国際的な取り組みであるSDGsとは「持続可能な開発目標」と呼ばれる17の目標のこと。SDGsの目標2は「飢餓をゼロに」ですが、具体的にはどのようなことに取り組めばよいのでしょうか。世界の状況とともに日本政府や企業による取り組み事例を紹介します。
SDGsとは?

SDGs(エスディージーズ)とは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標」の略で、国連に加盟する193の国が2030年までに達成すべきとされている目標のこと。2015年9月の国連サミットで採択されました。
SDGsには全部で17の目標(Goals)があり、格差是正や健康で安全な暮らし、環境問題への取り組み、生物多様性の維持、社会の発展と持続などが含まれます。17の目標はそれぞれに関連し合い、全体として「誰一人取り残さない」持続可能な世界をつくっているのが特徴です。

また、SDGsのそれぞれの目標には「ターゲット」と呼ばれる具体的な目標があり、どのくらい達成したかを計る指標も設定されています。17の目標全体で、169のターゲットと232の指標があります。
SDGsの達成状況については、「Sustainable Development Report」でいつでも確認可能です。
SDGsの目標2「飢餓をゼロに」とは?

17あるSDGsの2つめの目標は「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」です。これには、すべての人に安全で栄養のある食料を確保する、栄養不足を解消する、持続可能な農業を進めるなど、8つのターゲットが含まれています。
2.1 | 2030 年までに、飢餓を撲滅し、すべての人々、特に貧困層及び幼児を含む脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食料を十分得られるようにする。 |
2.2 | 5 歳未満の子どもの発育阻害や消耗性疾患について国際的に合意されたターゲットを2025 年までに達成するなど、2030 年までにあらゆる形態の栄養不良を解消し、若年女子、妊婦・授乳婦及び高齢者の栄養ニーズへの対処を行う。 |
2.3 | 2030年までに、土地、その他の生産資源や、投入財、知識、金融サービス、市場及び高付加価値化や非農業雇用の機会への確実かつ平等なアクセスの確保などを通じて、女性、先住民、家族農家、牧畜民及び漁業者をはじめとする小規模食料生産者の農業生産性及び所得を倍増させる。 |
2.4 | 2030 年までに、生産性を向上させ、生産量を増やし、生態系を維持し、気候変動や極端な気象現象、干ばつ、洪水及びその他の災害に対する適応能力を向上させ、漸進的に土地と土壌の質を改善させるような、持続可能な食料生産システムを確保し、強靭(レジリエント)な農業を実践する。 |
2.5 | 2020年までに、国、地域及び国際レベルで適正に管理及び多様化された種子・植物バンクなども通じて、種子、栽培植物、飼育・家畜化された動物及びこれらの近縁野生種の遺伝的多様性を維持し、国際的合意に基づき、遺伝資源及びこれに関連する伝統的な知識へのアクセス及びその利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分を促進する。 |
2.a | 開発途上国、特に後発開発途上国における農業生産能力向上のために、国際協力の強化などを通じて、農村インフラ、農業研究・普及サービス、技術開発及び植物・家畜のジーン・バンクへの投資の拡大を図る。 |
2.b | ドーハ開発ラウンドの決議に従い、すべての形態の農産物輸出補助金及び同等の効果を持つすべての輸出措置の並行的撤廃などを通じて、世界の農産物市場における貿易制限や歪みを是正及び防止する。 |
2.c | 食料価格の極端な変動に歯止めをかけるため、食料市場及びデリバティブ市場の適正な機能を確保するための措置を講じ、食料備蓄などの市場情報への適時のアクセスを容易にする。 |
2.1〜2.5は目標2の具体的な目標を、2.a〜2.cは達成のための手段を示しています。
SDGs 2を取り巻く現状

国連によるSDGsのポータルサイト「Sustainable Development Report」では、「Interactive Map」から世界各国・各地域のSDGsに関する進捗状況を視覚的に把握することができます。これは色が濃い赤色になるほど大きな課題が残っているというもの。Interactive Mapと報告書から、世界全体の状況と日本の進捗状況を見ていきましょう。
SDGs 2を取り巻く現状【世界編】

