われてきたさまざまなことが、今は「きちんと相談できる体制をつくろう」という流れになっています。
社員がトラブルを抱えていないか、問題解決のために会社ができる施策はないかなど、SDGs目標16の観点からあらためて見直してみましょう。