「Sustainable Development Report」によれば、2020年末までにSDGsの目標2を達成した加盟国はありません。ほぼ全ての国が「重要な課題が残っている」または「大きな課題がある」のいずれかの状態。SDGsの達成率が高い北欧諸国も同様です。
国際連合食糧農業機関(FAO)「世界の食糧安全保障と栄養の現状」2020年版では、現在、世界人口の8.9%(約6億9000万人)が飢餓に苦しんでいるとされています。飢餓人口は2014年から増加を続けており、このままでいくと2030年には8億4000万人を超えるという推定です。
安全で栄養価が高く十分な量のある食事をとれない人々は世界に20億人、健康的な食事ができていない人は世界に30億人以上。SDGsの目標2達成からは遠い状況です。
飢餓人口の割合が高いのは今のところアジアが中心。しかし、2030年までにはアフリカが飢餓人口の中心になるかもしれません。アジアでは問題の改善が見込まれる一方、アフリカのほとんどの地域で5歳以下の子の発達阻害・栄養不良・低体重の問題が深刻になっているためです。
SDGs 2を取り巻く現状【日本編】

日本政府では、SDGsの取り組みのために全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を設置。その下に、有識者が意見交換を行う「SDGs推進円卓会議」を設置しました。
2020年末までに9回の会合が行われ、SDGs実施指針の策定や改定、毎年のSDGsに関するアクションプランの決定、「ジャパンSDGsアワード表彰」などを行っています。
日本でのSDGsに対する具体的な取り組みは、外務省による専用プラットフォーム「JAPAN SDGs Action Platform」にまとめられています。
日本のSDGs達成度は世界17位
「Sustainable Development Report」によれば、日本のSDGs進捗ランキングは193か国中17位。100点満点中79.17点でした。SDGsの目標4、目標9、目標16を達成しています。
目標4 | 質の高い教育をみんなに |
目標9 | 産業と技術革新の基盤をつくろう |
目標16 | 平和と公正をすべての人に |
一方、今回ご紹介しているSDGsの目標2については、改善が見られるものの重要な課題がまだ残されているという評価でした。
目標2のターゲットや指標の進捗を見ていくと、日本は栄養不良に関するターゲットは達成しました。しかし、持続可能な食料生産システムの確保に課題があり、たとえば化学肥料の使用などによって自然界の窒素循環のバランスが崩れて湖や沼の汚染につながっているなどの問題が見られます。
なお、他の目標の取り組み状況については、以下の記事などでも解説しています。
SDGsの目標2に関する日本政府の取り組み

日本政府は、2021年のSDGsに対する取り組みとして「SDGsアクションプラン2021」を発表しました。以下の4つを重点事項に設定しています。
Ⅰ.感染症対策と次なる危機への備え
出典元:SDGs推進本部「SDGsアクションプラン2021」
Ⅱ.よりよい復興に向けたビジネスとイノベーションを通じた成長戦略
Ⅲ.SDGsを原動力とした地方創生、経済と環境の好循環の創出
Ⅳ.一人ひとりの可能性の発揮と絆の強化を通じた行動の加速
目標2への具体的な取り組みは外務省や農林水産省が中心ですが、厚生労働省も「東京栄養サミット」に向けたテクニカルセッション開催など重要な役割を担っています。
外務省 | 国連ボランティアを通じた食料安全保障などの支援 学校給食による栄養改善 ユニセフを通じた支援 アフリカ地域の食料安全保障と栄養改善支援 「東京栄養サミット」の開催など |
農林水産省 | 国内の食育の推進 農林水産業の支援 栄養改善ビジネスに対する国際展開支援など |
厚生労働省 | 「東京栄養サミット」に向けたテクニカルセッションの開催 栄養政策に関する国際貢献に必要な調査・分析・人材育成など |
なお、持続可能な食料生産システムの確保については、農林水産省による有機農業の総合的な推進計画があります。直接的な対策として提示されたものではありませんが、有機農業では化学肥料を使わないため、窒素による湖沼汚染の軽減につながると期待されます。
政府によるこうした取り組みは、企業のESGやSDGs達成に向けた取り組みとして重要なもの。特に、目標2はESGの「S」と深く関わっています。詳しくは以下の記事をご覧ください。
「東京栄養サミット」とは

ここで、「SDGsアクションプラン2021」に登場する「東京栄養サミット」について簡単にご紹介しましょう。
東京栄養サミットとは、国連の栄養に関する活動の一環として開催されるサミットです。もともとは2020年に開催予定でしたが、コロナ禍の影響で2021年12月に延期となりました。日本政府の後援で開催します。
サミットでは、さまざまな分野の関係者を集め、栄養への最終的な資金的・政策的コミットメントを発表し、国際社会に対して具体的な提言やロードマップの提示を行います。ここでコミットメントを発表する関係者には、政府だけでなく企業や企業団体も含まれます。
サミットのポイントは、取り組みが重視されている分野が3つあること。栄養サービスへの投資、食料システムの構築、および栄養不良への効果的な対策です。これらの分野の特定は日本政府が行いました。
サミットの終わりには、成果文書として「栄養コンパクト」(略称「コンパクト」)が発表されます。
開催の詳細情報は、公式サイトで順次公開予定です。
SDGs 2達成のための企業の取り組み事例

企業も含めた日本全体のSDGsへの取り組みを知るには、「JAPAN SDGs Action Platform」の「取組事例」が便利。目標ごとに事例を検索できます。
今回は、目標2に対する企業の取り組み事例を2つご紹介します。
企業事例1:小川珈琲株式会社

小川珈琲株式会社では、SDGsの目標2に関して3つの取り組みを行っています。
1つめは、フェアトレード。生産者がきちんと生活できるよう、公正な価格で取引を行う国際的な取り組みです。
小川珈琲では2004年に国際フェアトレード認証ラベル商品の製造ライセンスを取得し、販売を開始。毎年5月をフェアトレード月間として、直営店での特別メニューの提供や国際フェアトレード認証コーヒーの販売なども実施しています。
2つめは、有機JAS認証の取得です。有機JAS認証とは、化学肥料などを使わずルールに基づいて生産されていることを農林水産省が認証するもの。小川珈琲の京都工場は2001年に認証され、持続可能なコーヒー栽培の環境作りに取り組んできました。
3つめは、オランウータンコーヒーの販売です。小川珈琲では2017年から販売しています。
オランウータンコーヒーの始まりは、森林火災や違法伐採などが原因で絶滅危惧種となってしまったインドネシアのスマトラオランウータン・タパヌリオランウータンを守る活動でした。高品質なコーヒーの生産を通して、自然環境保護や現地の生産者の生活を豊かにする取り組みです。
企業事例2:日本航空株式会社
日本航空株式会社でも、SDGsの目標2に関して複数の取り組みを行っています。
1つめの取り組みは、ユニセフ支援。日本航空を利用したことのある人なら、機内募金「Change for Good (R)」や空港ラウンジのユニセフ募金箱を見かけたことがあるのではないでしょうか。こうした機内・空港での募金の他、街頭募金にも社員がボランティアとして参加しています。
2つめの取り組みは、特定非営利活動法人 TABLE FOR TWO International(TFT事務局)による日本発の社会貢献プログラム「TABLE FOR TWO プログラム」への参加です。

このプログラムは、対象メニューを注文すると一定の金額が寄付され、発展途上国の子どもたちの学校給食にあてられるというもの。日本航空の社員食堂で実施しており、1品につき20円が寄付される仕組みです。
3つめの取り組みは、安全な機内食の提供。世界各地の機内食調製会社を日本航空の栄養監査員が訪問・監査しています。「安全であり、栄養価が高いこと」「生産段階での人権リスクが高い農作物とされていないこと」などを条件とした「未来の食材50」を定め、こうした食材を使った機内食を提供しています。
いつも利用するものをサステナブルに

SDGsの目標2「飢餓をゼロに」は、日本においては少し遠い話のように聞こえるかもしれません。しかし、ここで設定されているターゲットや指標には、栄養不良や発育阻害だけでなく、食料生産システムが持続可能かという点も含まれています。
私たちの知らないところで、不当な価格設定が原因で生産者の生活が脅かされる、生産にあたって環境に大きな負荷をかけているといったことがあるかもしれません。また、紛争や災害によって十分な食事ができない人々の姿もあります。
しかし、会社の飲み物をフェアトレード商品や有機栽培の商品に変更する、TABLE FOR TWO プログラムに参加する事業者を積極的に利用するなど、少しの工夫によって世界の飢餓や貧困、持続可能な生産システムの構築などを後押しできます。
SDGs目標2「飢餓をゼロに」の達成に向け、まずは「会社でいつも利用しているもの」から見直してみませんか?